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永瀬拓矢王座(28)王座戦五番勝負第3局で久保利明九段(45)に攻めきって勝ち初防衛まであと1勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月24日10時。宮城県仙台市・仙台ロイヤルパークホテルにおいて第68期王座戦五番勝負第3局▲永瀬拓矢王座(28歳)-△久保利明九段(45歳)がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は20時15分に終局。結果は117手で永瀬王座の勝ちとなりました。

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 永瀬王座は2勝目をあげ、初防衛まであと1勝と迫りました。第4局は10月6日、兵庫県神戸市・ホテルオークラ神戸でおこなわれます。

千日手にはならず

 久保九段は三間飛車からいわゆる「振り飛車ミレニアム」の構え。対して永瀬王座は居飛車穴熊の布陣でした。

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永瀬「序盤で△1四歩から△1三桂とされたんですけど、見えてない動きだったので、忙しくなっててしまったかなと思いました」

久保「序盤はまあ、まずまず。後手番ながらまずまずかな、という感じで」

 午後に入り、永瀬王座は久保陣の弱点である玉近くの桂頭から動きます。

永瀬「後手に手段が多いので自信はないかなと思いました」

 角交換がおこなわれ、本格的な中盤の戦いに入りました。そして互いに引かない駒の取り合いとなり、一気に終盤戦を迎えます。

 69手目。永瀬王座は角を打ち込んで王手をかけます。ここで17時30分、久保九段の手番で夕方30分間の休憩に入ります。

 18時、対局再開。永瀬王座が攻めきるか、それとも久保九段がしのぐかという攻防が続きます。

久保「中盤から終盤にかけてはちょっとよくわからなかったですね。なんか手段がありそうな気がしたんですけど。うーん、どこでどうやってればよかったのか。ちょっと精査してみないとわからないっていう感じです」

 75手目。永瀬王座は金を打ち込んで攻めます。

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 図では△6二金打とすると▲7二金△同金上▲5三馬△同金▲7三銀△7一金・・・が進行例。これは金銀打ち替えの千日手の筋です。先手番でも千日手をいとわない永瀬王座。ここでは千日手やむなしと判断しているのかもしれないと、観戦する側には思われました。

 持ち時間5時間のうち、残り時間は永瀬54分、久保1時間12分。

 考えること39分。久保九段は金を打たずに△6二銀と引いて受けました。これは千日手にはなりません。

 終局後、千日手の筋があったのではないかという指摘に、両対局者は意外という反応を見せました。

永瀬「こちらが打開したんでしたっけ?(観戦者には久保九段が打開したと見られていたが)自信がない局面かと思っていたので、そうですね、千日手筋にはなりにくいのかなと思いました」

久保「千日手というのは?(△6二金打と聞いて)ああ・・・。金だと千日手になります?」

永瀬「千日手筋はちょっと見えてなかったんですけど。えっと、どういう手順ですか?」

久保「私もどうやれば千日手かが見えてないんで」

 本譜、形勢は次第に永瀬王座よしに傾いていきます。久保玉は薄く、すぐに王手がかかる形です。一方で穴熊の永瀬玉は駒をはがされそう堅くはないものの、玉の遠さが活きて、簡単には寄らない形です。

 102手目。久保九段は永瀬陣一段目に飛車を打って王手をかけます。ここで久保九段は持ち時間を使い切り、あとは60秒未満で指す一分将棋となります。対して永瀬王座は残り37分。ほとんど時間を使わずに底歩を打って受けます。永瀬王座が形勢、時間ともにはっきり優位に立ちました。

 110手目。久保九段は中段に攻防の角を打ちます。ここで久保玉には長い即詰みが生じていました。そこで永瀬王座は詰みではなく、香の利きに金を出る寄せを見せます。

 進んで永瀬王座は今度こそ詰ませにいきます。まずは9筋の香の利きに桂を打ち捨て、さらには7筋の香の利きに金を打ちます。その金を取れば空いた空間に王手で銀を打って詰み。久保九段はそこで投了を告げました。

 永瀬王座はこれで2勝1敗。王座防衛、そしてタイトル通算3期での九段昇段にあと1勝と迫りました。

 感想戦終了後、改めて永瀬王座にインタビューがおこなわれました。

――感想戦が終わってみて、改めて今日の対局はいかがですか?

永瀬「全体的に自信はなかったんですけど、形勢としてはかなり難しかったみたいなので、局面として持ちこたえていたのであれば、はい、よかったかなと思います。

――これで防衛まであと1勝となりましたが。

永瀬「そうですね。ただまあ、過密日程がどうやっても抜けられないので、はい。一生懸命準備してがんばりたいなと思います」

――何か作戦などは?

永瀬「前回(第2局)後手番でうまくいかなかったので、次の後手番ではなにかさらに準備をして、いい将棋を指せたらとは思います」

――視聴者に一言いただけますか?

永瀬「ご視聴いただきまして、ありがとうございます。ありがたいことに対局は続きますので、ABEMA中継やモバイル中継などご覧いただいて、応援していただければ幸いです。本日はありがとうございました」(深く一礼)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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