Yahoo!ニュース

皇后杯でジャイアントキリングは起こらず。WEリーグ勢が8強進出、一発勝負を制したチームは?

松原渓スポーツジャーナリスト
皇后杯5回戦で登場したWEリーグ勢が強さを見せた(写真提供:WEリーグ)

 女子サッカーの皇后杯は12月16、17日に5回戦が行われ、WEリーグの広島、千葉、浦和、仙台、新潟、埼玉、神戸、東京NBがベスト8進出を決めた。全国から高校や大学、地域リーグやなでしこリーグのチームも含めた48チームが出場。2021-22シーズンの皇后杯ではC大阪(現在はWEリーグ)、東京NBの下部組織であるメニーナが準決勝に進出するなど、下カテゴリーのチームがプロチームを破る波乱もあったが、今年は ジャイアントキリングは起きていない。

 一発勝負のトーナメントは1点を争う拮抗した展開になりやすいが、このステージでも全体的に1点差ゲームが多くなった。

【WEリーグ勢同士の対決はカップ戦王者に軍配】

 16日にカンセキスタジアムとちぎで行われた試合では、C大阪×広島のWEリーグ対決が実現。広島が、なでしこジャパンの中嶋淑乃のゴールで1-0で勝利した。創設3年目の広島は夏に行われたリーグカップでクラブ初タイトルを獲得。WEリーグでも台風の目になると予想されたが、開幕直前に攻守の要となる小川愛がケガで離脱するアクシデントもあり、WEリーグでは苦戦が続いていた。

 それでも、中村伸監督は「2冠目を目指せるのはうちだけですから」と話し、皇后杯を勝ち上がる現実的なプランを描く。この試合では平均年齢20.9歳の若さと勢いがあるC大阪に対して、「ゴールに鍵をかけるプランを共有しました」と、守備重視の戦い方を選択。リスクを負う場面は少なく、チャンスの数も限られたが、1回の決定機をものにした。

 51分、立花葉が右からカットインし、体勢を崩しながら上げたクロスに、ファーサイドで飛び出した中嶋が頭で丁寧に合わせてゴール。1点をリードした後はセーフティに試合を進め、終盤は5バックでC大阪の反撃をシャットアウトした。

 決勝ゴールを決めた中嶋(広島)は、高卒でオルカ鴨川に加入した2018年以降、110試合に出場して27ゴールを決めているが、ヘディングでのゴールは公式戦では初めて。代名詞とも言える変幻自在のドリブルは対戦相手から徹底研究され、ボールを持つと複数で対応されるようになった。だからこそ、変化が必要だった。

中嶋淑乃(写真提供:WEリーグ)
中嶋淑乃(写真提供:WEリーグ)

「シュートは上にふかさないように、しっかりゴールを見て打ちました。個人的に、ここ最近ずっといいプレーできていなくて、この試合も前半は仕掛けることができませんでしたが、点を取ってから切り替えられていいプレーができました。皇后杯は負けたら終わりなので、タイトルを目指して一戦一戦大事に戦っていきたいです」(中嶋)

C大阪にとっては1点が遠い試合となった。鳥居塚伸人監督が試合後に口にしたのは、「相手を見てプレーする力」の差だ。

「1回のチャンスを生かせるかというところで、経験の差が出たと思います。広島はしっかり相手を見て個人が判断してプレーできるけれど、うちは相手によって『せざるを得ない』プレーが多かった。それはチームの差であり個人の差なので、変えていくしかないと思います」

 広島は20日にWEリーグで浦和と、C大阪は23日に神戸との対戦が控えている。

【WEリーグ王者の浦和に挑戦した日体大】

 同会場で行われたもう1試合は、昨年WEリーグ王者の浦和となでしこリーグ1部の日体大が対戦。

 日体大は学生中心のチームだが、森田美紗希や渡部麗をはじめ、年代別代表歴のある選手を中心に、立ち上がりからアグレッシブさを全面に押し出した。日体大の大槻茂久監督は、「チャレンジャーとして前からボールを奪いにいく、自分たちのスタイルで戦いました」と、王者に真っ向勝負を挑んだことを明かしている。

 浦和も、そのチャレンジを真正面から受け止めた。今季は開幕前から代表組のブラジル遠征やタイで行われた女子ACLプレ大会など、連戦と長距離移動でコンディション調整に苦労している。だが、楠瀬直木監督はメンバーを落とすことなく、先発メンバーには途中出場が続いていたエースの菅澤優衣香を抜擢した。

「こういう大会ではジャイアントキリングが一番怖い。何かあった時に後悔したくないですし、リーグ戦でも(チーム内の)競争がある中で、やはりベストがあって、そこからの(各選手の)立ち位置というのをはっきりしたい部分がありました」(楠瀬監督)

 その菅澤は、立ち上がりから前がかりに圧力をかける日体大に対し、その隙を虎視眈々と狙っていた。前半20分、伊藤美紀のパスで背後のスペースに抜け出すと、角度のない位置からGK西川佳那の頭上を抜く鮮やかなループシュート。「ピンチの後にチャンスが来る。それをしっかり自分たちの得点にできてよかったです」と、決定力を見せつけた。

菅澤優衣香(写真提供:WEリーグ)
菅澤優衣香(写真提供:WEリーグ)

 さらに、66分には清家貴子が、ドリブルで2人をかわし右サイドを疾走。マイナスのパスを、中央のスペースに走り込んだ伊藤が決めて2-0。終盤は次々にフレッシュな控え選手を送り込んで手堅く試合を締めくくった。

 日体大のハイプレスも光ったが、勝負どころでは個人の力の差が明暗を分けた印象だ。国内では無敵のスピードを誇る清家はプレーの幅を広げており、伊藤とのコンビネーションも日に日に良くなっている。

「自分でシュートもいけるし、GKとDFの間にもパスを出せるし、マイナスにもパスを出せるように、選択肢を持ってプレーしていたので、相手は予測しにくかったと思います」(清家)

「貴子とはタイミングや合わせるポイントが合うまでやり続けるしかないなと思って、焦(じ)れずにどんどん、何回でも入っていこうと思っていました」(伊藤)

浦和は皇后杯で2年ぶりの王座奪還を狙う(写真提供:WEリーグ)
浦和は皇后杯で2年ぶりの王座奪還を狙う(写真提供:WEリーグ)

 一方、試合後の日体大の選手たちの表情からは、得るものが多い敗戦だったことが窺えた。

「これだけ強い相手にも通用した部分がありましたし、最後まで勝利を目指して諦めずに戦い抜けたことは収穫だと思います。この経験を必ず、インカレ(全日本大学女子サッカー選手権)につなげたいと思います」(大槻監督)

 日体大は24日から始まるインカレで、4年ぶりの日本一奪還を目指す。

 一方、浦和はリーグ戦では前節新潟に0-2で完敗しており、連覇に向けて負けられない試合が続く。

【2000人が入った埼玉と大宮の県内ダービー】

 17日、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場では大宮と埼玉が対戦。1-0で勝利した埼玉がベスト8進出を決めた。県内ダービーには、2000人を超える観客や両サポーターが詰めかけ、熱い声援を送った。

 今季、池谷孝新監督を迎えた埼玉は「ドーベルマンディフェンス」をキーワードに掲げて、相手に自由を与えない守備、攻撃では縦に速いスタイルを積み上げてきた。同監督は、それが「他チームとの戦力差を考えた上での選択」だと語っているが、1点を争うこの試合で、その一貫した現実路線が結実した。

「相手が格上だと分かっていたので、1チャンス、1ゴールのサッカーができればいいなと思っていました」(池谷監督)

 得点源でもあるエースの吉田莉胡が欠場する苦しい状況だったが、空中戦の強さとボールキープに安定感がある瀬野有希を1.5列目に置き、機動力のある園田悠奈が裏への動き出しでチャンスを創出。セットプレーでは、瀬戸口梢が精度の高いキックで決定機を生み出した。その攻撃が実ったのは前半23分。フリーキックで、瀬戸口が蹴ったライナー性のボールを瀬野が頭で落とし、センターバックの大沼歩加が体で押し込む。今季日本大学から新加入の大沼にとって、これがプロ初ゴールとなった。

大沼歩加(写真提供:WEリーグ)
大沼歩加(写真提供:WEリーグ)

「きれいなプレーが得意ではないので、泥臭くこぼれを詰める部分は練習から狙っていました。瀬野さんがいいところに落としてくれて、狙い通りの自分らしいゴールだったと思います」(大沼)

 後半は、大宮がエースの井上綾香と船木里奈を投入して形勢を逆転したが、5バックで耐え抜いた埼玉が、2大会連続のベスト8入りを果たした。

 今シーズン、5ゴールのうち3ゴールがセットプレーから生まれている。瀬戸口は、「一本一本、集中して蹴れていますし、競り勝てるターゲットが何人かいるのでこれからも合わせていきたい。(ホームの)熊谷にたくさんのお客さんが来てくださった中で勝利を届けることができてよかった」と笑顔を見せた。今週末のWEリーグは、23日に同会場で千葉と対戦する。

瀬戸口梢(写真提供:WEリーグ)
瀬戸口梢(写真提供:WEリーグ)

 大宮は公式戦3試合ぶりの敗戦。柳井里奈新監督の下、リーグ戦は4位と好調を維持しているが、中3日の連戦で迎えたこの試合はトップに坂井優紀を起用するなど、一部メンバーを変えて臨んでいた。柳井里奈監督は、「控え選手も日常からよくトライしてくれていますし、コンディションもいい状態でした。ただ、ディフェンス面やコミュニケーションの面でそこまで(準備)時間がなかった中で、私自身の決断のところで選手に迷惑をかけたと思います」と反省の弁を口にし、6日後のWEリーグ・新潟戦に向けて視線を切り替えていた。

 皇后杯準々決勝は、年をまたいで1月15日に各地で開催される。

皇后杯準々決勝日程

 WEリーグは秋春制で行われているため、前期は1月8日まで試合が行われる。北陸地方では17日に初雪を観測。降雪地域の練習環境確保や集客面の課題に、3年目のWEリーグはどのような解決策を見出していくのか。引き続き、注視していきたい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

松原渓の最近の記事