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王将位通算12期のレジェンド羽生善治九段(50)大逆転で佐藤天彦九段(32)を降しリーグ2勝目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月14日。東京・将棋会館において王将戦リーグ▲羽生善治九段(50歳)-△佐藤天彦九段戦がおこなわれました。10時に始まった対局は20時45分に終局。結果は175手で羽生九段の勝ちとなりました。

 羽生九段はこれでリーグ成績2勝0敗。王将挑戦、復位に向けてまた一歩前進しました。

 一方の佐藤九段は0勝3敗。超強力メンバーのせめぎあいの中、今期挑戦の可能性はなくなりました。

これが永世王将の底力・・・!

 羽生九段のタイトル獲得数は99期。そのうち12期が王将位です。

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 これまでに「永世王将」の資格を得ているのは、大山康晴(通算20期)、羽生善治の2人しかいません。

 大山永世王将は57歳で王将復位をはたし、59歳まで防衛というおそるべき記録も残しています。

 ちなみに佐藤天彦九段の師匠は中田功八段。大師匠が大山永世王将となります。

 羽生九段と佐藤九段の過去の対戦成績は、羽生9勝、佐藤13勝。

 羽生九段と20局以上指している棋士は25人いて、そのうち勝ち越しているのは佐藤九段ただ1人しかいません。(羽生九段-豊島将之竜王は17勝17敗で指し分け)

 両者は2015年、18年の名人戦七番勝負で対戦し、いずれも佐藤九段がシリーズを制しています。

 今期王将戦リーグ成績はここまで羽生九段1勝0敗、佐藤九段0勝2敗。羽生九段は前局、藤井聡太二冠(18歳)に劇的な勝利を収めています。

 本局は羽生九段先手で、戦型は角換わり。羽生九段が飛車先の歩を交換したのに対して佐藤九段が用意の角打ちから反発し、乱戦となりました。

 互いの飛車角が中段でせめぎ合う中盤戦。佐藤九段は角切りから王手飛車の大技を仕掛けて、局面は大きく動きます。対して羽生九段も的確に応じ、形勢に差がつかないまま難しい終盤戦となりました。

 残り時間が切迫する中、優位から勝勢を築いたのは佐藤九段でした。二枚飛車で迫られる羽生玉は粘りが難しいようにも思われます。

 しかし羽生九段はそこから底力を発揮。苦しい中で最善を尽くして逆転のチャンスを待ちます。いつしか中央5筋、羽生玉の周りには大樹が生い茂るかのように駒が集結しました。

 ただし佐藤九段の指し手は乱れず、いよいよ羽生玉の命脈も尽きたかと思われた場面が訪れます。

 両者一分将棋で迎えた142手目。佐藤九段は歩を成って羽生陣を崩します。観戦者の目にも当然のように思われたこの攻めが大逆転を招いたのですから、将棋は難しすぎます。羽生玉は中央から右辺に逃げ出す余裕を得て、形勢は一気に不明となりました。

 もうどちらが勝ってもおかしくない。そんな混沌としたところからきわどく勝利を引き寄せたのは、羽生九段でした。

 最後、羽生玉は詰むや詰まざるや。しかし受けの変化で佐藤玉への逆王手の筋が生じて、羽生玉は詰まない。奇跡のような展開で、詰みません。

 20時45分。総手数は175手。佐藤九段は羽生玉が詰まないのを見て投了しました。

 レジェンド羽生九段。2015年度以来、久々の七番勝負登場に向けて、大きな大きな2勝目をあげました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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