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WEリーグ・浦和が3位に浮上。2試合連続ゴール中の菅澤優衣香が掲げる「最低二桁得点」

松原渓スポーツジャーナリスト
千葉に勝利し、3位に浮上した(写真提供:WEリーグ)

【「ボールを空間に置けば決めてくれる」】

 途中出場で2試合連続ゴール。停滞した空気を切り裂いたのは、頼れる大黒柱だった。

 11月26日に行われたWEリーグ第4節で、千葉をホームの浦和駒場スタジアムに迎えた浦和は、菅澤優衣香と清家貴子のゴールで2-0と勝利。タイで行われたAFC女子クラブチャンピオンシップも含めた6連戦という過密日程の中でも、着実に勝ち点を積み上げ、暫定3位に浮上した。

 両チームとも組織的な守備と素早い切り替えを徹底し、試合は膠着。だが、64分に浦和が菅澤をピッチに送り出すと、3分後に均衡が破れた。

 ドリブルでペナルティエリア内に進入した清家が、密集したゴール前に回転のかかった鋭いパスを送ると、菅澤がDFの死角から飛び出し、体勢を崩しながら相手より足一つ分早くボールに合わせた。

 ゴールの瞬間、千葉は大半の選手が帰陣しており、ペナルティエリア内はGKも含めると7対2の状況になっていた。パスの軌道、スピード、菅澤のポジショニングと飛び出すタイミング、シュートフォーム。どれかひとつでも違っていたら、ゴールネットは揺れなかっただろう。

菅澤優衣香(写真提供:WEリーグ)
菅澤優衣香(写真提供:WEリーグ)

 菅澤はその3日前の東京NB戦(△2-2)でも2点ビハインドの後半から出場し、清家のクロスに合わせたワンタッチゴールで反撃の流れを作っている。共通点の多い2つのゴールは、まるでデジャヴを見ているようだった。

「ベレーザ戦同様、菅澤選手がゴール前に入っている時は、ボールを空間に置いておけば決めてくれるので、そこに置いたらやっぱり決めてくれました」

 清家は2つのアシストをそう振り返っている。「空間にボールを置く」という表現はあまり聞かないが、以前、猶本光も同じ表現を使っていた。菅澤に対しては、パスの出し手が合わせにいかなくても「大体この辺に蹴れば合わせてくれる」という信頼感があり、浦和の選手たちはそれを「置く」と表現する。

 83分の2点目は、塩越柚歩のフリーキックから、菅澤のポストプレーを介してサイドから走り込んだ清家が決めた。3日前の東京NB戦でも、2点目は菅澤のポストプレーと清家の仕掛けが起点となり、塩越の同点弾につながった。

清家貴子(写真提供:WEリーグ)
清家貴子(写真提供:WEリーグ)

 相手に研究されても、それを上回るコンビネーションを発揮できる力こそ、浦和が強者たる所以だろう。菅澤曰く、空いているスペースやポジショニングを見て、「パスが出てくる」「ここに出せば決めてくれる」という阿吽の呼吸があるという。

【限られた時間でチームを勝たせる存在に】

 今季、WEリーグは多くのチームが明確なプレーモデルを持ち、意図的な崩しやボール奪取など、質の高いプレーを増やしている。守備はより堅くなり、FWにとってゴールを奪うのはさらに難しくなっているはずだ。

  それでも、菅澤はゴール前で巧みに駆け引きをし、わずかな隙を逃さない。

「ディフェンダーとの駆け引きの場面で、膨らんだり(中盤に)落ちたり、いろいろ考えて動く中で相手を上回れているのかな、とは思います。でも、まだまだ足りないところがあるので、成長しなきゃいけないなと」

 今年10月に33歳になった点取り屋は、そう控えめにコメントした。トップリーグのキャリアは今年で16シーズン目。その間、チームをまたいで4度の得点王と7度のベストイレブンを受賞、代表でも84試合に出場して29ゴールを決めてきた。勝ってきた経験の豊富さは、苦しい時にチームを導く勝負強さと密接に関係している。

経験値と実績は揺るぎない(写真提供:WEリーグ)
経験値と実績は揺るぎない(写真提供:WEリーグ)

 だが、まだ本調子には程遠い。楠瀬直木監督が「ケガの復調具合で出場時間を考えている」と話しているように、今季はカップ戦も含めて8試合を戦い、まだフル出場はゼロ。筋力を落とさないように心がけ、フィジカルコーチと連携しながら限られた時間でも全力でプレーできるよう努めているという。

「流れを変えるのは途中から出た選手の役目だと思っています」

 長年、当たり前のように先発に名を連ねてきた菅澤からその言葉を聞くのは違和感があった。だが、今はスーパーサブとして結果を残すことがチームに貢献する唯一の方法だと、覚悟を決めているようでもあった。そして、千葉戦の後には、先発した島田芽依の貢献度の高さを強調した。

「(先発した)芽依が後半の途中まで頑張ってくれたおかげで、相手の疲労もあってスペースが生まれたので。そこが今日の試合で一番、大きなポイントだったと思います」

 島田は2021年にユースから昇格後、目標とする菅澤の背中を見つめ続けてきた。楠瀬監督は、21歳の次世代エース候補が菅澤のように力強くチームを牽引してくれることに期待しつつ、菅澤の完全復帰も待ち望んでいる。

「彼女の決定力は大したものですが、やはりスタートで出て90分でというところを目指して欲しい。ケガからの復帰具合もありますが、(復帰したら)まだまだオリンピックを目指して欲しいし、上を見て突き進んで欲しいです」

 菅澤自身が掲げる今季の目標は、「最低でも二桁得点」。たとえフル出場できなくとも、それはWEリーグを牽引してきたストライカーとして譲れない矜持でもある。

 東京NB戦の得点後は、サポーターの歓声を背に、近づいてきたカメラに向かって親指と人差し指でマスクをつけるゴールパフォーマンスを披露した。これまでにも、ハートマークや投げキス、仁王立ちなど、さまざまなポーズで喜びを表しており、それもファンにとってスタジアムに足を運ぶ楽しみの一つだろう。

毎回違うゴールパフォーマンスも楽しみの一つ(写真提供:WEリーグ)
毎回違うゴールパフォーマンスも楽しみの一つ(写真提供:WEリーグ)

 今週末は代表活動のため、WEリーグは1週間の中断を経て、12月の2週目に再開する。浦和は次戦、12月10日にアウェーで新潟と対戦する。千葉戦に続く古巣対決で、背番号9はどんな輝きを見せてくれるだろうか。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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