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われらの時代を代表するスーパーヒーロー藤井聡太七段(17歳)史上最年少戴冠で名実ともにトップ棋士へ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月16日。大阪・関西将棋会館において第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局▲渡辺明棋聖(36歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は19時11分に終局。結果は110手で挑戦者・藤井七段の勝ちとなりました。

 藤井七段は3勝1敗で五番勝負を制し、棋聖位を獲得。18歳の誕生日の3日前、17歳11か月27日、史上最年少での初タイトル獲得となりました。

 藤井七段は、名実ともにトップ棋士の仲間入りを果たしました。

 棋聖位を失冠した渡辺前棋聖は、棋王・王将の二冠に後退しました。

神童・藤井七段、史上最年少戴冠

 77手目。渡辺棋聖には主に2つの手が考えられました。それは中段に打った桂を左右どちらに飛び込ませるか。

 残り時間は両対局者ともに21分と切迫しています。そう多くを読むことはできません。渡辺棋聖は2分を使って、右を選びました。そしてこの時、形勢を示す針はわずかに藤井七段の方に傾きました。

 渡辺棋聖は角を成り込んで馬を作り、飛車取りと迫ります。余人であればあわてそうなところ。しかし藤井七段はあわてません。飛車取りを逃げず、逆に渡辺陣に、飛車取りに銀を打ちます。

 渡辺玉のすぐ左横にはと金が待っています。飛車を手にされると、左脇に飛車を打たれて詰み。ですので、いったんは飛車を逃げるよりありません。

 82手目。藤井七段は桂を打ちます。

「玉は包むように寄せよ」

 の格言通りの一手。これで渡辺玉は上部に逃げる道を閉ざされました。もし渡辺棋聖が飛車を取ってもまだ藤井玉にはまだ一手の余裕があります。そのわずか一手の差をキープしていけば、藤井七段の勝ちとなります。

 藤井陣の守りの要であった金は前線で存在感を放ち、大局を制しています。

 藤井七段の残り時間は12分。しかし藤井七段からあわてるようなそぶりはまったく見られません。

「いやあ・・・」

 渡辺棋聖はそうぼやき、自身をはげますかのように、自身に向けてせわしなく扇子であおぎ、風を送ります。藤井七段が世論の大声援を受けて戦うのと同様に、渡辺棋聖にも後ろにも、熱い応援を続ける大勢のファンが控えています。

 渡辺棋聖は苦吟の末、じっと自陣に受けの歩を打ちます。

 藤井七段は当たりになっている飛車を4筋に移動させます。これぞ幸便(こうびん)という一手。飛車を逃げながらも、その飛車が渡辺陣を直射しています。

 渡辺棋聖は馬で王手をかけ、歩の合駒に桂を打って、藤井玉にプレッシャーをかけます。

 形勢は藤井七段勝勢。ここで藤井七段はどう決めるのか。藤井七段には11分残されています。そして慎重6分を割き、金取りに桂を打って、渡辺陣に迫ります。

 渡辺棋聖が金を逃げた手に対して、藤井七段は中段に桂を跳ねます。自陣一段目に打った桂が、手順に五段目までに跳躍した形です。

 渡辺棋聖は1分を使って、ついに一分将棋。攻防、手段を尽くして必死の粘りを見せます。

 記録係の井田三段の秒読みの声が響く中、藤井七段は落ち着いた様子で寄せの網をしぼっていきます。中段ではたらいた金は、ついに渡辺陣にまで進入し、渡辺玉の死命を制しすることになりました。

 自陣に受けがなくなった渡辺棋聖は、藤井玉に王手をかけ、最後の攻めに出ます。しかし藤井七段の指し手は最後まで正確でした。

 110手目。龍の王手に対して、藤井七段は桂を打ちます。これではっきりと詰みません。渡辺棋聖は将棋盤を見ず、しばらくうつむいていました。そしてしばらく中空を見つめます。秒読みの声がかかる中、再び将棋盤を見つめ、そして口元を結びました。

「50秒、1、2」

 渡辺棋聖は両手をひざにのせ、そして一礼をしました。

「負けました」

 渡辺棋聖ははっきりとした声で、投了を告げました。

「ありがとうございました」

 藤井七段も一礼。白熱の棋聖戦五番勝負は幕を閉じました。

 かくして藤井七段は現代将棋界の王者・渡辺明棋聖を降しました。

 渡辺棋聖はやはり強かった。それは棋聖位堅持から五冠をも狙えていた立ち位置、そして第3局のパーフェクトな勝ち方などを見れば明らかです。

 しかし今期棋聖戦では、それ以上に藤井七段の強さが光りました。いったい誰が、今の藤井七段に勝てるのでしょうか。

 藤井聡太新棋聖は、将棋界四百年の歴史の上に立つ、われらの時代を代表するスーパーヒーローです。藤井新棋聖の奇跡のような歩みをリアルタイムで目の当たりにできる私達は、改めて幸運と言うよりありません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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