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オーストラリアを圧倒、ヤングなでしこが挑むアジアの頂点。世代を超えたライバルとの“再戦”へ

松原渓スポーツジャーナリスト
ヤングなでしこ(写真提供:AFC)

【選手ミーティングでかわした決意】

 ドラマの舞台は整った。

 ウズベキスタンで開催中のAFC U20女子アジアカップ。2月13日に行われた準決勝で、U-20日本女子代表(ヤングなでしこ)はU-20オーストラリア女子代表を5-1で下して決勝に進出。16日に行われる決勝戦では、グループステージで敗れたU-20朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と再び激突する。

 同国に0-1で敗れた10日の敗戦で浮き彫りになった攻守の課題とミスを修正し、オーストラリア戦では気持ちもしっかりと切り替えていた。北朝鮮との試合後に選手たちが狩野倫久監督に提案した「選手ミーティング」では、林愛花キャプテンが先導役となり、23人の選手全員がこの大会への覚悟や決意を口にしたという。

 ボランチとして中盤を支え、副キャプテンとして林をサポートしてきた角田楓佳は、秘めていた思いをこう打ち明けた。

「自分はU-17もU-20の国際大会も出ていないので、みんなで決めた目標に向かってピッチでプレーできるのは当たり前ではなかったこと、『それが今できていることがすごく楽しい』と伝えました」

 今大会初出場の北朝鮮戦で失点に絡んだGK鹿島彩莉は、日本のゴールマウスを守り抜く思いを言葉に込めた。

「初めての試合だったのですごく緊張しましたし、自分のミスからの失点だったので、『しっかり修正して臨みたい』と、決意を込めて話しました」

 そして迎えた当日。狩野倫久監督は北朝鮮戦から先発メンバー5名を変更。中盤の左右に辻澤亜唯と久保田真生を起用し、トップ下には天野紗を置く4-5-1というフォーメーションで臨んだ。全試合に先発しているのはセンターバックの米田博美と中盤の天野のみで、ボランチの組み合わせや、前線の組み合わせも毎試合違う。

「複数のポジションとフォーメーションでプレーできる選手が多い」強みを最大限に生かし、中2日でコンディションも整えた日本は、オーストラリアを圧倒した。

狩野倫久監督(写真提供:AFC)
狩野倫久監督(写真提供:AFC)

 その内容は、シュート数は42対1、枠内シュート18対1、ボール支配率70%超というデータが示す通りだ。

【ラスト30分で4得点のゴールラッシュ】

 日本は立ち上がりからハイプレスを仕掛けて相手陣内に攻め入ると、開始早々の2分に、コーナーキックから米田がヘディングで叩き込んで先制。

 その後は左サイドの辻澤が俊敏性を生かして長身のオーストラリアDFを翻弄し、右の久保田も積極的に仕掛けた。たまらずゴール前を固めた相手を土方麻椰、天野らがワンタッチパスで引きはがし、2列目から林、角田、最終ラインの佐々木里緒らがミドルシュートで追撃。

辻澤亜唯(写真提供:AFC)
辻澤亜唯(写真提供:AFC)

 13分にはカウンター攻撃を受けて、ペタ・トリミスのゴールで同点とされたが、その後も引くことはなく、“攻撃が最大の防御”とばかりに攻め抜いた。

「自分たちがボールを持てる時間が多く、手応えを感じていた中での失点だったから、みんな焦らないでプレーできたと思います」(角田)

 63分、コーナーキックに白垣うのが合わせて追加点を決めると、ベンチメンバーも含めて歓喜が炸裂。このゴールで勢いづいた日本は、交代選手も躍動する。

左から天野、角田、辻澤、白垣(写真提供:AFC)
左から天野、角田、辻澤、白垣(写真提供:AFC)

 83分には、土方のパスを受けた大山愛笑が、ダイレクトパスでスイッチを入れた。笹井一愛が落としたボールを再び大山がヒールで落とし、最後は土方が丁寧にフィニッシュ。土方は大会得点ランクトップタイの4ゴールを記録した。

 88分には、土方の仕掛けから笹井が決めてリードを広げ、その1分後には大山のパスを受けた松永のクロスがオウンゴールを誘い、5-1のゴールラッシュを締めくくった。

 オーストラリアは攻撃も守備も個で戦っている印象で、海外組が大半を占めるA代表とは戦術面でも大きな差が感じられた。

 日本はなでしこジャパンの約半数の選手がWEリーグでプレーしている。浦和でハイレベルなポジション争いに加わった19歳の角田は、「WEリーグで試合に出るようになってから、見えた課題や、自信につながるプレーがありました。WEリーグあっての代表だと思いますし、(今大会は)それを試せる場所だと思います」と、実感を込めて話した。

角田楓佳
角田楓佳写真:長田洋平/アフロスポーツ

 一方、中国戦を含めた3試合は、チームとしての課題も明確に出ているように見える。対戦国は常に裏のスペースを狙っており、決勝では一つのミスが致命傷になり得る。最終ラインを率いてきた白垣うのは、オーストラリア戦の失点シーンについて、「ディフェンス陣のラインコントロールが一番の課題だと思います」と、中2日での修正を誓った。

【4大会連続同カードでの決勝戦へ】

 もう1試合の準決勝は、北朝鮮が韓国に3-0で力の差を見せつけ、決勝に進出した。

 2015年以降、3大会連続で決勝は同じカードが実現しており、日本が3連覇中だ。ただし、すべて1点差以内(2015年はPK)の接戦を繰り広げてきたように、実力差は拮抗している。白垣は、「先輩たちが優勝してきた結果を見て、プレッシャーもありますが、自分たちができることを精一杯ぶつけるだけです」と、気負いのない表情で語った。

 北朝鮮はコロナ禍で国境を封鎖していたため、昨年4年ぶりに国際大会に復帰。A代表はパリ五輪最終予選で日本に敗れた。試合にも、勝利にも、飢えているだろう。

 だが、それは日本も同じ。今大会の事前合宿も含めると1カ月弱、チームが発足してからは1年以上に及ぶ濃密な時間を過ごしてきたヤングなでしこたちは、1試合ごとに経験値を高めながら右肩上がりの成長曲線を描き、目標まであと一歩というところまできた。

「全員が悔しい思いをして、選手ミーティングをして、短期間でリベンジに挑める。だからこそみんなのモチベーションはすごく高いと思います。絶対に、簡単な試合にはならないと思いますが、どんな展開になっても焦らないで、落ち着いてサッカーをすることが大事だと思います」(角田)

「(北朝鮮は)前からどんどんくる相手なので、冷静にビルドアップしたら崩せると思います。(ドリブルで)一人でも抜けたら有利になるし、ボールを受ける位置は意識していきます」(白垣)

「私は3試合目からの出場だったので、前回の試合(北朝鮮戦)は緊張が強かったのですが、オーストラリア戦ではだいぶ緊張がほぐれて体も動かせるようになったので、決勝はもっとリラックスして、無失点で終わらせたいと思います」(鹿島)

 今大会を締めくくるラストゲームで、ヤングなでしこは勝利の女神を振り向かせることができるか。

 AFC U20女子アジアカップ決勝戦は、日本時間3月16日の22時キックオフ。DAZNでライブ配信される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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