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加藤桃子女流三段(25)短手数で西山朋佳女王(24)に勝ち2勝目 マイナビ女子オープン五番勝負第3局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月12日。東京・将棋会館において第13期マイナビ女子オープン五番勝負第3局▲加藤桃子女流三段(25歳)-△西山朋佳女王(24歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 持ち時間は各3時間。10時に始まった対局は13時57分に終局し、65手の短手数で加藤女流三段の勝ちとなりました。

 これで五番勝負の成績は西山1勝、加藤2勝。加藤挑戦者は女王復位まであと1勝と迫りました。

 第4局は5月18日におこなわれます。

加藤挑戦者、勢いある指し回しで制勝

 コロナ禍により名人戦七番勝負、叡王戦七番勝負、女流王位戦五番勝負は依然開幕を迎えられていません。

 一方でマイナビ女子オープン五番勝負は第2局以降の対局場を東京・将棋会館に変更するなどして、対局がおこなわれています。

 第1局は加藤挑戦者、第2局は西山女王と、それぞれ先手番の方が勝っています。

 第3局は加藤挑戦者が先手。後手の西山女王は三間飛車の作戦を取りました。

 13手目。加藤挑戦者は勢いよく仕掛けていきました。公式戦ではこれまでにほとんど指されていない速攻です。アマチュア強豪の加部康晴さんが得意としていることから「加部流」とも言われる作戦でした。

 仕掛けに至るまでの加藤挑戦者の消費時間は0分。時間の使い方からしても、周到な準備があることをうかがわせます。

 西山女王は9分考え、意を決して突っかけられた歩を取りました。こう進めば、もう収まりません。

 加藤挑戦者は飛角交換から飛を西山陣のせまいところに打ち込みます。さらには自陣の飛車も前線に送り、合わせて2枚の飛車で攻め込みます。

 対して西山女王も自陣に2枚の角を打ちつけ受けます。一気に激しい戦いとなった後、駒割は▲金銀△角香の交換。加藤挑戦者は龍(成飛車)、西山女王は互いに相手陣に馬(成角)を作りました。

 加藤挑戦者はさらに自陣の桂を中段に跳ね出していきます。微妙にバランスは保たれているものの、勢いでは加藤挑戦者に分がありそうです。

 48手目に昼食休憩を迎えた段階では、すでに局面は終盤戦に突入しています。

 再開後、加藤挑戦者はさらに踏み込むか、あるいはいったん撤退するかというところで、一度龍を引き上げました。

 56手目。西山女王は自陣三段目に桂を打って受けました。このあたりから、形勢は加藤挑戦者に大きく傾いたようです。

 65手目。加藤挑戦者の龍が互いの玉の制空権を制したところで、西山女王は投了しました。玉が詰むまで指せば、おそらくはまだまだ手が続きますが、攻防ともに見込みなしと見ての早い終局となりました。

 持ち時間3時間のうち、消費時間は加藤挑戦者54分。難敵中の難敵を相手に、決断のよさが光りました。

 加藤挑戦者は2年前の2018年に女王の座を西山現女王に明け渡しました。あと1勝でリターンマッチを制し、女王復位となります。

 女王位を5期連続か、あるいは通算7期獲得すると「永世女王」の資格を得ます。過去にはまだ資格獲得者はいません。現在女王通算4期の加藤女流三段は、資格獲得に最も近い位置にいます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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