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振り飛車党の星・久保利明九段(44)若手強豪・大橋貴洸六段(27)を降して王座戦挑戦者決定戦進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月27日。大阪・関西将棋会館において第68期王座戦本戦準決勝▲久保利明九段(44歳)-△大橋貴洸六段(27歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は21時31分に終局。結果は129手で久保九段の勝ちとなりました。

 久保九段はこれで挑戦者決定戦に進出。永瀬拓矢王座(27歳)への挑戦権をかけて渡辺明二冠(36歳)と対戦します。渡辺-久保の王座戦挑決は2011年以来2度目となります。

久保九段、渾身の勝負手で逆転

 大橋六段は一次予選から快進撃を続けてベスト4進出。二次予選決勝では藤井聡太七段(現棋聖)を破っています。

 先手久保九段の作戦は四間飛車。近年、戦法としての振り飛車はやや押され気味な中で、久保九段は変わらず飛車を振り続け、各棋戦で上位進出を続けています。

 居飛車から急戦を目指す大橋六段。一段目に金を並べる現代的な布陣で戦いに入りました。

 飛車交換のあと、互いに相手陣に飛車を打ち合っての中盤戦。力のこもった攻防が続き、形勢に大きく差はつかないまま終盤戦に入ります。

 久保九段は大橋六段の飛車を生け捕りにした後、返す刀でばっさり角を切って寄せに入ります。大橋玉が寄るかどうかギリギリの攻防が続いたあと、大橋六段がしのいで、ついに抜け出しかに見えました。

 持ち時間5時間のうち、残り15分と時間も切迫していた久保九段。そこでわずか1分を使い、歩頭に香を打つという驚くべき勝負手を放ちます。もしこの香を歩で取れば、久保九段の自陣の飛車が縦横にはたらいてきます。

 残りちょうど1時間だった大橋六段。5分考えて歩を払いながら自陣に馬を引きます。そこでどうも久保九段の勝負手が功を奏した形となり、流れが変わったようです。

 久保九段が歩頭に打った香は飛車をバックに俊敏に縦を走り、鋭く包囲網を突破。大橋陣の守りの要である金を取る大戦果を得ました。

 対して今度は大橋六段が桂を捨てる勝負手を放ちます。しかしその勝負手が、どうも敗着となったようです。

 ついにはっきりと勝勢を築いた久保九段。的確に寄せの網をしぼっていき、大橋玉を受けなしに追い込みます。

 ここまで快進撃を続けた大橋六段。ついにここで敗退となりました。

 勝った久保九段は挑戦者決定戦進出を決めました。久保九段は2001年と2007年に王座戦五番勝負に登場。その時は羽生善治王座(当時)に敗れています。

 2011年には挑戦者決定戦で渡辺明竜王(当時)に挑戦者決定戦で敗れています。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9年の時を経て、再び両者は挑決で対戦することになりました。永瀬王座への挑戦権を獲得するのは、はたしてどちらでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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