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「五十代であれば五十代なりの将棋を指せていけたらいい」羽生善治九段、竜王戦挑決終局後インタビュー全文

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月19日。羽生善治九段(49歳)が竜王挑戦権を獲得しました。

 以下、終局後の羽生九段のインタビューの言葉をまとめました。

(羽生九段の言葉はほぼ話した通り。記者からの質問は簡略化しています)

――今日の対局を振り返っていかがでしたでしょうか?

羽生「まああの、序盤戦から力戦模様というか、手探りの感じの展開が続いていたので。お互いにかなり漠然としていて、ずっとはっきりしないような将棋だったな、という感想です」

――2年前の七番勝負で竜王という立場だった。この時、100期は成らなかった。またこの竜王戦で100期に挑戦することについては?

羽生「タイトル戦の舞台に参加できるということがないともちろん、そういうチャンスがないので、今回、その挑戦者になれたというのは、非常によかったな、というふうには思っています。まだちょっと終わったばかりなので、まだなんというか、気持ちの準備というか、そういうのはまったくできてないんですけれども、これから開幕までにしっかりと調整して、いいコンディションでスタートを迎えられたらいいな、と思っています」

――現在の体調は?

羽生「体調はまったく普通で変わりなく、元気に過ごしてます」

――豊島竜王の印象は?

羽生「豊島さんは非常に最新の形にも精通していますし、攻めても受けても非常に、なんていうんでしょうかね、あんまりミスがないというか。そういう力強さというのは、棋譜で見てるだけでも感じています。七番勝負の舞台で顔を合わせられることは非常に楽しみにも思っています」

――2018年の竜王失冠以来タイトル戦から遠ざかっていた。今回タイトル挑戦できた要因は?

羽生「あまり他(ほか)の棋戦でも勝ち進んでないので、今回挑戦できたのは非常に幸運だったな、っていうところはひとつ思っています。まあでもそういうチャンスというか、機会を活かせてよかったなあ、というふうに思っています」

――豊島竜王との七番勝負のポイントは?

羽生「2日制でもありますし、序盤でリードされてしまうと苦しいと思うので、しっかり作戦面でも準備しておくっていうことが大事になるのかなあ、とは思っています」

――誕生日を迎えて50歳として臨むタイトル戦になるが。

羽生「誕生日まではもうちょっとありますけど(笑)。一応、五十代になっても出れたというのは棋士としては非常に名誉なことかなあ、というふうには思っていますね。ただそれに満足するっていうことではなくて、励みにして、前に進んでいけたらいいなあ、というふうにも思っています」

――現在のタイトルホルダーはみな一回り以上歳下だが。世代ギャップについて思うところは?

羽生「もちろん三十代、二十代でも強い人たくさんいますし。同年代でも久保さん(利明九段、45歳)が王座に挑戦中ということもあるので。同年代の人たちも変わらずに活躍しているっていうところもあるので、あまりなんていうんでしょう、世代にこだわらずに、目の前の一局を一生懸命やっていく、っていうところでしょうか」

――若い世代の代表格である藤井聡太二冠の活躍は刺激になった?

羽生「刺激というか、もう本当に二冠ですから、大きな実績を残されているわけですし、日々の対局とか棋譜を見て、そこで参考にしたり、勉強してるっていうところです」

――これまでは毎年タイトル戦に出ていた。この2年間はどのようにして過ごしていた?

羽生「移動が少なくなって、体調面ではちょっと楽になったっていうところはありますね。ただやっぱりなんていうか、本当の真剣勝負というか、大舞台というか、そういうところでの2日制とか、そういう対局がなかったので、そのあたりはちょっとどうなるのかなっていうのは、やってみないとわからないところかな、というふうに思っています。生活はそうですね、やっぱり少しここ1、2年は変わったかなっていう感じはあります」

――将棋との向き合い方、対局への準備とか、この1年間で何か変化や工夫は?

羽生「課題というか、考えなくてはいけないことがたくさんちょっとありすぎて。あんまりうまく最近の将棋を理解してるかどうかってわかんないですけど。ただまあ、自分なりにちょっとずつ、そういうところも遅れを取らないように、っていうことは一応考えています」

――われわれはどうしても100期というところにフォーカスしてしまう。100期という節目については?

羽生「もちろんタイトル戦に出ないことには、どうにもならないことでもありますし。最近は機会すらずっとなかったことなので、あまり考えることもなかったっていうのが、まあ実感ですね。ただまあ、非常に大きな記録がかかるシリーズでもあるので、その舞台にふさわしい将棋は指したいなあ、というふうには思っています」

――50歳で挑戦の思いは?

羽生「将棋はけっこう幅広い年代というか、世代でできる競技ではあるので、五十代であれば五十代なりの将棋を指せていけたらいいなあというようなことは思っています。それがちょっとどういうものになるのかっていうのはですね、まあまあまだ、これからの課題にはなるかと思います」

――無冠になってからの2年間はこれまでとは違う?

羽生「なかなかタイトル戦そのものに近づくのも難しかったですし。いまは本当に強い人たくさんいるんで。一局一局を一生懸命やってきたっていうところですが。なんていうかその、タイトル戦にすごく出てた時期とかそういうのは、1年も経ってしまったらもうだいぶ忘れてしまって、目の前の課題に集中していくっていうところでした」

――22日から王将戦リーグが始まる。藤井二冠と初戦で対戦するが意気込みは?

羽生「王将リーグも来週から開幕っていうところで。11月の終わりぐらいにもう、リーグ最終戦っていうことになるので、けっこう間隔詰まってやっていくので、そちらの方も気力を充実させてやっていかなくてはいけないな、というふうにも思っています」

――竜王戦挑決の中継を観てきた視聴者に向けて一言。

羽生「長時間にわたってご視聴いただき、まことにありがとうございます。私にとっても久しぶりのタイトル戦ということですので、張り切って臨みたいというふうに思っています。将棋ファンの皆さんにですね、楽しんでもらえるような将棋を指せるように、力いっぱいやりますので、どうぞよろしくお願いいたします」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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