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朝日杯快進撃の天野倉優臣アマ(19)一次予選突破はならず 決勝で阿部健治郎七段(31)に敗れる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月30日。東京・シャトーアメーバにおいて第14回朝日杯将棋オープン戦一次予選決勝▲天野倉優臣アマ-△阿部健太郎七段戦がおこなわれました。14時に始まった対局は16時4分に終局。結果は116手で阿部七段の勝ちとなりました。

 アマチュアとして史上3人目の朝日杯一次予選突破が期待されていた天野倉さん。最後は強敵にゆくてを阻まれる形となりました。

天野倉さん、快進撃止まるも大健闘

 持ち時間各40分の早指しでスピーディーな進行が特色の朝日杯。前年度の第13回は千田翔太七段が優勝しています。

 本年度の第14回は現在、一次予選が進行中です。

 朝日杯では毎年、朝日アマチュア名人戦全国大会で上位に進出したアマチュアが朝日杯に参加するのが恒例となっています。毎年10人のアマが参加してのアマプロ一斉対局は、本棋戦の大きな特色でもあります。

 しかし今年はコロナ禍で朝日アマ全国大会が開催されなかったこともあり、朝日アマ名人在位中(3連覇)の横山大樹さんと、昨年2019年に学生名人戦で優勝した天野倉優臣(あまのくら・ゆうと)さんの2人だけの参加となりました。

 今回、アマ2人は1回戦、今年4月にプロとしてデビューしたばかりの新四段2人と対局しました。

 横山さんは服部慎一郎四段に敗れています。

 天野倉さんは谷合廣紀四段と対戦しました。天野倉さんは現在東京大学の2年生。一方、谷合四段は東大の博士課程に在籍しています。

 この「東大対決」は天野倉さんが勝ちました。

 天野倉さんはその後、上村亘五段、佐藤秀司八段と連破してついに一次予選決勝に進出しました。

 過去にアマチュアが一次予選を突破したのは、2009年の清水上徹さん、2015年の森下裕也さんと、わずかに2回の例しかありません。

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 天野倉さんは二次予選進出をかけて、阿部健治郎七段と対戦することになりました。天野倉さんにとってはこの日、佐藤秀司八段戦に続いてのダブルヘッダーとなります。

 振り駒の結果、先手は天野倉さんと決まりました。

 14時。

「それでは時間になりましたので、天野倉先生の先手番でお願いします」

 記録係が時間になったことを告げ、両者一礼。対局が始まりました。

 振り飛車党の天野倉さん。1回戦では谷合四段の四間飛車に対して居飛車で臨みましたが、上村五段戦では三間飛車、佐藤八段戦では四間飛車を選んでいます。

 天野倉さんの作戦は、本局では四間飛車でした。

 対して阿部七段は近年流行中のエルモ囲いを採用します。阿部七段が速攻をねらえる構えを見せているのに対し、天野倉さんの方から角交換を挑んで、中盤の戦いが始まりました。

 天野倉さんは自陣の端に角を打ってさばきに出ます。一方の阿部七段はそれを迎え撃つ形で馬(成角)を作り、まずは阿部七段がわずかにリードを得たようです。

 ただしこうした局面は、振り飛車の腕の見せどころかもしれません。盤面左下での攻防で、天野倉さんは千日手辞さずの姿勢で崩れずに待ちます。

 阿部七段は落ち着いて自陣を整備しながら指し進めます。そして64手目を考えているところで40分の持ち時間を使い切りました。

「阿部先生、持ち時間を使い切りましたので、これより一分将棋でお願いします」

 

 阿部七段は「はい」と答えました。ここからは一手60秒未満で指すことになります。対して天野倉さんも次の手で時間を使い切って、形勢ほぼ互角の難解な中盤のまま、両者ともに一分将棋に入りました。

 一般的にアマチュアにとって、正座を続けることはかなり難しいことです。また対局が始まってからずっと正座をし続けなければならない、というルールはありません。それでも天野倉アマは長い時間正座を続け、背筋を伸ばして堂々の姿勢です。

 81手目。天野倉アマは五段目の銀をじっと自陣四段目に引きつけます。振り飛車党らしい、粘り強い指し回しです。

 秒読みの声が響く中、長く続いた中盤戦。阿部七段が作ったと金がはたらき、銀桂交換の駒得から馬が活躍する展開となって、どうやら形勢は大きく阿部よしに傾いたようです。

 差がついてしまうと、形が乱れた天野倉陣は粘りが効かない形。最後は阿部七段が着実に差を広げて終局となりました。

 最後は惜しくも強敵に快挙をはばまれた天野倉さん。しかし本局も含め、ここまで大健闘だったのは間違いありません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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