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ブラジルとシーソーゲームを演じたなでしこジャパン。タフなコンディション下で問われる第2戦への修正力

松原渓スポーツジャーナリスト
なでしこジャパン(写真:REX/アフロ)

 来年2月にパリ五輪アジア最終予選を控えるなでしこジャパンは、11月30日にブラジル女子代表と国際親善試合を行った。

 強豪国とのマッチメイクが難航する中で、すでにパリ五輪出場を決めている強豪国(日本はFIFAランク8位、ブラジルは9位)と戦える貴重な機会だ。

 今年9月にはホーム(北九州)でFIFAランク31位のアルゼンチンと対戦し、8-0で大勝したが、アルゼンチンは長距離移動の疲れなどでコンディションが最悪だった。今回、日本はアルゼンチンと似た状況を経験している。

 国内組は先週末(11月26日)のWEリーグを終えた後、30時間超のフライトを経てサンパウロに到着。国内組に比べればフライト時間が短い海外組も、連戦をこなしている選手が多い上に、南米は季節が逆転するため、夏にあたる。

 池田監督は、来年2月に控えるパリ五輪アジア最終予選と五輪本番を見据えて「アウェイの環境に行き、相手からの圧力がかかる状況で自分たちが積み上げてきたものがどれぐらい通用するか」と、あえてタフな環境で強豪国に挑んだ。

 メンバーは、10月下旬からウズベキスタンで行われたパリ五輪アジア2次予選に出場した選手が中心。同予選をケガのため辞退していた藤野あおばが復帰し、ワールドカップでトレーニングパートナーに名を連ねた17歳の古賀塔子と18歳の谷川萌々子の高校生コンビが初招集となった。メンバー選考のサバイバルも進んでいる。

 試合は日本時間の深夜3時過ぎからJFA TVでライブ配信されたが、深い時間にもかかわらず2万人を超える人が視聴しており、期待の高さが窺えた。

 この試合で、日本は4-3-3のフォーメーションを採用。ワールドカップでベースとなっていた3-4-2-1に比べると、中盤の人数を増やしてボール保持を安定させられる利点があり、攻撃のバリエーションを増やす狙いがある。10月末にウズベキスタンで行われたアジア2次予選でも4-3-3がベースだったが、守備面はまだ洗練されておらず、実力国のブラジル相手に対してその力を試すチャレンジでもあった。先発メンバーには、古賀がセンターバックに名を連ね、代表デビューを果たしている。

古賀塔子
古賀塔子写真:REX/アフロ

 前半は日本がボールを持つ時間が長かった印象だが、ブラジルは随所に質の高い連係プレーや個のスキルを見せた。だが、日本もコンパクトな陣形を保ち、仕掛けるスペースを与えない。守備は機能していた。

 しかし、攻撃では最後の局面で精度を欠き、試合は膠着。その中で先に沈黙を破ったのは日本だった。38分、遠藤純と宮澤ひなたのホットラインで左サイドを崩し、宮澤のクロスをファーサイドの長谷川唯が折り返すと、藤野が右足ダイレクトで合わせて先制。しかし、その3分後には相手にペナルティエリア内手前でフリーキックを与え、ベアトリス・ザネラートに鋭いカーブのかかったキックを決められ、1−1。

 日本は後半から石川璃音と清家貴子を投入して攻撃のギアを上げたが、全体的にパスの精度が低く、次第に形勢はブラジルに傾く。61分と63分に相手のプレッシャーからパスミスや判断ミスを誘発して立て続けに失点、1-3とリードを許した。 

 しかし、ここから日本が怒涛の反撃を見せる。

後半に5点が入るシーソーゲームとなった
後半に5点が入るシーソーゲームとなった写真:REX/アフロ

 その糸口となったのが、交代でピッチに立った選手だ。68分に谷川と田中美南、79分には中嶋淑乃が送り出され、代表デビューとなったアンカーの谷川も積極的な攻撃参加を見せた。

 84分には清家と谷川が右サイドの高い位置から相手を追い込んでボールを奪い、田中とのワンツーでペナルティエリア内に抜け出した谷川が倒されて、PKを獲得。これを遠藤が決めて1点差に追い上げると、88分には、右サイドバックの清水梨紗のクロスを田中がワンタッチで合わせて一気に同点に追いつく。流れは完全に日本に傾き、逆転ムードも漂った。

 しかし、この試合の決勝ゴールが生まれたのは試合終了直前のラスト20秒だった。ブラジルは交代出場のプリシア・フロールがエリア内で右足を振り抜くと、平尾知佳の頭上を越えるボールがゴールネットを鮮やかに揺らした。

 こうして、最後まで勝利を目指した両チームの白熱した攻防は、ブラジルに軍配が上がった。

【南米の笛、ハードスケジュールの中で試される修正力】

 池田ジャパンにとってはワールドカップ以来の敗戦となったが、格上として臨んだアジア2次予選とは異なる実力国にチャレンジした中で、前に進むためのヒントが見えた試合だったと思う。

 試合を通じてレフェリーの笛はやや相手寄りに見え、ブラジルの選手たちも“ファウルのもらい方”を心得ているように思えた。アウェーならではの経験とも言える。

 パスミスによる2失点に絡んだ熊谷紗希は、代表ではセンターバックが本職だが、4-3-3では一つ前のアンカーのポジションを務める。同ポジションで熊谷を起用している理由について、池田監督は「予測能力の高さや、前で跳ね返せる強さに期待」していると話していた。アジア2次予選ではその長所が発揮される場面が多かったが、抜け目ないブラジルは、熊谷がポジションを上げることで生じるスペースや日本にとってのリスクを見抜き、虎視眈々と狙っていた。基本的なパススピードの問題もあるが、熊谷の良さを活かすために、前がかりになった時の全体的なポジショニングのバランスは再考の余地がありそうだ。

 決勝点となった4点目はサッカー大国らしいスキルフルなプレーを褒めるしかない。

熊谷紗希
熊谷紗希写真:REX/アフロ

 一方、日本が奪った3ゴールはいずれも理想的な崩しで、2点ビハインドから追いついたことは自信になる。交代で入った選手が確実にギアを上げられる選手層の厚さは池田ジャパンの強みでもあるが、この試合では特に、清家、田中、谷川がそのタスクをしっかりとこなしていた。

 パリ五輪ではメンバーの枠が18に絞られるため、指揮官は現段階では「複数のポジションで起用してできることを確かめる」「組み合わせのバランスを見る」「チームとしてやれることを増やす」といったことをポイントに挙げている。

 海外組は、所属クラブでは中盤でプレーしている選手が多いが、この試合で30分弱の出場ながら存在感を示した谷川が、先発でブラジル相手にどのぐらいプレーできるのかは見てみたい。

 日本は中2日で、ブラジルともう1試合を戦う。試合が行われる12月3日の天気予報は晴れで、サンパウロの日中の気候は32度まで上がると予想されている。タフさが求められるコンディションの中で、日本は初戦の課題をどのように修正して臨むのか。猶本光、杉田妃和、林穂之香、三宅史織、山下杏也加、田中桃子ら、まだピッチに立っていない選手たちも含めて、先発メンバーを大きく変える可能性もある。

 試合は日本時間の12月3日(日)23:00キックオフ。第1戦目と同じく、JFA TVで配信される(アーカイブもあり)。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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