Yahoo!ニュース

永瀬拓矢王座(28歳)初防衛なるか? 久保利明九段(45歳)カド番をしのぐか? 王座戦第4局始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月6日9時。兵庫県神戸市・ホテルオークラ神戸において第68期王座戦五番勝負第4局▲久保利明九段(45歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 五番勝負はここまで永瀬王座2勝、久保九段1勝。第3局は永瀬王座が勝っています。

 もし永瀬王座が本局に勝つと初の防衛となります。また永瀬王座の段位は現在八段ですので、タイトル通算3期の規定を満たして九段昇段も決まります。

 久保九段が勝てば両者2勝2敗となれば最終第5局での決着となります。

 久保九段は兵庫県加古川市の出身。本局がおこなわれる神戸市は近く、ホームといえる地でしょう。

 8時42分。まず永瀬王座が対局室に入ります。タイトル戦では珍しいスーツ姿です。王座戦五番勝負では、対局者に和服着用が義務付けられているわけではありません。

 黒いマスクをしている永瀬王座。上座に着き、アルコール消毒で手をこすりあわせます。そして眼鏡をはずして拭きました。

 永瀬王座(前叡王)は、叡王戦七番勝負では最初は和服、あとでスーツに着替えるという手順を踏んでいました。王座戦五番勝負では第2局以降、初手からスーツです。

 将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦は対局者は和服を着ることになっています。一昨日4日におこなわれた準決勝、永瀬王座-斎藤慎太郎八段戦では、永瀬王座の和服姿が見られました。結果は永瀬王座が勝って決勝に進出しています。

 永瀬王座の今年度成績は21勝8敗。全棋士中対局数は1位、勝数は2位です。

 8時45分。久保九段登場。

室谷「久保九段は和服での登場ですね」

菅井「きれいな色ですね」

室谷「そうですね、(羽織は)エメラルドグリーンですか? かっこよく」

 ABEMA解説菅井竜也八段と室谷由紀女流三段がそんな話をしていました。

 久保九段の今年度成績は14勝10敗。直近では棋王戦本戦トーナメントで屋敷伸之九段に勝ってベスト8に進出しています。ここを勝ち進んでいくと、また永瀬王座と当たる可能性もあります。

 両対局者ともに駒を並べ終えたあと、しばし静寂。対局開始の時間を待ちます。

 本局の立会人を務めるのは福崎文吾九段。1991年の王座戦五番勝負では谷川浩司王座(当時)に挑戦しました。2勝2敗で迎えた第5局は千日手となり、その指し直し局。福崎挑戦者は最終盤で将棋史に残る妙手△9六桂を放ちます。

画像

 ドラマチックな展開の末に、福崎王座誕生となりました。翌1992年、福崎王座は羽生善治挑戦者に王座を明け渡し、以後は実に19期という長き間「前王座」の立場にありました。

 9時。

「定刻になりました。第68期将棋王座戦五番勝負第4局は挑戦者・久保九段の先手番でお願いします」

 福崎九段が声をかけて両対局者「お願いします」と一例。対局が始まりました。

 久保九段、永瀬王座ともにまずは角道を開けます。まずは振り飛車党の久保九段が本局ではどういう作戦を取るのかが注目のポイントでした。

 3手目。久保九段は端1筋の歩を突きました。このあたりは難しい序盤の駆け引きです。対して永瀬王座も端を突き返します。現代最前線の感覚で、ここまでは久保九段先手の第2局とまったく同じ進行。以前であれば居飛車側は端を受けないことが多かったところです。

 第2局では久保九段は5筋位取り中飛車の作戦を取りました。

 本局9手目。久保九段は左から4番目の筋に飛車を移動させました。四間飛車です。

室谷「久保九段の振り飛車はいつも序盤で工夫が見られるので」

菅井「難しい工夫ですけどね。今日の中継、アマチュア強豪の方だったり、他の棋士とか奨励会員とか、将棋ファンの方とか、大勢の方、観てますけど、久保先生の工夫がわかる人ってほとんどいないっていうか(笑)。難しいんですよ(笑)」

 これはおそらく、いつの時代のトップクラスの棋士であってもそうした宿命なのでしょう。大山康晴15世名人は毎局繊細な工夫をほどこしていたのにもかかわらず、新聞の見出しは「また大山振り飛車」といったざっくりしたもので、そこは内心不満だったようです。

 振り飛車側の囲いも現代では、いわゆる「振り飛車ミレニアム」といった新機軸も見られます。本局では駆け引きの末に、久保九段はオーソドックスな美濃囲いに組みました。

 26手目。永瀬王座は中央に角を出ます。そして逆サイドに引きました。これは持久戦の構えです。

 序盤の布陣がほぼ整ったあと、37手目、久保九段は7筋、相手の角頭から動いていきました。対して永瀬王座はその筋に飛車を回って迎撃体制を取ります。駒がぶつかって、ここからは観戦者にも比較的理解のしやすい、面白いところとなるかもしれません。

 王座戦五番勝負の持ち時間は各5時間(チェスクロック方式)。昼と夕方の休憩をはさんで、通例では夜に勝負がつきます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事