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B級1組順位戦で降級のピンチに立たされた谷川浩司九段(57)はここから残留できるか?

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 将棋界の歳時記では、年明けからが順位戦の最終盤です。昇級、降級にからんだドラマもここから最高潮を迎えます。

 A級では名人挑戦権争いとともに、羽生善治九段(49歳)の残留なるかという点も注目されています。

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将棋界のレジェンド羽生善治九段(49)は今期A級順位戦で残留できるか?

 B級1組は定員が13人。総当りで全12局対戦し、上位2人がA級に昇級、下位2人がB級2組に降級となります。

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 毎年ハイレベルな争いが繰り広げられますが、そうした中で今期はここまで菅井竜也七段(9勝1敗)が抜け出しています。菅井七段はあと1勝で昇級決定となりますが、次に斎藤慎太郎七段(7勝2敗)、その次に千田翔太七段(6勝3敗)と昇級を争うライバルと当たっているところが何とも劇的です。

 一方で、残留争いはどうでしょうか。

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 谷川九段はここまで2勝8敗です。残り3戦のうち、1戦は空き番で2局を残しています。

 残り2局でもし1敗でも喫してしまうと、谷川九段より順位上位の3勝勢である屋敷伸之八段、山崎隆之八段を上回ることはできません。また順位下位の松尾八段と畠山鎮八段は最終戦で対戦し、どちらかは4勝以上となることが決まっていて、谷川九段の上となります。

 つまり谷川九段は残り2連勝しない限り、下2人の枠に入ることが確定し、降級が決まってしまいます。

 谷川九段は次戦で千田翔太七段、最終戦で阿久津主税八段と対戦します。過去の対戦成績は谷川九段から見て、千田七段とは0勝2敗。阿久津七段とは7勝5敗です。

 11回戦は1月23日におこなわれます。

大棋士のキャリア晩年

 相撲界では横綱は降格せず、成績不振となれば即引退につながります。

 一方で将棋界ではそうではありません。名人から陥落してもA級で指し続けることは当然です。

 大山康晴15世名人は、A級から陥落した場合には引退することを公言していました。そして69歳で死去するまでA級を維持し、生涯現役であり続けました。この記録は例外中の例外です。

 過去にA級から降級したことがある永世名人資格者は中原誠16世名人、谷川九段(17世名人資格者)、森内俊之九段(18世名人資格者)の3人です。

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 中原誠永世十段(現16世名人)は1999年度にA級から降級した後、B級1組で2期指しています。そして2001年度に4勝8敗(13人中9位の成績)で残留した後、自らの意思でフリークラス入りを宣言しました。

 森内俊之九段は2016年度A級で降級となった後、B級1組では指さず、自らの意思でフリークラス入りを宣言しています。その時、まだ46歳の若さでした。

 フリークラスとは、簡単に言えば順位戦を指さないポジションです。その規定に従えば、森内九段も例外なく65歳で引退となります。

 一方で順位戦で指し続ける意思を持ち、残留する成績を挙げ続けている限りは、引退とはなりません。

 過去には、輝かしい実績を挙げた棋士が順位戦の下のクラスで指し続けるのはいかがなものか、という声はあったようです。しかし時代は変わりました。

 元名人では、加藤一二三九段(名人1期)は2001年度、62歳の時にA級から陥落。以後は2016年度にC級2組から陥落する77歳まで現役生活を続けました。最後まで全力で指し続けた加藤九段の姿勢に対しては、称賛の声がほとんどだったように思われます。

 過去にB級2組に陥落した永世名人資格者はいません。仮にもしそうした大棋士が現れるとしても、順位戦で指し続け、少しでも長く現役生活を続けてほしいと願うファンもまた多いのではないでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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