Yahoo!ニュース

渡辺明三冠(35)A級独走8連勝! 順位戦通算20連勝! 「阪田流」採用の糸谷哲郎八段(31)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月29日。東京・将棋会館においてA級順位戦8回戦▲渡辺明三冠(35歳)-△糸谷哲郎八段(31歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は21時44分に終局。一斉対局5局のうち、本局が一番最初に終わりました。結果は117手で渡辺三冠の勝ちとなりました。

 既に名人挑戦権獲得を決めている渡辺三冠は、これで8勝0敗。史上4人目のA級全勝まであと1勝と迫りました。最終戦では三浦弘行九段と対戦します。

 糸谷八段は3勝5敗。最終戦は久保利明九段と対戦します。

 渡辺現三冠が順位戦で最後に敗れたのは、2年前のA級最終局、三浦九段戦でした。その敗戦により、A級から陥落。そしてそこから20連勝し、A級復帰、名人挑戦までの復活を遂げたことになります。

画像
画像

渡辺三冠、糸谷八段との腕力勝負に勝利

 後手番の糸谷八段は「阪田流向かい飛車」を採用しました。江戸時代の昔からある駒組ながら、1919年(大正8年)に阪田三吉(贈名人・王将)が1局採用して有名になったことから一般的に「阪田流」の名で呼ばれるようになりました。

 角交換に応じるモーションで金を三段目に上がり、向かい飛車に振るのが駒組の骨子です。この後、阪田三吉は金を二段目に引いて持久戦にしました。一方で現代の「阪田流」は金が四段目からどんどん前に進んでいきます。

 現代ではあまり指す人はいませんが、力戦得意の糸谷八段はしばしば採用しています。

 本局、糸谷八段は金を前に進め、さらに角打ちをからめて渡辺陣にゆさぶりをかけます。そして生じたスキに角を打ち込んで馬を作る。見事に作戦勝ちを収めたように見えました。

 対して渡辺三冠は一気に持っていかれないように、慎重に指し進めます。相対的に渡辺玉が堅いのに対して、糸谷玉は囲いに手をかけておらず、手がつくとそう長持ちはしない形です。

 

 A級8回戦は一斉に5局がおこなわれます。夕食休憩の段階では、他の対局がそれほど進んでいないのに比べて、本局は駒がぶつかって進行が早く、そしていくぶん、糸谷よしで差が生じているとも見られていました。

 夕食休憩後、渡辺三冠は一気に勝負に出ます。渡辺三冠は銀損の代償に飛交換に持ち込みました。そして手番を握り、攻勢をかけます。

 渡辺三冠が銀を取り返して駒損を解消したのに対して、糸谷八段は手順に取られそうだった桂を逃げて成り込みます。

 終盤に入ったところでは、形勢はほぼ互角で寄せ合いとなりました。めまぐるしいやり取りの後、渡辺三冠が詰めろ馬取りに攻防の飛車を打ち下ろしてみると、どうやら渡辺三冠が少し抜け出していたようです。

 糸谷八段はあの手この手で手段を尽くして勝負を続けます。そして中段に銀を打てば攻防に利いて「詰めろ逃れの詰めろ」が生じるというきわどい局面になりました。銀は渡辺玉の真上に打つか、それとも少し離して打つか。糸谷八段は少し離して五段目に打ちました。

 詰むや詰まざるやの変化が無数に出てくる難解な終盤戦で、渡辺三冠は終始冷静でした。互いに攻防手が何度も飛び出す中、最後は渡辺三冠が糸谷玉を詰ませて、熱戦に終止符を打ちました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

松本博文の最近の記事