アニメ業界はブラックなのか? クロ現プラスの混線を紐解く

(写真:アフロ)

アニメブラック問題再び

アニメ産業はわかりにくい。10年来取材や研究をしている筆者も、人に説明するとなるとかなり時間を要する。実際2015年にNHKの「NEWS WEB」に出演した際も、スタジオ入りする前の打ち合わせで30分近くディレクターに説明をして、用意されていたフリップの一部を変更してもらったりした。(このあたりの対応、NHKはしっかりしていて流石なのではあるが)

今回の放送内容は、番組のページに詳しくまとまっているので、まずはそちらをざっと読んで頂ければと思う。

また論点が混線してしまったというのが正直な印象だ。番組中登場する人はそれぞれ真っ当なお話しをされているのだが、全体を通じて見ると「ではどうすれば良いのか?」という解決の方向性がまたイメージしずらくなってしまっている。

新人アニメーターの平均年収が110万円というのは2015年の時点でも指摘されている。市場規模が2兆円と伸びているのに制作会社の売上が伸びていないというのはどういうことか? 利益が還元されていない=ブラックが加速しているのではないか、というのが番組の論調ではあったけれども、ここには幾つかロジックの飛躍がある。

混線する論点

まず、(これも機会あるごとに触れているが)110万円というのは新人アニメーターの年収であって、原画や監督、プロデューサーの年収はもう少し良い。これは2015年にJAnicAが行った「アニメーション制作者実態調査」のクロス集計を見ると300万円~400万円台という平均値が見えて来る。もちろん世界中で人気となるアニメもあるのに、この収入は低いのではないか、という指摘はあるべきだが。

そして、2兆円の根拠となっている動画協会の「アニメ産業レポート」だが、映像だけでなく、商品化や配信などにユーザーが支払った金額を推定した「広義のアニメ市場」で、実際に製作委員会が利益として受け取る金額ではないことも注意が必要だ。何よりも作品に出資という形で応分のリスクを取っている製作委員会と、制作を受注することでいったんは利益を確保できる制作会社を同じ土俵で比べるのは、ビジネスの原則からも外れている。

デジタル化は有効だが本質ではない

では、制作会社、現場は現状に甘んじるべきだ――と言いたいわけではない。番組では労働基準監督署が制作会社を集めて、労働環境の改善を呼びかけるといった取り組みも示されていた。また、デジタル化によって生産性の向上を図るポリゴン・ピクチュアズも取材に応じていた。実際、私もCGアニメの現場を取材するたびに、手描きで指摘されるような問題が、解決されていっているのは確認している。

「CG主体なら生産性は向上し、労働環境の改善につながる」――そんなこと言われてもそのための原資(おカネ)がないじゃないか、という指摘はもっともだ。番組の最後でも、出演者の入江泰浩監督が「予算を倍にしてほしい」と訴えかけていたのが強く印象に残った。実は番組で示されていた要素を組み合わせると、それは実現可能なのだけど、そこで武田キャスターが「日本のアニメの手描きの良さが失われるのでは」といったコメントをして、CG化の是非に話が移っていってしまったのは勿体なかった。

CG化という方法が採れる制作会社は限られる。手描きであっても監督が言った制作費の増額があれば状況は改善される。制作会社が受注する金額のベースラインを上げるべきなのだ。しかし、激しい受注競争の中にあってどうしても「他社よりも安く、少なくとも今の相場の金額で受注しなければ」という意識が働く。経済学の理論を持ち出すまでもなくこれは自明だが、実は話を聞くと製作委員会側の関係者からも「スケジュールやクオリティが厳しくなったり、経営が危うくなるくらいならば、もう少し高めの金額で請求しても良いのに」という声が漏れ聞こえてくる。実際昨年は劇場作品の大ヒットが続いた一方で、人手不足により制作が間に合わずテレビ作品では放送できず総集編が流される作品も。制作現場の厳しい状況が続けば、結局ビジネスも成立しなくなることは皆分かっていて、でも一部のCG系の会社を除き、業界団体などが率先してそれを解決しようという動きが具体的には起こってないのが問題だ。

「働き方改革」を逆手に

筆者はクリエイティブ産業に残業時間の抑制など「働き方改革」をそのまま適用するのは無理があると考えている。好きなことに時間を忘れて没頭するところから生まれてくる創作というのはある。しかし、新人アニメーターやプロデューサーの入り口ともなっている制作進行が生活に困窮するような状況は改善しなければいけないのも確かだ。

となれば、バズワード化しつつある「働き方改革」を逆手にとって「国も求める労働環境の改善のために」最低受注額や標準的な契約内容の見直しを業界として行うべきだ、というのが筆者の主張となる。実は誰も望んでいない競争状態を止めることこそが、今のアニメ業界への処方箋となるはずだ。