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藤井聡太七段(17)金の大遠征で大局を制し、北浜健介八段(43)を降して棋聖戦二次予選決勝進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月10日。大阪の関西将棋会館において第91期ヒューリック杯棋聖戦二次予選2回戦▲北浜健介八段(43歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は17時53分に終局。結果は130手で藤井七段の勝ちとなりました。

 藤井七段はこれで二次予選決勝に進み、澤田六段と決勝トーナメント進出をかけて対戦します。

藤井七段、金の大遠征で大局を制す

 藤井七段は王将戦リーグにおいて、あともう一歩というところで挑戦を逃しました。

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 その後は崩れることなく、C級1組順位戦で勝利を挙げています。

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 記録としては、今期棋聖戦は最年少タイトル挑戦記録更新の最後のチャンスとなります。しかし周囲が騒ぐほどには、藤井七段はその記録を意識していないのでしょう。

 北浜八段と藤井七段は過去に3回対戦し、いずれも藤井七段が勝っています。

 振り駒の結果、先手は北浜八段。初手は中央の歩を突いて、得意の中飛車の作戦を選択しました。過去の3局もまた、中飛車でした。

 北浜八段が中央5筋の歩を突き越して位を取ったのに対して、藤井七段はすぐにそこから反発します。藤井七段が5筋の位を解消させたのに対して、北浜八段は1歩を手持ちにしてバランスを保ちました。

 藤井七段は局後「序盤で誤算があって自信のない展開」と語っていました。

 藤井七段は飛車側の金を三段目に押し上げて、前線を支えます。対して北浜八段は形よく銀を引いて角筋を通します。北浜八段は「いいタイミングで銀を引けてまずまずの展開」という感触があったそうです。

 その後の藤井七段の構想が目を引きました。金は守りの要の駒で、自陣低く配置することが多いのですが、藤井七段は積極的に攻めに使っていきます。

 藤井七段の金は中段の戦いの最前線を制して、ついには北浜陣にまで進みました。

「金をまっすぐ進んで来られるのが思いのほか厳しかった。『これならなんとかなるんじゃないか』と思ったけれど、手段が見つからなかった」

 北浜八段は局後にそう語っています。

 大遠征をした藤井七段の金は、最後は盤上隅の桂香を取って、そのはたらきを終えました。藤井七段は金が切り開いた道の後から飛車を成り込ませて龍を作ります。藤井七段はそのあたりで序盤の誤算を取り戻したと感じていました。

 北浜八段は駒損ながら、中央から飛を成り込んで、藤井玉のすぐそばをおびやかします。

 藤井七段も勝ち切るのはそう簡単ではないか。観戦者にはそう思われた局面で、藤井七段は他者にはなかなか思いつかない一手を披露しました。それが玉のそばの桂を端に跳ねる手です。自玉のふところを広げながら相手玉の上部をねらい、指されてみれば、なるほど、さすがは藤井七段、またもや才能を見せたかと思わせる一手でした。

 藤井七段は北浜陣の金を龍で追いながら、理知的にパズルを解くように、上手い手順で寄せの形を作っていきます。

 最後は北浜玉の13手詰をすぐに読み切り、いつもながらに正確な終盤力を見せました。

 二次予選の反対の山の対戦である大石直嗣七段-澤田真吾六段戦は同日におこなわれ、18時0分、115手で澤田六段の勝ちとなりました。藤井七段と澤田六段は二次予選決勝で、決勝トーナメント(ベスト16)進出をかけて戦うことになりました。

 局後に記者から最年少タイトル挑戦記録について聞かれた藤井七段。

「まだまだそこまでは遠いですけれど、まずは決勝トーナメント入りを目指して、一局一局がんばっていければと思います」

 と答えています。

 藤井七段の今期成績はこれで32勝10敗(勝率0.762)。勝数ランキングでは豊島将之竜王・名人と並んで1位タイとなりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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