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藤井聡太七段(17)7勝0敗でC級1組順位戦単独トップ 難敵の船江恒平六段(32)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月3日。関西将棋会館においてC級1組順位戦▲藤井聡太七段-△船江恒平六段戦がおこなわれました。10時に始まった対局は23時16分に終局。結果は78手で藤井七段の勝ちとなりました。

 勝った藤井七段はこれで7勝0敗。他に全勝だった佐々木勇気七段、石井健太郎五段がともに敗れたため、ただひとりの7連勝となりました。順位も上位のため、残り3戦のうち2勝すればB級2組昇級となります。

藤井七段、密度の高い中盤戦を制す

 藤井七段、船江六段ともに、昨年度のC級1組は9勝1敗の好成績でした。しかし近藤誠也六段、杉本昌隆八段が同星で順位上位だったために、昇級はできませんでした。

 今期、藤井七段はここまで順調に6連勝と白星を重ねてきました。

 一方の船江六段は開幕から4連敗。前年度の不運が尾を引いたか、序盤は不振でした。しかしそこから実力を発揮して、2連勝を返しています。

 両者は2018年5月18日、竜王戦5組準決勝で対戦。藤井六段(当時)が勝って決勝進出、4組昇級を決めました。また「六段昇段後竜王ランキング戦連続昇級」の規定を満たして、七段昇段も決めています。

 竜王戦5組では船江六段の先手で角換わりから棒銀の戦形になりました。

 本局では船江六段の先手で、互いに飛車先の歩を伸ばし合う相掛かりになっています。互いに攻めの銀を四段目に進め、角側の桂を跳ねて銀の前進をけん制する構えに。「類型がない」と局後に藤井七段が語る通り、定跡形からはずれ、序盤の模様が取りづらい、構想力が問われる展開となりました。

 互いに玉を初期位置から動かさない「居玉」のまま駒組が続きます。藤井七段が端に角を上がり、一触即発の局面となって、夕食休憩を迎えます。

 藤井七段の夕食は、CoCo壱番屋のハッシュドビーフと野菜サラダでした。最近、大阪での順位戦の際には、この注文が3連投されています。食事の方では試行錯誤の末に、自分の形ができてきたのかもしれません。

 夕休後、局面は大きく動きました。藤井七段は銀を中央に進め、盤面全体で仕掛けていきます。このあたり、藤井七段も自信があっての動き方ではなかったようです。持ち時間は6時間のうち、既に5時間半を使っていました。

 対して船江六段は自然に応じていきました。

 勝負の大きな分岐点は57手目だったようです。船江六段には2つの選択肢がありました。相手陣に歩を打って攻めるか。それとも自陣に歩を打って受けに回るか。

 船江六段は約1時間半の残り時間の中から二十数分を使って、受けに歩を打ちました。結果的には、この判断の是非が問われることになりそうです。藤井七段に銀を前に進められてみると、むしろ受けが難しくなっていました。

 一方で、藤井七段の攻めのつなげ方も、最善だったかどうかはわかりません。しかし船江六段が時間が切迫する中で受けを誤ったようで、ついに形勢に差がつきました。

 藤井七段は優位に立った後、着実にリードを広げていきます。

 78手目、藤井七段が飛車を打って船江玉に王手をかけたところで、船江七段は投了しました。比較的短手数の終局ですが、それだけ中盤の勝負所における密度が高かった、ということでしょう。

 藤井七段はこれで7連勝となりました。もとより、C級1組では既に抜けた存在であることは周知の通りです。大本命が前期の挫折を乗り越え、何人もの難敵を相手にしながら、結果的には順調に星を伸ばしてきた、というところでしょう。

 全勝で藤井七段と並走していた佐々木勇気七段は千葉幸生七段に、石井健太郎五段は塚田泰明九段に敗れました。

 その結果、7勝0敗が藤井七段ただ一人に。6勝1敗は佐々木七段、及川拓馬六段、佐藤和俊七段、石井五段の4人となりました。

 今期順位3位の藤井七段は、1敗勢の4者よりも順位上位のため、残る3戦(小林裕士七段、高野秀行六段、真田圭一八段)で2勝すれば昇級が決まります。レース展開としては、かなり有利な位置に立っているのは間違いありません。しかし、何が起こるのか、最後の最後までわからないのが順位戦です。年明けの小林裕士七段戦も注目です。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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