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浦和・安藤梢の2ゴールで皇后杯ベスト4へ。進化するパフォーマンスが証明する「年齢はただの数字」

松原渓スポーツジャーナリスト
安藤梢(写真提供:WEリーグ)

【地元・宇都宮で勝利を導く2ゴール】

 2年ぶりの皇后杯でのタイトルに向けて、文句なしの内容だった。

 1月14日に行われた皇后杯準々決勝で、三菱重工浦和レッズレディースがジェフユナイテッド市原・千葉レディースを破ってベスト4に駒を進めた。

 2ゴールを決めたのは、安藤梢だ。42分の先制点はセットプレーの流れから生まれた。自陣からGK池田咲紀子が送ったロングフィードに菅澤優衣香が競り合い、ボールはそのままの勢いで後ろに流れる。敵味方が入り乱れるゴール前の密集で予測しづらいボールの軌道を、安藤は的確に予測していた。ペナルティエリア内に弾んだボールに合わせるように、左足でゴールに流し込んだ。

「あの辺にボールがこぼれてくるだろうな、という予測もあったし、ピッチもちょっと濡れていたので流れてくるかな、と思って走りこみました」

 後半も立ち上がりからボールを握ると、50分には勝利を引き寄せる2点目を決める。ペナルティエリア内左でボールを受けると、ファーストタッチで対峙するDFをかわし、左足でゴールに向かう軌道のクロス。これをファーサイドで待っていた菅澤が押し込んだが、クロスがすでにゴールに入っていたため、記録は後に安藤のゴールと修正された。

「ファーを狙ったクロスだったんですが、ラッキーな形で入りました」

 安藤はそう振り返っているが、利き足ではない左で、トップスピードに乗ったまま狙ったポイントにボールを蹴る技術がなければ引き寄せられなかったチャンスだ。

 この試合は自身の地元である宇都宮での開催だったため、「空気感からまさにホーム。のびのびプレーできました」と、ゴールの喜びも格別だったようだ。

 安藤はWEリーグのレギュラーで最年長の41歳だが、「年齢はただの数字」と語った言葉通り、進化し続けるパフォーマンスで観客やサポーターを魅了し続けている。本職はFWだが、ケガ人が多いチーム事情で一昨年はボランチ、昨年はセンターバックが主戦場だった。今季もCBでの出場が続いていたが、先週のリーグ7節・大宮戦(○3-1)では久々に左サイドハーフでプレー。2ゴールを決めて勝利の立役者となった。

ポジションを移して最初の試合で2得点(写真提供:WEリーグ)
ポジションを移して最初の試合で2得点(写真提供:WEリーグ)

 そして、この試合でも同ポジションで2ゴール。まさに“安藤劇場”だ。両ゴールに絡んだ菅澤は、試合後にこう証言している。

「安藤選手が前に入ることで推進力が増して、クロスボールの質も上がることはチーム全員が感じていると思います。それによって、チーム全体が高い位置でプレーできて、(柴田)華絵や(水谷)有希が攻撃参加できた。レッズらしいサッカーができたと思います」

【強度を増した攻撃力と厚くなった選手層】

 今季のWEリーグは守備のテコ入れをしているチームが多く、1点を争うゲームが多い。アタッカーは厳しいプレッシャーのなかでプレーしなければならないが、浦和はリーグ戦7試合中6試合で複数得点を記録している。菅澤、猶本光、清家貴子らが形成する強力な前線に、ボランチの柴田華絵、両サイドバックの水谷有希と遠藤優らがサポートに加わり、多様なコンビネーションを生み出す。直近の2試合では、その攻撃陣に百戦錬磨の安藤が加わることで、攻撃の強度が増している印象だ。

 また、今季の浦和は、昨季に比べて選手層がさらに厚くなっている。最終ラインは代表に定着した20歳の「アジアの壁」石川璃音と、守備エリアを広げている長嶋玲奈がセンターバックを組み、長期離脱から復帰したGK池田がゴールを守る。

リーグ屈指の個の強さを誇る(写真提供:WEリーグ)
リーグ屈指の個の強さを誇る(写真提供:WEリーグ)

 菅澤とポジションを争う21歳の島田芽依もスケールが大きく、ボランチは柴田の相方に19歳の角田楓佳が台頭。伊藤美紀、栗島朱里、塩越柚歩、佐々木繭ら、代表経験のある中堅世代がサブに回ることもあるほどだ。

 実力のある選手たちが同じ温度で、同じ方向を向いて戦うのは容易ではないはず。だがその点において、言葉でも背中でも伝えることができる安藤の存在はやはり大きいのだろう。

 練習や試合に臨むストイックな姿勢や丁寧なメディア対応は、筆者が記憶する限り、海外に挑戦する前の20代前半から一貫していた。帰国後、浦和で控えに回った時期もそれは変わらず、「紅白戦では控えチームが良い方が強いチームになる」と、サブの選手が練習の質を上げ、チームが強くなることを証明した。

 WEリーグは現在、30代後半の選手が所属するチームは過半数を占め、その約3分の2の選手たちがレギュラーとして活躍している。その先頭で、浦和の背番号10は走り続けている。

「前のポジションで出る時は、自分らしくドリブルで仕掛けてゴールを狙う姿を皆さんにお見せして、ちょっと驚かせたいという気持ちもあります。自分で『年齢はただの数字』と言った以上は、しっかりパフォーマンスを見せていきたい。それも、戦うモチベーションになっています」

WEリーグ最年長ゴールを更新し続けている(写真提供:WEリーグ)
WEリーグ最年長ゴールを更新し続けている(写真提供:WEリーグ)

 1月20日の準決勝で浦和が対戦するのは、カップ戦王者のサンフレッチェ広島レジーナ。

 リーグ戦は2位につけている浦和に対し、広島は8位だが、今季はカップ戦とリーグ戦で1勝1敗と互角の戦いを演じている。広島は直近の公式戦7試合で6ゴールと絶好調の上野真実や、「WEリーグの三笘薫」こと中嶋淑乃らを擁し、戦い方の幅もある。そして、チームが苦しい時には経験値と背中でチームを牽引する近賀ゆかりや福元美穂がいる。

 会場は、京都のサンガスタジアム。浦和にとっては、2年前に皇后杯のタイトルを掲げた縁起のいいスタジアムだ。

 これまで、1点を争う接戦で勝負強さを見せてきた安藤が、この試合でも浦和のカギを握る一人になることは間違いない。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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