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浮上のきっかけはどこにあるのか。WEリーグ・N相模原が目指す初勝利への道

松原渓スポーツジャーナリスト
今季11敗目を喫した(写真提供:WEリーグ)

【遠い一勝】

 0勝2分11敗。初勝利はまたお預けとなった。

 昨年11月のWEリーグ開幕以来、ノジマステラ神奈川相模原は13試合未勝利で、リーグ戦は残り9試合。勝ち点は「2」で最下位を漂い、11位のC大阪との勝ち点差「9」はなかなか縮まらない。

 3月30日にホームの相模原ギオンスタジアムで行われた第13節の新潟戦に0-1で敗れた後、小笠原唯志監督はがっくりと肩を落とした。

「心配していただいた方々に『なんとか勝ちます』とお伝えしていましたが……また残念な結果になってしまい、落胆しています」

 内容面に目を向けると、3位の新潟相手に対してボールを握る時間は長く、シュート本数もほぼ互角だった。他の試合でも、相手との力の差を感じさせる試合は少ない。実際、3点差以上の大敗は第10節の浦和戦(0-5)のみで、過半数の7試合が1点差以内の勝負となっている。

 だが、「あと1点」が、N相模原を苦しめてきた。

 クラブ創立時(2012年)の監督であり、生みの親でもある菅野将晃監督の下で2年目の再スタートを切った今シーズン。昨季からは選手の入れ替わりも多く、ドリブラーの榊原琴乃が加わり、チームの原点を知るハードワーカー・川島はるなが3年ぶりに復帰するなど、即戦力の補強も実現した。

川島はるな(写真提供:WEリーグ)
川島はるな(写真提供:WEリーグ)

 内容面では、守備の「即時奪回」、「パスアンドムーブ」などのコンセプトを継続しつつ、縦に速い攻撃を強化。それは、プロの世界で求められる結果を残すための大きな変化になるはずだった。リーグ開幕前のカップ戦から、その変化は試合内容にも表れ、ワンタッチ・ツータッチを多用した攻撃だけでなく、ダイナミックな展開も増えていた。

 だが、ゴール前で連動性やフィニッシュの質を欠き、開幕から4試合無得点で4連敗。5試合目のC大阪戦では、3点ビハインドの状況から大黒柱の南野亜里沙、2年目の浜田芽来、U-20代表のドリブラー・笹井一愛のアタッカートリオが揃い踏みで嫌な流れを断ち切ったかに見えたが、その後は再び連敗した。

南野亜里沙(写真提供:WEリーグ)
南野亜里沙(写真提供:WEリーグ)

 ウインターブレイク中の2月には、菅野監督が成績不振の責任を取る形で退任(クラブアドバイザーとして引き続きチームをサポートしている)。3月の後半戦からは、テクニカルダイレクターの小笠原唯志氏が後を引き継いだ。クラブから公式にリリースされた小笠原監督の言葉は印象的だった。

「今までの功績を無駄にせずクラブが進むべき方向へと導き、そして菅野監督が積み上げてきたものが間違っていなかったことを証明したいと思い、引き受けることに致しました」

 さまざまなカテゴリーで女子チームの環境整備や選手育成に尽力してきた菅野監督が、女子サッカー界の功労者であることは言うまでもない。だが、N相模原が負のループから抜け出すために、変化が必要だったのだろう。

 小笠原新監督は、後期からメインのフォーメーションを3バックに変更。サイドでプレーすることが多かった平田ひかりをボランチで起用するなど、新たな配置にもトライしている。長野で指揮を執っていた2021-22シーズンに“カメレオンサッカー”を標榜していた同監督は、相手の分析も含めた戦術的な狙いを明確にし、試合ごとに異なるタスクを選手たちに与えているようだ。その変化は少しずつ形になってきたように思えるが、試合ではちょっとした連係ミスや技術的なミスが失点を招いてしまう。

小笠原唯志監督(写真提供:WEリーグ)
小笠原唯志監督(写真提供:WEリーグ)

 直近の新潟戦も、その“わずかな隙”を突かれた。後半、GK岩崎有波から小野奈菜へのパスのズレを見逃さなかった新潟の川澄奈穂美がループシュートを決め、これが決勝点となった。

【「試合に出ないと成長はできない」】

 N相模原の育成組織ドゥーエ出身で、前節、WEリーグデビューを飾ったGK岩崎にとっては辛い現実を突きつけられる失点となった。だが、小笠原監督は「積極的につなごうとした中でのミス」と捉えていた。

「GKは試合に出て成長するという信念があって、どれだけ経験不足のGKでも、試合に出さないと成長することはできないと思っています」(試合後会見)

 試合直後にミックスゾーンに現れた岩崎は、消化しきれない悔しさを抱え、歯を食いしばるような表情をしていたが、それでも前をしっかりと見据えて言葉を紡いだ。

「試合に出て学ぶことはたくさんありますし、自分自身、成長できている実感があります。失敗から学んだことを次の試合に活かしたい。GKは1人しか出られないポジションなので争いは激しいですけど、試合に出させてもらっている時にチャンスを結果につなげて、チームに貢献したいです」

 WEリーグはプロリーグとして厳しい参入基準を設けているため、現状は下のカテゴリーへの「降格」がない。だが、お金を払って見にきている観客に報いることも、プロチームの使命と言える。その責任感が、選手たちの表情ににじむ。

(写真提供:WEリーグ)
(写真提供:WEリーグ)

「信じてやり続けるしかないとは思いますし、取り組んでいる成果が出ているところは出ていて、決して悪い部分ばかりではないと思っています」

 大宮に0-1で敗れた3月24日の試合後に、平田はこんなコメントを残した。その成果が勝ち点3に結びつく瞬間を、ファンやサポーターは待ちわびている。

 次節は、現在6連勝中で暫定首位の浦和のアウェーに乗り込む。浦和は7試合で10得点と、得点ランキング独走中(12得点)の清家貴子を筆頭に、14試合で35得点とぶっちぎりの得点力を誇る昨年女王だ。

 5失点の大敗を喫したホームの試合から1カ月。

 勝利に飢えたN相模原は、強豪相手に浮上のきっかけを掴むことができるだろうか。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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