運命の王位戦七番勝負第7局開始 前哨戦の「振り駒勝負」は豊島王位に軍配
【前記事】
木村九段、受けて勝って追いついた! 王位戦七番勝負はついにフルセット最終局へ
9月25日。東京都千代田区・都市センターホテルにおいて、第60期王位戦七番勝負第7局・豊島将之王位(29歳)-木村一基九段戦(46歳)戦、1日目の対局が始まりました。
振り駒によって先後が決められた後、午前9時、豊島王位の先手で対局が始まりました。戦形は豊島王位十八番の角換わり腰掛銀です。
午前中には59手。16時30分現在では70手まで進む、ハイペースでの進行となっています。もちろん両者ともに事前の深い研究がなければ、こう早くは指せません。ここまで進めば、そろそろ形勢に差がつき始めてもおかしくはありませんが、現状ではほぼ互角に近い形勢のようです。ただし、豊島王位が好調な攻めを続けているようでもあります。
ここから先、勝負所では両者が時間を使って考えることでしょう。通例であれば、決着がつくのは明日2日目の夕方から夜となります。
最終戦の「振り駒」という勝負
この最終戦、まずは開始前の振り駒が注目されました。
七番勝負では第1局開始前に振り駒がおこなわれ、先手と後手が決められます。今期王位戦では第1局は豊島王位が先手です。以後、一局ごとに先後が入れ替えられます。
将棋では先手番がわずかに有利です。そしてタイトル戦の番勝負など、上位者同士の対戦になれば、その有利さが顕著に表れるようです。
今期王位戦も、たとえば豊島王位先手番の第1局と第5局は、豊島王位の完勝といえる内容でした。
第6局までは先後が交互で替わります。そして両者3勝3敗で第7局を迎えると、そこで改めて振り駒がおこなわれます。
振り駒によって先手か後手かとなる確率は、理論上は五分。統計上もほぼ五分です。将棋は理論上100パーセント実力によって決まるゲームです。一方で振り駒は「運」であり、そこに対局者が介在する余地はありません。
本局では、記録係の滝口優作二段が「歩」の駒を5枚振って投げた結果、表の「歩」が4枚、裏の「と」が1枚出ました。歩が多く出たので、「振り歩先」の規定により、豊島王位の先手となりました。
両対局者の感情は、顔には表れません。内心ではどう感じていたのでしょうか。
豊島ファンにとってみれば、まずは小さくガッツポーズ、という場面でしょうか。一方で
昨年2018年の王位戦第7局・菅井竜也王位-豊島将之棋聖戦。振り駒の結果「と」が3枚出て、挑戦者の豊島棋聖の先手。結果は127手で豊島棋聖の勝ち。4勝3敗で初の王位を獲得して、二冠となりました。
一方で木村ファンからは、ため息がもれたかもしれません。木村九段は3勝3敗で迎えた王位戦第7局は、これが3回目。その3度とも、最終局は後手番となってしまったわけです。あらゆるビハインドを跳ね返して、木村九段は悲願の初戴冠を達成することができるでしょうか。
深浦康市元王位の王位戦第7局
元王位の深浦康市九段は2007年、08年、09年と、3年連続で王位戦最終第7局を戦っています。
2007年王位戦第7局。羽生善治王位-深浦康市八段戦(肩書はいずれも当時)で記録係を担当したのは天野貴元三段でした。天野さんは著書『オール・イン 実録・奨励会三段リーグ』で、この時のことを記しています。
気遣いの人である深浦さんらしいエピソードです。そして、先手にしてくれてありがとう、というのは多分に本音でもあったでしょう。
初タイトルを奪取した深浦王位は、翌2008年には羽生前王位にリターンマッチを挑まれます。そしてまたもや最終第7局にまでもつれこみ、今度は深浦王位が後手。そして勝利を収め、防衛を果たしました。
「タイトルは防衛して一人前」
とは将棋界でよく聞かれる、ずいぶんとハードルの高いフレーズです。
【関連記事】
「四段」「八段」「タイトル防衛」将棋界における「一人前」という言葉の使われ方
深浦王位は2年連続の最終局で先手と後手、最強の相手にいずれも勝って、その高いハードルをクリアしたわけです。
翌2009年は、木村一基八段(現九段)を挑戦者に迎えました。第1局で千日手が生じた後、木村九段はそこから3連勝。対して第4局からは深浦王位が3連勝して、深浦王位は3年連続で第7局に。
振り駒の結果、最終局は深浦王位が先手となりました。密度の濃い大熱戦で、深浦王位の玉は木村陣の左上隅にトライ。総手数125手とは思えないようなすさまじい投了図が生まれ、深浦王位の防衛となりました。
それが2009年9月29日。今からほぼ十年前のことです。