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2-0でブラジルを撃破!「勝ちきる」有言実行の勝利と収穫を得て、アジア最終予選へ

松原渓スポーツジャーナリスト
ブラジルに2-0で快勝した(写真:ロイター/アフロ)

【初戦から中2日で迎えた一戦】

 パリ五輪アジア2次予選の準備の一環として、ブラジル遠征を行ったなでしこジャパンは、12月3日のブラジルとの第2戦を2-0で勝利し、1勝1敗で活動を終えた。

 真夏のサンパウロは連日30度を超え、11時キックオフのこの試合も、前後半に給水タイムが設けられた。初戦から中2日というハードな日程だったが、暑熱対策の成果もあってか、日本は初戦よりもコンディションの良さを感じさせた。

 池田太監督は、初戦からメンバー5名を変更。システムは同じ4-3-3で、GK田中桃子、杉田妃和、林穂之香、猶本光、田中美南が先発に名を連ね、17歳の古賀塔子が2戦連続のスタメンを飾った。一方、ブラジルは初戦からメンバー6名を入れ替え、システムは4-2-3-1から3-5-2に変更。

先発メンバー5名を変更した
先発メンバー5名を変更した写真:ロイター/アフロ

 この変化に対し、日本は立ち上がりから、守備時にインサイドハーフの林が前に出て田中と2人で相手の3バックを牽制。すきあらばロングボールを放り込んでくるブラジルに対し、立ち上がりの3分には古賀のクリアがあわやオウンゴールかという場面も。だが、ポストに救われてピンチを切り抜けると、その後は前線で田中(美)が起点になり、連動した攻撃で徐々にペースを掴んだ。

 先制点は17分。日本のコーナーキックで、遠藤純のキックをファーサイドの南萌華がボレーで合わせ、シュートが相手に当たってゴールに吸い込まれた。南は10月のウズベキスタン戦でもコーナーキックから頭で決めており、「練習後にディフェンスラインの選手やキッカーと声をかけ合って練習してきた」(南)と話していた成果を発揮した。

先制ゴールを決めた南萌華(左)と熊谷紗希
先制ゴールを決めた南萌華(左)と熊谷紗希写真:ロイター/アフロ

 その2分後には左サイドで猶本、遠藤、林のトライアングルでボールを奪うと、猶本が対面するブルニーニャ・サントスとの1対1を制し、最後は田中(美)が20m超のロングシュートを決めてリードを広げる。

 後半、池田監督は石川璃音と長谷川唯を投入し、5バック(3-4-3)に変更。守備を安定させつつ前線にMF宮澤ひなたを投入して追加点を狙ったが、宮澤がわずか3分で負傷交代というアクシデントに見舞われた。

 代わって長野風花が中盤に入り、終盤は植木理子、谷川萌々子を投入。縦への推進力を増したブラジルの攻撃を粘り強く跳ね返しつつ、攻撃では長谷川や遠藤が攻撃のスイッチ役となりカウンターを仕掛けた。だが、最後までスコアは変わらず、2-0で日本が勝利した。

田中美南(背番号11)が追加点
田中美南(背番号11)が追加点写真:ロイター/アフロ

【それぞれの場所で積み上げたもの】

 連戦やタフなコンディション下での2連戦で得た経験値は、最終予選やその先のパリ五輪でも生きてくるだろう。今は様々なポジションや組み合わせの最適解を探り、チームの戦いの幅を広げる過渡期であり、積極的なミスは歓迎できる。

 一方、すでにパリ五輪出場を決めているブラジルにとっても、チーム力を底上げするために重要な2試合だったようだ。今年から指揮をとるアルトゥール・エリアス監督は、「公式戦で苦しまないようにするためのプロセスの一部」として、2試合で多くの選手にチャンスを与えたこと、また、「この試合ではよりスピードを出してフィールドの後方を探るプランがあった」と試合後の会見でコメントしている。

 日本は4-3-3で試合の入り方は初戦と同じだったが、ブラジルがシステムを変えてきた中で、ポジションのミスマッチに翻弄されない対応力が光った。一方、攻撃時にはブラジルのハードなプレッシャーにサポートが遅れてパスがつながらず、自陣でボールを失うシーンが何度かあった。最終局面では相手の決定力不足にも助けられたが、初戦ではそれが失点に直結している。

 5バックにした後半は守備の時間が増えたものの、カウンターで惜しいシーンを何度も作り出しているのは狙い通りだろう。システムや組み合わせを変えながら、この試合のテーマでもあった「勝ちきること」を体現したのは最大の収穫だ。

池田太監督
池田太監督写真:ロイター/アフロ

 両者の明暗を分けたのは決定力だった。セットプレーから奪った南の先制点はこの試合のポイントだった。

 田中美南は2試合連続ゴールと好調だ。今年に入って代表17試合で7ゴール。ポルトガル、スペイン、ブラジルなど、中堅国や強豪国からも点を取っている。ゴール期待値(シュート成功率)は、WEリーグトップ(「0.7」/第4節終了時)。中盤でゲームの作りにも参加し、「周りが点を取れれば、自分がもっと生きる」と、アシスト数も伸ばしている。

 田中とともに、猶本も国内で示してきた存在感を発揮した。浦和の司令塔として進化を続ける猶本は、1対1のドリブル成功率がWEリーグトップの81.3パーセントと、唯一の8割超えを記録(第4節終了時)。2点目の起点となったドリブル突破は、これまで代表ではあまり見なかった仕掛けだった。

猶本光
猶本光写真:築田純/アフロスポーツ

 ファーストタッチの正確性や出足の速さは向上している。10月の国内キャンプで森保ジャパンのチュニジア戦(2-0で勝利)の話題になった際、猶本は勝つために必要な伸びしろについてこう分析していた。

「(男子日本代表は)一人一人のファーストタッチの外し、技術が高く、動作が早い。逆にためておいて(ファーストタッチで相手を)パン!と外すプレーを一人一人がやるから、ボールがスムーズに流れていくのでさすがだなと思いました。それはワールドカップで優勝した(女子の)スペイン代表もみんながやっていたことなので、そういうところを自分たちもやっていかなければいけないと思います」  

 ベスト8へと躍進したワールドカップを経て、それぞれの場所で個を磨いてきた成果が実りつつある。そして、今回の2連戦では17歳の古賀、18歳の谷川ら、若い力がチームに勢いを与えた。

2試合に出場した古賀塔子
2試合に出場した古賀塔子写真:ロイター/アフロ

 激動の2023年を終えて、なでしこジャパンは2月パリ五輪出場権をかけたアジア最終予選の北朝鮮戦へと挑む。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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