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怪力無双・糸谷哲郎八段(32)ハードパンチで鬼軍曹・永瀬拓矢王座(27)を倒す 棋王戦敗者復活戦

松本博文将棋ライター

 12月11日。東京・将棋会館において第46期棋王戦挑戦者決定トーナメント敗者復活戦▲糸谷哲郎八段(32歳)-△永瀬拓矢王座(27歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は16時52分に終局。結果は101手で糸谷八段の勝ちとなりました。

 糸谷八段は挑戦者決定戦二番勝負に進出。渡辺明棋王(36)への挑戦権争いは、広瀬章人八段(33)と糸谷八段の2人にしぼられました。

糸谷八段、持ち時間を半分残して強敵に快勝

 棋王戦本戦はベスト4以上からは敗者復活戦が設けられているのが特徴です。勝者組では広瀬八段が永瀬王座、糸谷八段を連破して勝ち上がりました。

 敗者復活戦はまず永瀬王座が久保利明九段に勝ち。永瀬王座と糸谷八段が生き残りをかけて戦うことになりました。

 永瀬王座は2017年度、渡辺棋王に挑戦。惜しくも2勝3敗で退けられています。

 現在はタイトルホルダーである「四強」の一角として勝ちまくっている永瀬王座。すでに王将戦七番勝負の挑戦権を得ており、もし棋王戦五番勝負にも登場となれば、渡辺明棋王・王将-永瀬挑戦者で、合わせて「十二番勝負」が見られることになります。

 一方、2014年に竜王位を獲得し、タイトル1期の経験がある糸谷八段。もしタイトル挑戦となれば、2016年王座戦以来のこととなります。

 両者の過去の対戦成績は糸谷八段1勝、永瀬王座2勝。直近では前年度朝日杯本戦1回戦で永瀬現王座が勝っています。

 本局、振り駒で先手番を得たのは糸谷八段。戦型は角換わりとなりました。

 両者ともに早繰り銀に出たあと、どちらが先に仕掛けていくのか、駆け引きのあと、先に永瀬王座が動いていきました。

 永瀬王座の銀が五段目に出たタイミングで、糸谷八段は継ぎ歩で反撃。両者が互いに言い分を通して、ほぼ互角のわかれとなりました。

 自陣を整備しようと思えばまだ手をかけられそうなところ、永瀬王座は積極的に技をかけにいきます。金銀交換のあと、糸谷陣に角、金と打ち込んで飛を取りに行き、攻めがつながったかのようにも見えました。

 しかしそこで糸谷八段はお返しのハードパンチを用意していました。それが飛車取りを放置し、さらに相手の飛車先、ただのところに銀を出る手です。もし相手がただの銀を取ってくれば、糸谷八段の飛車先が通るため、永瀬陣に成り込むことができます。

 本譜は飛車の取り合いとなりました。駒割はほとんど互角。しかしちょっとした陣形の違いと、永瀬王座が歩切れなのも痛く、永瀬玉の方がすぐに寄る形となっています。

 永瀬王座は苦しい場面でその本領を発揮します。しかし本局では、永瀬王座をもってしても粘る余地がなかったようです。

 糸谷八段は一手の余裕をいかして、すっぱりと永瀬玉を寄せていきます。

 最後、永瀬玉は実戦では珍しい打ち歩詰めの形となりました。糸谷八段は詰将棋のように打ち歩詰めを回避し、きれいに永瀬玉を詰ませました。

 持ち時間4時間のうち、消費時間は糸谷1時間57分、永瀬3時間36分。早指しの糸谷八段は持ち時間を半分も使わず、強敵の永瀬王座を打ち負かしました。

 永瀬王座は、今期棋王戦では敗退が決まりました。

 挑戦者決定戦は二番勝負。勝者組の広瀬八段は1勝、敗者復活組の糸谷八段は2連勝で、棋王挑戦権を獲得することができます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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