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冬将軍・渡辺明王将(35)長く苦しい時間を耐え抜き逆転勝ち 王将戦七番勝負は最終第7局にもつれこむ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月13日・14日。佐賀県上峰町・大幸園において第69期大阪王将杯王将戦第6局▲広瀬章人八段(33歳)-△渡辺明王将(35歳)戦がおこなわれました。13日9時に始まった対局は14日18時17分に終局。結果は108手で渡辺王将の勝ちとなりました。

 七番勝負はこれで渡辺王将3勝、広瀬八段3勝。両者3勝3敗で、王将位の行方は最終第7局の結果にゆだねられることになりました。

 第7局は3月25日・26日、新潟県佐渡市・佐渡グリーンホテルきらくでおこなわれます。

白熱の七番勝負、最終ラウンドへ

 広瀬八段先手で、角換わり。渡辺王将は珍しく右玉を採用。広瀬八段が機敏に攻めて、1日目終了時点では、広瀬八段リードと見られました。

 2日目。封じ手が開封され、広瀬八段の67手目が示されて、対局が再開されました。

 72手目。渡辺王将は広瀬陣に銀を打ち込みます。このあたりまでは、一晩の余裕があれば、両対局者ともに想定の範囲内だったかもしれません。そこで広瀬八段は長考に沈みます。

 前日には、現地では「早い終局もあるのでは」とも予想されていたそうです。しかし、こうした「早く終わる」という予想は、筆者がこれまで見た限りでは、はずれることが多いようにも思われます。

 広瀬八段は2時間を超える熟慮の末に、当たりになった金をじっと引きました。そして昼食休憩に。2日制の対局で、2日目昼食休憩前の終局は、ないことはありません。しかし、かなりレアなケースです。本局もまた、早い終局という予想ははずれました。

 広瀬八段の長考に対して渡辺王将も長考で応じ、攻防の角を放ちます。広瀬八段が依然リードと見られたものの、そう簡単には終わりません。

 いよいよ終盤戦。広瀬八段は渡辺陣に飛車を成り込んで王手をかけます。対して渡辺王将は合駒で金を打ちつけてガードします。気づけば白熱の寄せ合い。渡辺王将は苦しい時間を長く耐え続け、ついに勝敗不明の流れとなりました。

 一手を争う最終盤。中盤で裸同然にされた渡辺右玉は、広いスペースを保ってわずかな余裕を得ています。そして渡辺王将は広瀬玉に迫っていきます。広瀬玉はせまい盤上隅に追い詰められ、受けが難しい。形勢はついに逆転しました。

 広瀬八段は穴熊の形で、3枚目の金を打ちつけて粘ります。しかしその天井から掘削ドリルのように香を打ち込まれ、受けるスペースがありません。

 広瀬八段は渡辺陣の飛車を取り、一手違いにして、形を作ります。渡辺王将は広瀬玉を即詰みに討ち取って、見事な逆転勝ちを収めました。

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 第5局は広瀬八段、第6局は渡辺王将が互いに不利な後手番で「ブレイク」しあっての3勝3敗。最終第7局の先後は、改めて振り駒によって決められます。

 どちらが制しても納得の七番勝負。2019年度将棋界の最終盤におこなわれる最終決戦は、春の佐渡島で、どのように戦われるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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