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「西のイケメン王子」斎藤慎太郎七段(26)A級昇級&八段昇段決定

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月13日。東京、大阪の将棋会館においてB級1組順位戦12回戦がおこなわれました。その結果、斎藤慎太郎七段(26歳)が8勝3敗の成績となり、最終13回戦を待たずにリーグ成績2位が確定し、A級昇級と八段昇段が決まりました。

 前節11回戦では、菅井竜也七段(現八段)が一足早くA級昇級を決めています。

斎藤慎太郎七段(8勝3敗)○-●阿久津主税八段(4勝7敗)

 斎藤七段が飛車先の歩を交換したのに対して、阿久津八段は角交換からカウンターを仕掛けます。対して斎藤七段は角を打って、自陣に打たれた歩を取りのぞきました。阿久津八段は向かい飛車の形にして、歩損の代償に角を手持ちにしたまま戦いを進めます。

 あまり見たことのない展開で、両者の構想力が問われる難解な中盤戦。斎藤七段は「跳ね違いの桂」の手筋などでポイントを重ねていきました。阿久津八段の攻めの桂が取られてしまったのに対して、斎藤八段の桂は相手陣中央に成り込む戦果をあげています。そして取った桂も打って成り込ませ、2枚の成桂を作りました。

 斎藤七段は飛車を取らせる間に、相手陣の要である美濃囲いの金を成桂ではがします。成駒を寄せていく着実な攻めが間に合う状況となって、阿久津八段は粘る手段がなく、比較的早い段階での終局となりました。

 斎藤七段はいち早く勝利をあげ、他の結果次第で当日中の昇級が決まる可能性を残しました。

菅井竜也八段(11勝1敗)○-●千田翔太七段(7勝4敗)

 すでにA級昇級を決めている菅井新八段。一方で千田七段は勝てば昇級の可能性が残るところでした。先日は朝日杯優勝も決めて、勢いに乗るところでもあります。

 戦型は菅井八段の向かい飛車に振った後、角交換から駒組となりました。

 千田七段が自陣に打った角を主軸に局面をリードしようとするのに対して、菅井八段も端に角を打って技をかけにいきます。菅井八段nは角、千田七段は飛車を相手陣に成り込んで激しい戦いとなりました。

 先に相手玉に迫る形を作ったのは千田七段。対して菅井八段は決め手を与えず、相手の端からの動きを逆用して千田玉に迫る形を作り、優位に立ちました。

 千田玉は最後、上下はさみうちの形に。一方で菅井玉は広い方に逃げ越せる形で詰みはなく、菅井八段の勝ちで終局しました。

 菅井八段は11勝1敗という好成績で1位通過。一方の千田七段は7勝4敗に。今期はB級1組新参加で順位下位のため、昇級の可能性がなくなりました。

深浦康市九段(6勝5敗)●-○松尾歩八段(4勝7敗)

 深浦九段は昇級、松尾八段は残留を目指しての戦いです。

 残留先手の深浦九段は矢倉模様。対して松尾八段は速攻の構えを見せます。現代のプロ同士の矢倉模様は、互いに十分に矢倉に組み合うことがないまま戦いになることがほとんどのようです。

 深浦九段は2筋と3筋の歩を交換して手持ちにしたのに対して、松尾八段は居角が相手陣によく利いているのをいかして、継ぎ歩から8筋をへこませます。

 中盤での押し引きの後、形勢は難解なまま終盤に入りました。松尾八段は王手で飛車を打ち込んで、深浦陣の駒を取っていきます。このあたりから形勢は松尾八段に傾いたようです。

 最後は深浦玉を上部に逃さず、上下はさみうちの形で詰め上げ、松尾八段が勝利。松尾八段は最終戦を前に残留を決めました。また深浦九段は昇級の可能性がなくなりました。

行方尚史九段(7勝4敗)●-○屋敷伸之九段(4勝7敗)

 行方九段は昇級、屋敷九段は残留を目指しての戦い。深浦-松尾戦同様に、こうした組み合わせが生じるのが順位戦の醍醐味といえそうです。

 先手番の行方九段が金銀3枚の矢倉に組んだのに対して、後手番の屋敷九段は右四間飛車の構えに組みます。

 中盤では行方九段が機敏に攻めて、まずはポイントをあげました。対して屋敷九段は角銀交換の駒損の代償にと金を作って、反撃の機会を待ちます。

 行方九段は飛車を切って屋敷陣に攻め入ります。対して屋敷九段は粘り強く受け、行方九段の時間切迫もあってか、形勢は不明となりました。

 深夜の何が起こっても不思議ではない時間帯。白熱の終盤戦が続く中で、他の対局は終わっていき、昇級争いにおいては、行方九段が敗れると斎藤七段の昇級が決まるという状況が生まれていました。

 そして最後はどちらが勝ってもおかしくない、いわゆる「指運」(ゆびうん)の勝負となりました。

 形勢は逆転して屋敷九段が優勢となったと思われるところから、行方九段はきわどく玉を逃し続けます。そしてついに手番が回り、攻防に利く馬を作ったところでは、形勢は再び不明となっていたようです。

 最後、屋敷玉を攻めるか、それとも自玉を受けるかという局面。残り2分の行方九段は受けを選びました。おそらくはその選択が敗着のようです。残り3分の屋敷九段は、もう逃しませんでした。行方玉に詰みはありませんが、追っているうちに攻防の要である馬を消すことができます。

 0時40分。128手で大熱戦に幕がおろされました。勝った屋敷九段は4勝7敗で残留確定。一方、敗れた行方九段は7勝4敗となってA級昇級の可能性がなくなりました。

 そして行方八段が敗れた瞬間、8勝3敗の斎藤慎太郎七段の昇級が決まりました。そして同時に八段昇段も決まっています。

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 斎藤新八段は畠山鎮八段門下。今期順位戦の両者の直接対決では、斎藤八段が対局時にタピオカミルクティーを注文したことでも話題となりました。結果は師匠の畠山八段の勝ちでした。

 斎藤八段は王座のタイトルを昨年秋まで王座のタイトルを1期保持。その実力と「西のイケメン王子」と称されるルックスから、将棋界屈指の人気を誇ります。

 菅井新八段、そして斎藤新八段はともに平成生まれ、現在二十代、関西所属、タイトル経験者と共通点が多くあります。

 年齢を見れば、現在29歳の豊島名人(竜王)は来年度4月に30歳となるので、来期A級以上の二十代の棋士は、菅井八段、斎藤八段の2人となります。

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 また所属を見れば、関西所属の久保利明九段は陥落となりますが、稲葉陽八段は残留決定。糸谷哲郎八段も残留となれば、A級以上は豊島、稲葉、糸谷、菅井、斎藤の5人を数えることになります。

 B級1組の残留争いに目を向ければ、既に2勝9敗の谷川浩司九段の降級は決まっています。

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 そして3勝8敗の山崎隆之八段と畠山鎮八段の2人のうち、どちらかが陥落し、どちらかが残留ということになりました。

 順位上位の山崎八段は「自力」の権利を持ち、屋敷九段に勝てば残留決定。また敗れても畠山八段も負けならば残留です。

 一方、畠山八段は自身が松尾八段に勝ち、その上で山崎八段が敗れた場合のみ、残留となります。

 山崎八段と畠山八段は10回戦の直接対決で、畠山八段勝勢の最終盤、5手詰を逃して大逆転というドラマが生まれています。その星が大きく響いて山崎八段が残留するのか。それとも畠山八段が大逆転残留のドラマを起こすのか。

 最終13回戦は3月12日におこなわれます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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