Yahoo!ニュース

現棋界四強の一角・豊島将之竜王(30)将棋日本シリーズ優勝! 藤井二冠、渡辺名人、永瀬王座を連破

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月23日。東京・ABEMAスタジオにおいて第41回将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦決勝▲豊島将之竜王(30歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦がおこなわれました。

 15時10分過ぎに始まった対局は16時47分に終局。結果は135手で豊島竜王の勝ちとなりました。

 豊島竜王は2016年(第37回)以来2度目の優勝。純銀のJT杯、賞金500万円、テーブルマークのパックごはん1年分が贈られました。

 また準優勝の永瀬王座には賞金150万円が贈られました。

世はまさに四強時代

 現在の将棋界はタイトルホルダーである渡辺明名人(棋王・王将)、豊島将之竜王(叡王)、藤井聡太二冠(王位・棋聖)、永瀬王座が「四強」と言われています。

 豊島竜王と永瀬王座の過去の対戦成績は豊島6勝、永瀬7勝。叡王戦七番勝負は3勝4敗(2持将棋1千日手)で豊島新叡王誕生となりました。

 一方、直近の王将戦リーグでは永瀬王座が勝っています。

 既報の通り、王将戦リーグは最終的に豊島竜王、永瀬王座が5勝1敗で並び、渡辺王将への挑戦権は、11月30日におこなわれるプレーオフによって決められることになりました。

画像

 そして両者の充実ぶりを示すかのように、日本シリーズ決勝も両者は優勝を争います。

 豊島竜王は2回戦で藤井二冠と対戦。二転三転の終盤を最後に豊島竜王が制しています。

 豊島竜王は準決勝で前年度覇者の渡辺名人と対戦し、こちらも勝利。決勝まで勝ち上がりました。

 一方の永瀬王座は久保利明九段、斎藤慎太郎八段を破っての決勝進出です。

 決勝戦が始まる前、両対局者は次のように語っていました。

豊島「非常に強敵ですけれども、自分の力を出し切って、熱戦にできるようにがんばりたいとます」

永瀬「(公式戦で)よく教えていただく印象なんですけど、今日はがんばりたいと思っています」

豊島竜王、永瀬王座の四間飛車を打ち破る

 本棋戦は和服を着ることが義務づけられています。永瀬王座は今年度のタイトル戦番勝負において、最初に和服を着て途中からスーツに着替える、あるいは最初からスーツという姿勢でした。本棋戦では最初から最後まで和服です。

 振り駒の結果「歩」が3枚出て、先手は豊島竜王となりました。これまでの両者の対戦では先手番の勝率が圧倒的によいというデータが残されています。

 豊島竜王は初手、飛車先の歩を突きます。両者は基本的に「居飛車党」です。豊島竜王はけがをしてしまったのか、小指に絆創膏が貼ってありました。

 後手番となった永瀬王座。本局では四間飛車という秘策を見せました。

永瀬「作戦ではありました」

 若手の頃には「振り飛車党」だった永瀬王座。王将戦リーグでの藤井二冠戦という大一番で久々に四間飛車を見せ、しっかりと結果を残しています。

 本局、居飛車の豊島竜王は玉を盤上隅の9九にもぐらせ、穴熊の堅陣に組みます。一方、永瀬王座は最近流行中の8一玉型を採用しました。

 永瀬王座が中央5筋から動いて中盤の戦いが始まります。

永瀬「中盤、互角かなと思ってたんですけど、それが間違ってるとけっこう修正が難しいので、そこは気になるところではあります」

豊島「序中盤、すごく難しくて、中盤はあまり自信がない局面もありました」

 互いの飛車が中央に移動して、一触即発の形。豊島竜王は相手の弱点である7筋の桂頭に向かって歩を突きます。永瀬王座はそこでどう指すか。

永瀬「まずまずとは思っていたんですが、手が難しかったですか。具体的な組み合わせがわからなかったです」

豊島「ここでどう指されるか全然わからなかったですけど・・・」

 永瀬王座は穴熊の急所である端を攻めました。両者ともに強気の応酬が続き、観戦してい側にとっても面白い展開となりました。

 早指しの本棋戦。永瀬王座はここで時間を割いて考えます。

永瀬「何を指していいのかわからなかったです」

 強襲する順も見えますが、それでは自信がなかったようです。そして永瀬王座は本意ではないながら、自陣の銀を上がって手を戻しました。

 その次の71手目。豊島竜王は2筋に出てよくはたらいているように見える角を1筋に引きます。解説の谷川浩司九段は「素晴らしい構想」と評価しました。角を転換することによって、次にいいポジションへの移動を含みとしています。また結果的にこの角は、自陣の受けによく利きました。

 リードを奪った豊島竜王。攻めては飛角交換から角を永瀬陣に打ち込んで、戦果を得ました。豊島竜王はつけいるスキを見せず、少しずつ差を広げていきます。

 永瀬王座は二枚飛車で豊島竜王の穴熊を攻略する形を作りたいところ。しかし豊島竜王の端角が受けによくはたらき、安い歩と香で防壁を作られてしまいました。

豊島「時間も短いので、安全にという感じでした」

永瀬「難しい将棋でよくわからなかったんですけど、最後、差がついてしまったのが残念だなと思います」

 豊島竜王は堅陣をキープしたまま、永瀬玉を着実に寄せていきます。永瀬王座は中空を見つめ、一局を振り返り、反省をしているような仕草を見せました。

 自玉が受けなしに追い込まれたところで、永瀬王座は投了。豊島竜王の優勝が決まりました。

豊島「自分自身の戦いを振り返りますと、この頃活躍している3名の棋士(藤井二冠、渡辺名人、永瀬王座)に勝って優勝することができたので、非常に自信になりましたし、これからまたがんばっていきたいというふうに思っています」

 表彰式で豊島竜王はそう述べていました。

 豊島竜王と永瀬王座の対戦成績は、これで7勝ずつの五分に戻りました。

画像
将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

松本博文の最近の記事