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われらが藤井聡太七段、史上最年少(17歳10か月20日)でタイトル初挑戦決定 棋聖戦挑決を制す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月4日。東京・将棋会館において第91期ヒューリック杯棋聖戦・挑戦者決定戦▲永瀬拓矢二冠(27歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は19時44分に終局。結果は100手で藤井七段の勝ちとなりました。

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 あえて、われらが藤井聡太、と書きます。

 2016年に史上最年少の14歳2か月で四段に昇段し、棋士としてデビュー。以来、まばゆいばかりの才能のきらめきを見せ、勝率8割を超える圧倒的な成績を誇り、数々の名手、名局で将棋ファンを魅了してきたわれらが藤井聡太七段が、ついにタイトル戦の舞台に立つことになりました。

 藤井七段は渡辺明棋聖(36歳)への挑戦権を獲得。

 棋聖戦五番勝負が開幕する時点での藤井七段の年齢は17歳10か月20日。これは1989年に屋敷伸之四段(当時)が棋聖挑戦時に打ち立てた17歳10か月24日を抜いて史上最年少記録となります。

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天才藤井七段、堂々のタイトル初挑戦

 藤井七段よしとなったと思われた局面から形勢は微妙に揺れ動きました。そして両対局者が放つ次の一手は、ほとんどの観戦者が予想できないもの。ネット上ではファンからの悲鳴のような声が聞こえてきました。

 観戦者には何がなんだか、さっぱりわからない。しかし盤上からは、名局のにおいが立ち込めてくるようです。

 形勢は二転三転していたのかもしれません。

 そして将棋は、最後に悪手を指した方が負けます。昨年2019年11月の王将戦挑戦者決定戦。勝勢となった藤井七段は、最後に悪手を指して敗れました。

 本局で最後に悪手を指したのは――。負けない、手堅い将棋を指すことでは棋界に右に出る者がいない、永瀬二冠でした。

 藤井七段は永瀬玉のすぐ近くに飛車を打ち込んで勝勢を確かなものとします。

 先に4時間の持ち時間を使い切ったのは永瀬二冠でした。永瀬二冠は非勢の中、じっと金を上がって受けます。

 91手目。藤井七段は桂を打って永瀬玉に王手をかけます。永瀬二冠はじっと玉を引いて逃げます。

 93手目。藤井七段はもう1枚桂を打って、永瀬玉に詰めろをかけます。使いづらい桂も、藤井七段が手にすれば的確な寄せに使われます。

 永瀬玉は受けなしに追い込まれました。もう投了してもおかしくないのではないか。そこで永瀬玉はただで取られるところに馬を動かしました。永瀬二冠のすさまじい執念を感じさせる一手です。

 残り2分のうち1分を使って、いよいよ一分将棋に。藤井七段は秒を読まれながら、少しあわてたような手つきで永瀬二冠の馬を龍で取りました。これで藤井七段の勝勢はゆるぎません。

 手数はちょうど100手。藤井七段が永瀬玉に王手をかけたところで、永瀬二冠は投了しました。

 将棋史の節目となる名局だったでしょう。その名局をわれらが藤井聡太七段は制し、タイトル戦の舞台に立ちます。

「挑戦することができてうれしく思います」

 藤井七段はいつものように、静かに局後にそう語りました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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