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ヤングなでしこがU-20ワールドカップ出場権獲得!アジアの壁に苦戦も、光った堅守と個の力

松原渓スポーツジャーナリスト
芸術的なFKで勝利を引き寄せた天野紗(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

【「練習通り」の1点目、芸術的な2点目】

 AFC U20女子アジアカップに出場しているヤングなでしこが、第2戦で中国と対戦。2-0で勝利し、他国の結果を受けてグループ2位以上とグループステージ突破、準決勝進出が確定。4位以内に与えられるU-20W杯出場権を獲得した。

 初戦のベトナム戦で10-0と圧勝した日本は、先発メンバー5人を交代。最終ラインの左に小山史乃観、センターバックに白垣うのが入り、ボランチは大山愛笑が先発。両サイドハーフは、左に松永未夢、右は久保田真生が先発した。

 最終ラインに170cm台がずらりと並ぶ中国は、球際の迫力がベトナムとは違っていた。初戦で30m近いミドルシュートを決めたフオ・ユエシンや、突破型のリ・ティンイングーら、A代表にも招集されている4人がゲームをコントロール。トップに入った長身のル・ジャーユーはターンが力強く、裏に抜けるタイミングも巧みで、日本の高いラインの背後を常に狙っていた。

 立ち上がりの15分間、日本はそうした間合いの違いにも苦しめられた。だが、今大会のチームコンセプトの一つでもある「即奪(奪われたらすぐに奪い返す)」を徹底し、ピンチを凌ぎ切る。

 そこから徐々に主導権を握り、26分に日本らしいコンビネーションから先制点を奪った。中盤で土方麻椰、松窪真心とつないだボールを大山が右のスペースに展開。久保田がマイナス気味に折り返し、走り込んだ土方が合わせた。

 持ち前の展開力で見せた大山は、「初戦のベトナム戦とは違って、相手のスピードの速さやリーチの長さに手こずりましたが、頭の中で攻撃のイメージはできていました」と振り返っている。ワンタッチパスと流動的な動きが織りなす「練習通りの形」で均衡を破った。

 日本はその後も、35分に小山がエリア外から無回転気味のシュートで中国のゴールを脅かすなど積極的にゴールを狙うが、179cmの高さと機敏さを兼ね備えたリウ・チェンが守るゴールは固く、2点目が遠い。逆に51分、クロスからル・ジャーユーにフリーで合わせられたが、GK大熊茜がファインセーブでピンチを救った。

 後半は、狩野倫久監督とワン・ジュン監督が積極的な交代策で試合を動かす。日本は前線に笹井一愛、中盤に角田楓佳が投入され、前線の配置を変えながら攻め手を探った。最終ラインはセンターバックの米田博美と白垣の長身セレッソコンビが奮闘。次の1点が結果を左右しそうな緊迫した時間が続く中、沈黙を破ったのは、ボランチの天野紗だった。

 88分、松窪の仕掛けから、ペナルティエリア手前で直接フリーキックのチャンスを得た日本。天野は「迷いなく狙おうと思っていました」という。直線的な弾道からゴール前で鋭くカーブしたボールは、中国のDF4人が並ぶ高い壁を越え、最長身のGKの指先をかすめるようにゴール右上に突き刺さった。フィールドプレーヤー全員が天野に飛びつき、中国の選手たちは呆然とした表情で失点の余韻を受け止めた。このゴールで試合は決まった。

【経験を力に変えて】

「思っていたより、相手のプレスが速いと終始感じていました。相手のプレスバックやディフェンダーのスプリントスピードが速いのは、試合中に驚いた部分がありました」

 フル出場で勝利に貢献した土方は、立ち上がりの苦しい時間帯についてそう振り返っている。前後半の最初は、体格差と強さで押し切られるシーンもいくつかあった。だが、その時間帯に失点しなかったことが、2つの得点への呼び水となった。前線の土方や松窪を筆頭に、前線の選手たちも守備でハードワークを厭わなかった。

土方麻椰
土方麻椰写真:松尾/アフロスポーツ

 日本は今大会に臨む前の国内合宿で、守備の精度や攻撃への切り替えを洗練させてきた。「ゴールに向かう力強い奪い方」(狩野監督)にこだわり、プレッシングの精度や奪うポイント、一人かわされた後の守備など細部にこだわってきたという。1点目は、その成果が表れたゴールだったようだ。

 勝負どころでは、経験ある選手たちの判断が光った。1点目の起点となった松窪、土方、大山と2点目を決めた天野は、2022年のコスタリカU-20ワールドカップ準優勝メンバー。同世代では藤野あおばや浜野まいか、石川璃音など、10代でA代表のワールドカップに出場した選手たちが身近にいる中で、今大会は選手たちの目標設定値も上がっている。

 WEリーグの東京NBで存在感を増している土方は、今大会ではFWとしてチームを優勝させること、個人としては最低6ゴール(現在3ゴール)で得点王という目標を掲げている。

 だが一方で、アジアのライバルを相手にする難しさはどの世代も変わらず、中国戦ではそれを実感した選手が少なくなかったようだ。

「この大会よりも、WEリーグの方が足元の技術や戦術理解度は高いのですが、こういう大舞台では、どれだけ自分のプレーを発揮できるのか、というメンタル的な部分でも強くないとダメだなと、つくづく思っています」(土方)

 東京NBの下部組織から昨年、早稲田大に進学し、「個人で打開するところや、得点に絡むところは成長したと思う」という大山も、土方と共通する思いを抱いていた。

「ヨーロッパの選手や、ワールドカップで戦う相手は技術や戦術の部分で勝負してくる相手が多いのですが、アジアの国は気持ちだったり、サッカーをやる上で欠かせない部分を一番大事に戦ってくるので、自分たちは技術を発揮するだけでなく、その部分でも負けてはいけないなと思います」

大山愛笑(写真は2022年コスタリカW杯時)
大山愛笑(写真は2022年コスタリカW杯時)

 よく言われる「アジアの難しさ」は、2人が言うように「勝利への執念」やメンタル面の部分も大きいのだろう。

 それを差し引いても力の差を示せるのは、国内のプレー環境や体系的な育成システムが整っている証でもある。そして、若い選手たちの吸収力はすさまじい。

 WEリーグのINAC神戸でレギュラーとしてプレーする天野は昨年、年齢制限のない日本女子代表(なでしこジャパンではないが)の一員として、アジア競技大会(杭州)に出場。本職のボランチではなく、左サイドバックに抜擢され、優勝に貢献した。その経験が今大会にも生きているという。

「ボランチをやっていると周りの選手も近いし、助け合える部分が多いのですが、サイドバックは1対1の状況で自分で対応しなければいけないので、そういう(相手や味方との)距離感は(試合中に)修正できるようになったと思います」

天野紗
天野紗写真:森田直樹/アフロスポーツ

 初めて国際大会を経験する選手たちも、1試合ごとに成長していく。それも、この大会を見る醍醐味だ。

【第3戦は難敵・北朝鮮】

 日本は中2日で、10日に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と対戦する。U-17世代とU-20世代で2回ずつワールドカップを制している北朝鮮は(日本は1回ずつ)、この世代では屈指の強豪国。2019年から昨年までコロナ禍で国境を封鎖し、国際大会から離れていた分、試合勘は完全に戻っているとは言い難い。だが、今大会を見る限り、相変わらず球際は激しく、強そうだ。

 2月のパリ五輪アジア最終予選ではA代表が日本に敗れてパリへの道を閉ざされたこともあり、リベンジの思いもあるかもしれない。だが、日本の勝算はある。アジア競技大会で北朝鮮と対戦した天野の言葉は、頼もしい根拠の一つだ。

「(北朝鮮は)球際には激しくくるのですが、その勢いを利用して(マークを)はがしていく部分は今までの相手よりやりやすいと思います。引いて守るイメージはないので、出てきてくれるとありがたいなと思います」

 同じく、アジア競技大会で活躍した土方も、「ボールへの食いつきがすごいので、いいタイミングで背後に抜け出したり、足元に早いボールをつけてもらって相手と入れ替わったりするようなプレーが生きてくると思います」と、ゴールへのイメージを描いている。

 狩野監督は2試合とも5つの交代枠をすべて使い切り、総力戦で戦っているが、北朝鮮も同じだ。中2日の連戦で疲れも出てくる中で、どのように90分間をマネジメントしていくか、両監督の采配対決にも注目したい。

 U-20北朝鮮女子代表戦は、日本時間3月10日の17時キックオフ。DAZNでライブ配信される。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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