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名棋士・谷川浩司九段(57)順位戦B級1組からB級2組に降級決定 永世名人資格者としては史上初

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月23日。東京・将棋会館においてB級1組11回戦▲谷川浩司九段(57歳)-△千田翔太七段(25歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は20時53分に終局。結果は100手で千田七段の勝ちとなりました。

 敗れた谷川九段は2勝9敗。最終成績で下位2枠に入ることが確定し、B級2組への降級が決定しました。

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 谷川九段はA級以上通算(連続)32期。名人位通算5期で17世名人の資格保持者です。永世名人資格者がB級1組から陥落するのは、史上初めてのこととなります。

 勝った千田七段は7勝3敗と星を伸ばし、A級昇級に望みをつなぎました。

谷川九段、ついにB級1組から陥落

 ▲谷川九段-△千田七段戦は角換わり腰掛銀に。戦後に大流行してブームが去った後、昭和の終わりに谷川九段が新手法を編み出して、再び多く指されるようになりました。

 現在の角換わりは、コンピュータ将棋ソフトによって深くまで研究されています。現在、右側の金を一つ上に上がり、桂を跳ね、一段飛車に構える形はソフトが好む形で、千田七段はいち早くそれを取り入れ、成果を挙げました。

 本局の進行は実戦例もある現代の最前線。先手はいち早く桂を跳ねて攻め、受ける後手側は玉を中段の四段目までに引っ張り出されます。そして先手が攻め切るか、後手が受け切るか、ギリギリの勝負となります。千田七段はこの形のスペシャリストであり、本局の時間の使い方からしても、事前に深い研究があることをうかがわせました。

 64手目、千田七段が三段目に歩を打って角筋を止めたのが用意の一手。以後は公式戦上では、未知の戦いとなりました。

 千田七段があまり時間を使わずに飛ばすのに対して、谷川九段は慎重に時間を使っていきます。夕食休憩に入った時点で、形勢は難しいものの、残り時間では大差がついていました。

 谷川九段は角を切り、次いで飛車を切って、大駒2枚を相手に渡して攻め続けます。しかし駒損のため、攻めがつながるかどうか、ギリギリのところでした。

 谷川九段が千田玉を端に追い詰め、あともう一押しがあるかどうかという終盤戦で、千田七段に妙手が出ました。それが中段に飛車を打つ手です。持ち駒の飛車は相手陣に打つことが正解となることが多いため、この中段飛車は見えづらい。しかしこの手がどうも、人間には気づきにくい決め手となったようです。ちなみにソフトの第一感も、この中段飛車でした。

 最後、千田七段の玉は詰まず、谷川九段の玉は受けても一手一手の状況。谷川九段は攻防ともに見込みなしと見て、潔く投了しました。

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 谷川九段はこれでB級1組からB級2組への降級が決定しました。永世名人資格者としては、史上初のこととなります。

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 名人通算2期の丸山忠久九段(49歳)はB級2組に降級した後、先日、B級1組復帰を決めています。

 また来期から、B級2組はB級1組への昇級枠が2から3へと増えます。来期もB級2組で指し続けることを表明している谷川九段。今後はB級1組復帰への期待がかかります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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