Netflixは日本のアニメを救うのか?

(写真:ロイター/アフロ)

ねとらぼのインタビューで語られなかったこと

ねとらぼがNetflixにロングインタビューを行っている。

質問項目も以下の様に多岐に渉り、とても良いインタビューだと思う。コンテンツビジネスという観点からはさらに1点大事なポイントがあるので、この機会に補足を試みたい。

(※カッコ内は筆者コメント)

1. ビジネスモデルについて(定額制なので会員数と競合サービスへの流出を避ける意味でも視聴時間を重視している)

2. Netflixオリジナル番組の仕組み

3. 「数十倍の予算」をかけてオリジナルアニメを制作しているのは本当か?(数十倍は大げさだが数倍はありうる。ただし入金のタイミングは従来の感覚からするとずいぶん先となることが多い→後述)

4. 制作会社との契約スタイル(製作委員会方式は採用しないというのは、Netflixからみたときの話。Netflixが配信権のライセンスを取得する場合でも、製作委員会方式が取られることはもちろんある)

5. 制作現場への資金環流(配信権を持つ会社から先の分配の話なのでもちろんNetflixは関与しない)

6. 内容に口を出すか?(ここが比較的センシティブ。筆者が取材した際にも、ディスカッションは行うということだったが、後述するようにその根拠となるデータの提供は受けられない)

7. 買付け担当者の権限について(個人裁量が大きいという話が出ているが、最近人事に異動があったことも把握している。外資はこれがリスクとして大きい→後述)

記事は、「NetflixオリジナルアニメがOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)形式に代わる新たな主要プラットフォームになるかもしれない」とまとめられているが、グローバルにみると、会員数1億人を突破したNetflixは、アニメ産業にとってはビジネスモデルとしてはほとんど機能しなくなったOVAどころか、テレビに代わる主要なメインウィンドウになり得るポテンシャルがある。

一方で、巨大プラットフォームであるが故に、既に電子書籍やEコマースでアマゾンとの向き合い方で指摘されているように、コンテンツを提供する側は注意をしてつきあう必要がある。プラットフォームが唯一絶対の存在となったとき、そこに完全に依存してしまっては、交渉の余地はほとんど無くなってしまうからだ。

視聴レポートを一切出さないNetflix

コンテンツを提供する側(配信権をライセンスする側)からすれば、Netflixはこれまでにない金額で配信権を買ってくれる有り難い存在だ。アニメの制作費(1億5千万円~プレミアムなものでは3億円以上)は、オリジナルシリーズドラマ制作に10億円以上(ゲームオブスローンズでは80億円以上)掛けるNetflixにとって、アニメはお買い得なコンテンツであり、両者の利益が一致した格好だ。

だが、そこには注意も必要だ。

まず、Netflixはあくまでも配信のライセンスに対しておカネを払うというスタンスであるので、完成までの制作費はまず製作側で用意する必要がある。一般的にアニメは企画段階で制作費の一部が支払われたり、製作委員会から制作会社(スタジオ)に完成前に一定の費用が支払われるのが通例だ。それに対しNetflixについては作品が完成し「納品」してはじめて入金という流れなので、2年以上・1億円以上は通常掛かる制作のコストを別途用意しなければならないという問題がある。

そして筆者が取材した際にもNetflixは「視聴レポートをコンテンツ提供社と共有することはない」と明言している。西田宗千佳氏の書籍「ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える」では、Netflixが視聴者の視聴状況を詳細に分析し、作品調達やオリジナル作品制作に役立てていることが示されているが、このデータそのものがコンテンツ提供社に示されることはないのだ。

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Netflixが制作から参加する企画であっても、あくまでもそこでは「似たジャンルの作品はこの地域でよく見られている」といった傾向が示されるにすぎない。(※奇しくもこんな報道があり、関係者の注目を集めた)

これによって何が懸念されるのか? それは「いつの間にかコンテンツが買い叩かれていた」という恐れがあることだ。世界でユーザー数が1億人を突破したNetflixは、配信チャンネルとして唯一無二な存在になりつつある。各国で様々な法規制やチャンネル間の競争があるテレビと異なり、市場で1番手となったプレイヤーが市場をほぼ独占するIT事業の特質を活かして、さらに巨大な存在になるはずだ。

そうなったときにユーザーの視聴データを開示しないNetflixが、「配信権のライセンス料だけで制作費をリクープ(回収)できる有り難い存在」から、いつの間にか「世界中で膨大な視聴があると推定されるにも関わらず、制作費をリクープできる程度のラインセンス使用料しか支払ってくれない(だが他に選択肢がない)存在」へと変わる可能性を、誰も否定出来ないのだ。そして外資系企業は、事業責任者の権限が大きい。最近Netflixでは日本のアニメを担当する責任者が事実上の更迭という形で退いている。現在の姿勢をいつ転換してもおかしくはないのだ。

一方、日本テレビグループでHuluを国内で展開するHJホールディングスなどは、「どの番組がどれだけ見られたか」というレポートを出してくれる、と国内大手アニメ会社の関係者は話す。視聴回数に応じてライセンス料が支払われる契約形態であれば、視聴数はもっとも基本的なデータとなるため、開示されるのが普通だ。しかし、配信期間を区切ってその間の配信権を「買い取る」Netflixは、視聴数をはじめとしたデータを開示することはない。そのため、上記のような懸念が一方では囁かれるというわけだ。

実は、こういった海外大手配信プラットフォームに対して、ある種のカウンターとなりえたサービスがあった。それが、クールジャパン機構からバンダイナムコホールディングスが運営を引き継いだものの、まもなく10月31日でサービス終了となるDIASUKIだ。日本のアニメコンテンツを世界に発信することを目的としたこのDAISUKIは、Netflixがここまで存在感が大きくなる以前から、クールジャパン機構に加え国内大手アニメ関連会社などが軒並み出資するなど官民が協力して運営されていた。配信数は大手に及ばず、また作品の調達にも苦労していたDAISUKIだが、たとえボリュームは限定的だったとしても「海外でこの作品はこれだけ見られている」というデータを蓄積するには有益な存在だったはずだ。そういったデータは、Netflixなどの大手プラットフォームに対して、価格交渉を行う際の1つの交渉材料となるからだ。

海外大手プラットフォームに匹敵する収益を上げるという、現時点から振り返るとかなり無理がある構想もあったDAISUKIだが、データの重要性を鑑みれば自前のプラットフォームが存在する意義はまだ残されていたようにも見える。しかし、それが失われることが決まった今、各社はそれぞれプラットフォームに対する向き合い方を工夫せざるを得なくなったというのが現状だ。

少なくともNetflixを日本のアニメを救うような存在と捉えてしまっては、足元をすくわれる懸念が大きい。プラットフォームとそこに蓄積されるデータの重要性が改めて認識され、世界で人気のある日本のアニメが、適正な対価を受け取れるようになることが、ひいてはその作品を生み出す人々への還元にもつながっていくはずだ。