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中井広恵女流六段(51)倉敷藤花戦・挑戦者決定戦に進出 新鋭・野原未蘭女流2級(17)の快進撃止める

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月12日。東京・将棋会館において第28期大山名人杯倉敷藤花戦・準決勝▲中井広恵女流六段(51歳)-△野原未蘭女流2級(17歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は15時38分に終局。結果は247手で中井女流六段の勝ちとなりました。

 中井女流六段はこれで挑戦者決定戦に進出。甲斐智美女流五段-石本さくら女流初段戦の勝者と対戦します。

中井女流六段、相入玉の熱戦を制す

 野原さんは本棋戦、アマチュア枠からの出場。ベスト8入りを果たした時点で女流2級の資格を得ています。

 野原さんはベスト4にまで進出しました。

 野原さんは9月1日付で森内俊之九段門下として、女流棋士としてデビューしました。

 中井女流六段は長年に渡って女流棋界のトップを走ってきました。倉敷藤花3期ほか、タイトル獲得は通算19期を数えます。

 中井六段はタイトル戦番勝負の舞台からは2006年度以来遠ざかっています。久々の登場を心待ちにしているファンも多いことでしょう。

 現在、本棋戦のタイトルを保持しているのは里見香奈倉敷藤花です。

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 振り駒の結果、先手は中井六段。野原2級はいつも通り「英春流」の序盤で臨みます。これは師である伝説のアマチュア強豪・鈴木英春さん直伝の戦法です。

 中井六段は慎重に指し進めます。角交換のあと中井六段は矢倉、野原2級は銀冠を組み、進んでみるといつしか互いに陣形が整備され、定跡形のような局面となりました。

 中盤、中井女流六段は銀をただのところに進める大技をかけて攻めていきます。対して野原2級はその銀を取りませんでした。ここは中井六段の主張が通り、形勢は中井よしで推移していきます。

 しかし野原2級はそこで簡単にはあきらめません。このあたり、いかにも有望でしぶとい若手らしい感じです。

 そしていつしか野原玉は上部が開け、中井陣にまで進んでの「入玉」を望める形となります。

 両者が互いに入玉し、つかまらなくなった場合には、互いの駒の枚数が重要となります。持将棋引き分けとするには大駒5点、小駒1点として24点が必要。野原2級は飛角角と大駒3枚を持っています。

 中井六段は入玉阻止から、駒を取る方針に切り替えます。相手の角2枚を取り、さらには角を打って王手飛車をかけ、飛車1枚も取ります。

 中井六段が大駒4枚を確保。野原2級が持将棋(引き分け)を成立させるには、駒数がはっきり足りません。

 両陣から互いの駒がすべてなくなり、互いに取れる駒がなくなりました。駒の点数は中井34点、野原20点。野原2級は4点ほど足りません。

 それでも野原2級は延々と指し続けます。本局では実を結ぶことがありませんでしたが、この不屈の闘志を持ち続ける限り、いずれまた次のチャンスがめぐってくることでしょう。

 相入玉で相手が投げない場合には「入玉宣言法」という対局規定が用意されています。詳しくはリンク先をご覧ください。かなり複雑で覚えるのが難しいルールです。

 ともかくも、駒数が足りている側は、いくつかの条件を整えた上で「宣言」をすれば勝ちとなります。中井六段は相手陣に成駒を作っていきます。点数を確保し、玉以外に10枚の駒を相手陣に並べることが成立条件の一つとなります。

「宣言法」での決着はこれまで、プロの公式戦では1度も実例がありません。点数の足りない側が自身で負けを認め、宣言される前に投了してきたからです。

 本局、野原2級はここまで指し進めるということは、相手の勝ち宣言まで続けるのかとも思われました。

 しかし247手目。中井六段の駒が自陣に8枚並び、次には9枚目の成駒が作られるという段階で、野原2級はついに投了を告げました。

 中井六段は長手数の熱戦を制しての勝利。ここで新鋭の快進撃を止めるとともに、久々の挑戦者決定戦進出となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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