WEリーグ・新潟の“堅守柔攻”が見せる威力。秋春制・降雪地域のハンデ「言い訳にしたくない」
【練習場が使えない日も】
2023年もいよいよ年の瀬が押し迫ってきたが、年末年始もサッカーイベントは盛りだくさんだ。全国高校サッカー選手権(男女)、全国大学女子サッカー選手権、元日には日本代表戦が予定され、その後はアジアカップ(男子)、パリ五輪アジア最終予選(女子)と、注目の大会が目白押しである。
26-27年から秋春制へのシーズン移行が正式決定したJリーグに先んじて、WEリーグは2021年から秋春制を採用している。年末年始は1月第1週目まで前期のリーグ戦が行われ、その後は皇后杯と中断期間を挟んで3月に後期リーグ戦が再開、6月まで行われる予定だ。
秋春制によって各種国際大会との足並みを揃えることは、世界と戦っていく上ではメリットも多い反面、降雪地域のクラブが被るデメリットを懸念する声は根強い。
積雪の影響で練習場の確保や集客が困難になり、コンディションを維持するために温暖な地域でのキャンプを行ったり、アウェーの連戦や公共交通機関の変更・宿泊等が重なったりするとコストは嵩(かさ)む。
Jリーグでは、豪雪地帯での練習環境設備などに対して100億円規模の財源を準備し、日本サッカー協会(JFA)も継続的な支援を行なっていく意思を示している。だが、WEリーグではそうした財源は準備されておらず、救済措置は取られてこなかった。
12月18日から19日にかけて、強烈な寒波の影響で日本海側に大雪が降り、新潟や長野は週末の試合に向けて練習できない日があったという。これは今年に始まったことではなく、実情を考えればWEリーグでもオープンに対策を議論していく必要があるだろう。
【攻守の強度がアップ、選手層の厚さも】
そのような中でも、新潟は今季、リーグ戦でここまで上位を維持してきた。プレシーズンのリーグカップで準優勝し、11月に開幕したWEリーグではここまで4勝1分1敗。皇后杯も含めれば現在、公式戦6試合負けなしと好調だ。
12月23・24日に行われた第6節ではアウェーで大宮と対戦し、2-1で勝利。首位の神戸と勝ち点1差の2位に浮上した。
立ち上がりから強度の高いコンパクトな守備と連動した攻撃で主導権を握り、前半16分、川澄奈穂美のクロスに石淵萌実がヘディングで飛び込んで先制。24分には、ゴール前のこぼれ球に滝川結女が詰めてリードを広げた。終盤に大宮がセットプレーから1点を返したものの、橋川和晃監督は交代枠も含めて手堅い試合運びを見せ、リードを守り抜いた。
試合前日の22日は、練習場として使用する聖籠町のアルビレッジに30センチ以上の雪が積もり、屋根付きのフットサルコートで調整して試合に臨んでいた。今年、アメリカから帰国して新加入し、キャプテンとして快進撃の一翼を担う川澄奈穂美は、困難な状況でもチームの勢いを感じている。
「実際に加入してみて、秋春制でやっていく厳しさも感じていますが、その中でも言い訳せずにやり続けなければいけないし、与えられた環境でできることをやって、結果を出していきたいです。練習ができない状況でも、その前から積み上げてきたものがあるので、広いピッチで練習できなくても体さえ動かせれば、試合で全員が共通認識を持ってプレーできるという自信はついてきています」
今季から指揮を執る橋川監督は、以前はJ3のFC今治で指揮を執っていた。今年7月に新潟に就任すると、最初にプレーモデルを示し、選手たちが自主的に判断してプレーできるサッカーを構築。目指すスタイルは堅守速攻から“堅守柔攻”へと変化し、得点パターンも自然と増えていった。
得点源を担ってきたエースの道上彩花がケガのため一時的に離脱しているが、得点力は衰えるどころか、直近の公式戦6試合で12得点と炸裂している。クロスやセットプレーからのゴールが多く、得点者の顔ぶれも多彩だ。
「失った後の切り替えの速さは練習からものすごく(監督から)言われていますし、奪い切ってからの速攻で、ペナルティエリア内までしっかり入れていたからこそ、あの得点が生まれたと思います」
2試合連続ゴールを決めた滝川は、そう力強く言葉を紡いだ。
また、守備もリーグ戦6試合で3失点と、リーグ最少タイをキープしている。18年間、新潟の攻撃のタクトを振るい続けてきた上尾野辺めぐみも、ゴール付近ではスライディングでブロックに入るなど、体を張った守備を見せている。昨年までサイドアタッカーだった園田瑞貴はサイドバックにコンバートされ、即座にフィット。守備の意識づけとともに、適材適所の起用も光る。
守護神のGK平尾知佳は、守備の安定感をこう分析する。
「センターバックがボランチに対して『どのコースを切ってほしいか』とか、常にそういう話をしているので、センターバックが球際に強くいける部分が増えました。失った後は前線からプレスをかけてくれる。本当に頼もしいですし、やられる感じがしないです」
それだけハードワークしていれば、終盤には運動量が落ちそうなものだが、交代でピッチに立つ選手のクオリティも高く、リードした試合は100%勝っている。特に、ケガ明けで少しずつ出場時間を伸ばしてきたボランチの川村優理は、「試合の終わらせ方」を熟知している。
「ベンチで状況を見ながら、流れをいい方向に持っていけるように意識して試合に入っています。自分のところでボールを落ち着かせることや、守備でゲームをうまくコントロールすることは、試合を重ねるたびに手応えを感じています」
【アウェーの声援も力に変えて】
ホームの平均観客数は、810人だった昨季に比べて今季は1766人と、2倍以上に増加。川澄や杉田亜未ら元代表選手の獲得も大きく、サッカーで魅了し、ファンサービスにも力を入れている。アウェーの大宮戦では、新潟から200人を超えるサポーターが駆けつけた。
最前線で攻撃を牽引する石淵は、「新潟は雪で大変な中、ファン、サポーターの方たちが駆けつけてくれて、アップの時からホームのような雰囲気を作って後押ししてくれました」と、サポーターに感謝を込めた。
12月30日には、アウェーのヨドコウ桜スタジアムで行われるC大阪戦に臨む。勝てば、暫定ではあるものの、チーム史上初の首位で年越しを迎えることとなる。
皇后杯はベスト8に進出しているが、1月中に行われる準々決勝から決勝までは、練習場の確保との戦いになる。降雪地域のクラブが直面する厳しい現実と向き合いながら、新潟はクラブ初タイトルへの道を切り開いていく。
*表記のない写真は筆者撮影