Yahoo!ニュース

第69回NHK杯将棋トーナメントは深浦康市九段(48)優勝 第70回は現在進行休止でアンコール放送中

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2020年度。NHK杯将棋トーナメントは第70回が始まり、1回戦が進行していました。

 しかしコロナ禍の影響で、今週からは過去放送分が放映されています。公式ページによれば、5月17日分は未定となっています。

 2019年度の第69回NHK杯。決勝戦は深浦康市九段(48歳)と稲葉陽八段(31歳)の対戦となりました。

 本日5月3日は、第69回決勝戦(2020年2月17日収録、3月22日放映)が再放送されています。棋譜は過去の一覧をご覧ください。

 深浦九段は出場27回目にして、初の決勝進出となりました。

 一方の稲葉八段は2017年に決勝進出。決勝で山崎隆之八段に敗れたものの、準優勝1回の実績があります。

 過去の対戦成績は深浦九段3勝、稲葉八段4勝と拮抗しています。

 振り駒の結果、先手は深浦九段。序盤は矢倉模様に進みました。

 現代の矢倉戦は、互いに組み合うという展開にはなかなかなりません。後手番の稲葉八段は居玉のまま、攻め駒の銀桂を前に進め、いつでも動ける姿勢を築きます。もともと早指しが得意の稲葉八段。事前研究の深さも感じさせながら、本局も決断よく進めていきます。

 深浦九段が慎重に駒組を進めるのに対して、稲葉八段は積極的に仕掛けていきました。

 局後のインタビューによれば、両者ともに積極的に指すことを心がけていたようです。深浦九段の積極さが表れたのは、ここからでした。

 深浦九段は強気の受けから、反撃に転じます。ガツンと飛車をぶつけ、稲葉八段の応手を問いました。

 ここは大きな勝負所だったようです。稲葉八段は飛車交換は応じませんでした。深浦九段の主張が通った形で、ここからは深浦九段がペースをつかんだようです。

 数手進んで、今度は稲葉八段が飛車をぶつけます。

 飛車交換がされた後、深浦九段は稲葉陣に飛車を打ち込みました。一方で稲葉八段は自陣飛車を打ちつけて粘ろうとします。

 そこで深浦九段が角桂交換で切り捨てて寄せに入ったのが、鮮やかな決め手でした。

 本局は意外な大差となりました。積極的によさを求めてとがめられると、そうした展開もまたあります。

 稲葉陣は収拾困難で、粘る余地がほとんどありません。それでも稲葉八段は気力をふりしぼり、受けを続けます。対して深浦九段の寄せは的確で、着実でした。最後は稲葉玉を即詰みに討ち取り、95手で終局となりました。

 深浦九段はNHK杯で悲願の初優勝。一方の稲葉八段はこれで2回目の準優勝となりました。

 1951年にラジオ放送からスタートしたNHK杯。1962年にはテレビに移行されました。1981年には基本的に毎週放送となり、現在までそのスタイルは変わらず続けられています。コロナ禍の状況の中、今後はどうなっていくのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事