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天才・藤井聡太二冠(現在18歳)は史上最年少(21歳7か月未満)で九段に昇段できるか?

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 将棋界のさまざまな記録を更新し続ける藤井聡太二冠(18歳)。銀河戦でもまた、史上最年少優勝記録を打ち立てました。

 それ以前の記録保持者だった渡辺明名人は、次のようにブログに記しています。

藤井二冠が銀河戦に優勝したことで、それまでは自分の21歳4か月が最年少優勝だったことを知ったんですが、21歳7か月の最年少九段もあとタイトル1期で更新されますね。それが破られると、自分が持っている最年少系の記録は全滅しますw

出典:渡辺明ブログ

 今から15年前の2005年。新聞では以下のように報道されました。

渡辺竜王4連勝、初防衛を果たす 21歳と7カ月で史上最年少九段に

将棋の第18期竜王戦七番勝負(読売新聞社主催)の第4局は29、30の両日、熊本県玉名市で指され、渡辺明竜王(21)が挑戦者の木村一基七段(32)を101手で破り、4連勝で初防衛を果たした。また竜王位を2期獲得したことで30日付で九段に昇段。21歳7カ月での九段は、谷川浩司九段の21歳11カ月を抜き最年少記録となる。(中略)今年の第13期銀河戦では谷川九段、羽生善治四冠、森内名人を破って優勝。(後略)

出典:「毎日新聞」2005年12月1日朝刊

 谷川九段は1983年、史上最年少21歳で名人位に就きました。そして当時の規定により、翌1984年4月1日付で史上最年少の九段に昇段しています。渡辺現名人はその記録を更新したわけです。

 銀河戦優勝と九段昇段。渡辺現名人が2005年に打ち立てた2つの最年少記録のうち、銀河戦優勝は藤井二冠によって更新されました。

 では、九段昇段はどうなるでしょうか。

 例によって、藤井二冠自身はこうした記録にほぼ興味がないと思われますが、観戦する側の視点の一つとして、その可能性をたどってみたいと思います。

藤井二冠、史上最年少九段までのリミットは約3年

 2020年夏。藤井七段(当時)は棋聖五番勝負、王位戦七番勝負を立て続けに制し、タイトル通算2期獲得。規定により、八段に昇段しました。

 加藤一二三八段の18歳八段は「空前絶後」とも言われた記録でした。かつては基本的に、順位戦でA級に昇級するより八段昇段の道はありませんでした。それをなんと18歳で達成。現在B級2組に所属する藤井二冠であっても、加藤九段の18歳A級の記録を抜くことはできません。まさに空前にして絶後といえそうな大記録です。

 現在は順位戦以外にも昇段の道が開かれています。八段昇段の条件の1つとしては、タイトル2期獲得があります。藤井現二冠はそのハードな条件を18歳でクリアして、加藤九段の記録をわずかに上回り、史上最年少記録を更新しました。

 時代背景が違いますので、加藤九段と藤井二冠の記録を一概に比較することは難しいのですが、どちらも将棋史上に燦然と輝く偉大な記録であることに違いはありません。

 八段から九段への昇段については、以下の規定があります。

・竜王位2期獲得

・名人位1期獲得

・タイトル3期獲得

・八段昇段後公式戦250勝

 タイトルをすでに2期獲得している藤井二冠にとって、もっとも早く実現する可能性が高いのは「タイトル3期獲得」です。

 藤井二冠は今年度残されたタイトル戦(王将戦、棋王戦)はすでに敗退しています。

 来年度はタイトルを保持している棋聖戦と王位戦で防衛戦をたたかうことは確定しています。どちらかで防衛を決めれば、タイトル3期達成です。

 藤井二冠の誕生日は7月19日。棋聖戦五番勝負で早めの防衛となれば、18歳のうちに九段昇段となります。

 いずれにせよ、渡辺名人の史上最年少記録21歳7か月までには、約3年ほどの時間があります。藤井二冠のここまでの活躍を考えれば、記録更新の可能性は非常に高いと言ってよさそうです。

「それが破られると、自分が持っている最年少系の記録は全滅しますw」

 そんな渡辺名人の言葉に補足をすると、九段昇段の記録更新をもって「全滅」というわけでもなさそうです。

 たとえば今からほぼ12年前、2008年12月18日に竜王位5連覇で達成された、史上初にして史上最年少の永世竜王(24歳7か月)資格取得はどうでしょうか。いかに藤井二冠であっても、そう簡単には破れそうもない不滅の大記録です。

 ちなみに史上最年少で永世名人資格を得たのは中原誠16世名人で、28歳9か月のことでした。そこまで言及するのはあまりに気が早いかもしれませんが、頭の片隅にとどめておいてもいいのかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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