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叡王戦第6局は夜の戦いに 永瀬叡王がリードするも豊島挑戦者が追い上げ、また長くなりそうな流れ?

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月1日。大阪・関西将棋会館において叡王戦七番勝負第6局▲豊島将之竜王・名人(30歳)-△永瀬拓矢叡王(27歳)戦がおこなわれています。

 対局がおこなわれるのは御上段(おんじょうだん)の間。豊島挑戦者、永瀬叡王の順に席に着きます。両者ともに青い同系色の羽織。今期叡王戦、永瀬叡王が和服を着ているのは対局開始時だけで、いずれスーツに着替えるのが定跡となっています。

 持ち時間の設定が複数あるのが叡王戦七番勝負の特色。本局は第5局に引き続き各3時間(チェスクロック使用)です。

「定刻になりました。挑戦者、豊島竜王・名人の先手番でお願いいたします」

 定刻14時。立会人の阿部隆九段が声をかけて、両者「お願いします」と一礼。対局が始まりました。

 後手番の永瀬叡王が用意していた作戦は第4局に引き続いての横歩取り誘導でした。その激闘ぶりについては、加藤貞顕さんの観戦記などもご覧ください。

 232手の大激戦を最後に制したのは永瀬叡王でした。

 豊島挑戦者は横歩を取ったあとに飛車を引かずに指し進める「青野流」の作戦です。

 第4局では先手側から見て右側に玉を囲った永瀬叡王。本局では盤面左側に移動させます。そして永瀬叡王もまた横歩を取り返しました。

 戦法の性質上、序盤早々から一手のミスで大きく形勢が左右される展開。28手目からペースはスローダウンします。どこまでが両者の研究の射程内なのかはわかりません。

 豊島挑戦者は永瀬叡王が自陣に打った歩を取りきって、歩得の戦果を挙げます。このあたり、挑戦者にとってはそれほど不満のない中盤だったかもしれません。

 44手目。永瀬叡王は2筋に移動した飛車の頭に歩を合わせ、飛車を縦横に使って手を作ろうとします。

 持ち時間3時間のうち、残り時間は豊島1時間34分、永瀬1時間18分。

 豊島挑戦者は3分で角を引き、飛車取りに当てました。これは強気な手です。対して永瀬叡王も金取りに歩を取り込んで強気に応酬。中盤の激しい戦いとなりました。

 豊島挑戦者は飛金交換ではなく、飛桂香と金銀の駒割で龍(成飛車)を作るコースを選びました。それは永瀬叡王の待ち受けるところだったか。永瀬叡王は自陣に飛び込んできた龍を金2枚のコンビネーションで生け捕りにします。

 豊島挑戦者が手にした金を自陣に埋め、飛車打ちに備えたのに対して、永瀬叡王は桂取りに歩を打ち、形を乱しにかかります。

 18時からの30分の夕食休憩のあと、対局再開。永瀬叡王は豊島陣に飛車を打ち込みます。対して豊島挑戦者は飛金串刺しの香を打ち返して反撃しました。

 68手目まで進んだ段階で駒の損得はほとんどありません。相手陣に強力な龍を作っているなどの要素を考えると、形勢は後手の永瀬叡王がわずかにリードをしているようです。ただし流れは豊島挑戦者が差を詰めているところか。また残り時間は豊島1時間15分、永瀬25分で、こちらは豊島挑戦者が差をつけています。

 半袖シャツでマスクもはずしている永瀬叡王は、腕を組んで身体をゆらし、次の手を待ちます。

 豊島挑戦者は対局時から変わらず、羽織袴でマスクをつけたまま。両手を座布団につき、盤上を見つめて次の手を考えています。

 時刻は19時を過ぎました。少なくとも早く終わる可能性は、ほとんどなさそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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