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叡王戦挑決三番勝負はフルセット最終局へ 第2局は豊島将之竜王・名人(29)が渡辺明三冠(35)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月13日。大阪・関西将棋会館において第5期叡王戦挑決三番勝負第2局▲渡辺明三冠(35歳)-△豊島将之竜王・名人(29歳)戦がおこなわれました。15時に始まった対局は19時38分に終局。結果は88手で豊島竜王・名人の勝ちとなりました。

 第1局は渡辺三冠、第2局は豊島竜王・名人が勝って、三番勝負は最終第3局がおこなわれることとなりました。その勝者が永瀬拓矢叡王(27歳)への挑戦権を獲得します。

豊島竜王・名人、後手番で快勝

 渡辺三冠は棋王戦五番勝負、王将戦七番勝負、そして叡王戦挑決三番勝負と、3つの番勝負を並行して戦っています。

 2月8日・9日におこなわれた王将戦第3局では、挑戦者の広瀬章人八段に対して、劇的な逆転勝利を収め、現在は2勝1敗と先行しています。

 2月は日本全国を飛び回っている渡辺三冠。本局では在住地の東京から、豊島竜王・名人のホームである大阪に移動しての対局となります。

 豊島竜王・名人は昨日12日、大阪文化賞贈呈式に出席しています。

 本局の対局開始前には、両対局は次のように語っていました。

豊島「1局目はちょっとよくない将棋を指してしまったので、2局目はよい将棋を指して、3局目に望みをつなげていけるようにがんばっていきたいと思います」

 小学生の時から「とよしー」と呼ばれていたという豊島竜王・名人。ファンからは「きゅん」という名が定着しています。PVでは

「もう『きゅん』などと呼べない存在に」

 と言われていますが、ニコ生で観戦していると、やはり現在も「きゅん」と呼ばれているようです。

 一方で「魔王第二形態」とPVで紹介されているのは渡辺三冠。

渡辺「第二形態ねえ・・・。それは髪型が変わったことを言ってるんですか? 変身みたいな意味なんですか?(ドラゴンボールのフリーザの変身のようなことと説明され)ってことはまだ奥の手があるってことですね(苦笑)。いやどうなんでしょう、年齢的にはもう、そんなにないと思いますけど(苦笑)」

 第1局と入れ替わって、第2局は渡辺三冠が先手となります。ただし戦型は第1局と同じ角換わり腰掛銀。現在の将棋界では、この戦型の先後をどちらを持っても指しこなせないと、トップの座は取れないようです。

 40手近くまであっという間に進んだ後、41手目、渡辺三冠が攻撃陣の香をじっと一つ上げる新工夫を見せて、未知の進行となります。

 どちらとも大きく動きづらい状況で、局面は膠着状態に。先手番の渡辺三冠としては、やや不本意な展開となってしまったのかもしれません。

 渡辺三冠が自陣で駒を動かしてじっと待つところで、後手番の豊島竜王・名人は自陣に角を打って、技を仕掛けにいきました。これは渡辺三冠が上がった香を狙っています。

 渡辺三冠が歩を突き捨てて角の利きを止めようとしたのに対して、豊島竜王・名人は手順に位を取って陣地を前進させ、△4四銀直と立って好形を作り、リードを奪いました。

豊島「△4四銀直はけっこう感触がよかったので、まだいいかどうかわからなかったですけど、けっこう先手がまとめづらくなっているのかなと思いました」

 本局ではこの前後の中盤でのやり取りで、差がついてしまったようです。豊島竜王・名人は自然に指し進め、自陣角を渡辺陣に成り込みつつ、香を取ることに成功しました。

 豊島竜王・名人はここまで、時間を使って慎重に進めています。

豊島「時間は使っても正確に指していければ、最後は逃げ切れるんじゃないかな、という感じでやってましたね、はい」

 渡辺三冠は豊島陣に迫る形は作りましたが、豊島竜王・名人に手堅く受けられて、攻めが続きません。

 最後はまだ指そうと思えば手が続きそうなところ。渡辺三冠はまだ持ち時間3時間のうち半分以上を残しています。

 しかし渡辺三冠は比較的あっさりと、駒を投じました。

 視聴者には唐突な感がして、驚きの声が上がりました。トップクラス同士では、もう挽回不可能な形勢なのかもしれません。

 豊島竜王・名人は快勝で、三番勝負は1勝1敗に。永瀬叡王への挑戦権の行方は、最終第3局に持ち越されました。

 また感想戦は10分もしないうちに終わりました。中盤で差がついてしまって、その原因を探るのは今後の課題であること。そして両者ともに多忙なことなどが理由でしょうか。

 渡辺三冠は3日後の16日には、棋王戦五番勝負第2局の対局が待っています。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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