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WEリーグデビュー1年目で2冠に貢献。浦和・GK福田史織の飛躍のシーズン

松原渓スポーツジャーナリスト
福田史織(写真:松尾/アフロスポーツ)

【成長の1年に】

 WEリーグ2冠の三菱重工浦和レッズレディースのゴールを守り抜いた、20歳のゴールキーパー。福田史織は今季、大きく成長した一人だ。

 2021年1月にユースから昇格し、WEリーグ1年目の昨季は全試合でベンチ入り。出場機会はなかったが、GK池田咲紀子に次ぐ第2GKとして、オフザピッチでチームを支えた。しかし、今シーズンは開幕前に池田が右膝前十字靭帯損傷のケガで長期離脱。福田は7年以上浦和のゴールを任されてきた守護神に代わって、その重責と向き合ってきた。

 4-0で快勝し、優勝を決めた第21節の大宮戦後、今シーズン特に成長を感じたポイントを聞くと、こんな答えが返ってきた。

「最初は緊張もありましたし、『自分が出て大丈夫なのかな』という思いがあったんですが、少しずつほぐれていきました。ミスが重なって失点が増えた時期もありましたが、チームで『こういう守備をしていこう』という戦い方があって、そこをしっかりとやっていくことができて。その中で、メンタルとか、クロス対応は特に成長できたところだと思います」

試合を重ねてメンタルを成長させた
試合を重ねてメンタルを成長させた

 福田の特徴は、1対1の守備や、至近距離のシュートストップ。サッカーを始めた頃はFWだったが、ジュニアユースのセレクションの時に五段飛びの記録で周囲を驚かせ、その身体能力の高さからGKに誘われ、キーパーに転向したという。

 浦和は身体能力の高い選手が多いが、福田はその中でも立ち幅跳びで周囲が驚くような記録を出したことがあるという。優れた反射神経とジャンプで際どいボールを弾き出すプレーは、MF安藤梢から「トビウオセーブ」と名づけられた。

 その必殺技を磨き、昨夏にコスタリカで行われたU-20女子ワールドカップでは準優勝に貢献。だが、出場はグループステージ初戦のオランダ戦(◯1-0)のみで、悔しさも持ち帰った。

「100回の練習より1回の本番」という言葉があるように、真剣勝負の公式戦の場でしか学べないことがある。そこで自分の限界を知り、努力を重ね、また落ち込んで、再び這い上がる――。

 チームは試合で勝利することの方が圧倒的に多かったが、福田はいつも、自分ができなかったことに目を向けて、悔しさをにじませていた。

U-20ワールドカップでは準優勝に貢献
U-20ワールドカップでは準優勝に貢献

【悔しい経験を乗り越え、8度のクリーンシートを達成】

 昨年9月のリーグカップでデビューした福田にとって、初めての「大一番」は、デビューから3試合目でやってきた。日テレ・東京ヴェルディベレーザとのリーグカップ戦決勝だ。

 結果は3-3。PK戦で、U-20代表でチームメートだったFW藤野あおばのキックを止め、初タイトルを獲得した。だが、終了後のホイッスルが鳴った瞬間、込み上げてきたのは嬉し涙ではなく、悔し涙だった。

「3失点は全部自分の判断ミスです。1点目は、サイドに流れたところに、自分が行こうと思えば行けたシーンで、2点目もDFの選手へのパスが短くなって、カバーもできなかった。3点目も、相手のシュートを弾こうと思えばしっかり弾けたはずなので……すべて、自分がミスをしたことで招いた失点なので、チームのみんなに申し訳ないし、点を取ってくれて、勝ってくれたことに感謝しかないです」(昨年10月のリーグカップ決勝時)

デビュー後すぐにWEリーグカップでタイトルを獲得
デビュー後すぐにWEリーグカップでタイトルを獲得写真:西村尚己/アフロスポーツ

 キーパーは「最後の砦」として、常に失点の責任と向き合う宿命を背負う。ただ一人手を使うことを許されている代わりに、精神的な重圧も、他のポジションとは異なる。

 それでも福田が恐れずにチャレンジし続けることができたのは、「2点取られても3点を取り返してくれる」攻撃陣への信頼があったからだろう。センターバックの安藤の支えも大きかったようだ。

「(安藤)梢さんはどんな時でも、ナイス!と前向きに褒めてくれたり、たくさん声をかけてくれて、体を張ったプレーでも、精神面でもいっぱい支えてもらいました」

 第5節大宮戦で、初の無失点試合を達成。真骨頂でもある1対1の決定的ピンチを止め、波に乗った。

 チームの連動した守備も試合ごとに質を高め、シュートがほとんど飛んでこない試合もあった。それでも、ボールの動きに合わせてポジションを変え、常に準備を怠らなかった。

 19節の千葉戦ではPKの場面でキッカーに無言の圧力を与え、失点を阻止。終了間際には横っ飛びの“トビウオセーブ”で決定的なピンチを回避し、7度目のクリーンシートを達成した。自身のファウルでPKを与えた安藤は試合後、こう言った。

「(福田)史織がしっかりゴールを割らせないでくれましたし、そこからチームが勢いづいて結果が出せた。チームの勝負強さを感じました」

 しかし、その後の20節・長野戦では優勝に王手をかけたプレッシャーもあってかチームの動きが硬く、シュートもわずか4本。終盤、相手の勢いに飲まれて1-2の逆転負けを喫した。

 はるばる駆けつけたサポーターに優勝を報告できず、福田は試合後、堪えきれずに大粒の涙をこぼした。

 だが、それから1週間で、20歳の守護神は頭と心をしっかりと切り替えていた。

 リーグ優勝が決定した21節の大宮戦では、8度目のクリーンシートを手にし、プレイヤーオブ・ザ・マッチに選出された。

「負けた日と次の日ぐらいはすごく落ち込みましたが、(3日目の)月曜日に復活して、火曜日の練習までに切り替えました。長野戦の反省を活かして、常にラインを上げるように意識して取り組みました。普段、みんなに守ってもらっている分、自分もやらなきゃ!という思いでした」

 終了のホイッスルが鳴った瞬間、福田は安藤の元に駆け寄り、感極まって涙を見せる大先輩にこう声をかけた。

「梢さん、ナイス、ナイス!」

【代表GKのDNA】

 この大宮戦では、ケガからの長いリハビリを終えた池田が今季初のベンチ入りを果たしている。福田は、池田の背中を通じてリーグや代表を意識し、鍛錬を重ねてきた。

「(池田)さっこさんは、コーチングで味方を安心させながら相手に圧力を与えて、FWがシュートを打つ時に『コースがない』と感じさせることができます。私もさっこさんのように、シュートを打たれる時に絶対に入れさせないぞ、という圧力を与えたり、チームに安定感を与えられるような選手になりたいです」

 以前、そう語っていたことがある。今季は同じピッチで一緒に練習することはほとんどできなかったが、憧れの存在からライバルへ、着実に距離を縮めた。

 ユース時代から福田を指導してきた楠瀬直木監督の目に、その成長はどう映ったのか。

「以前は集中力を欠いたプレーをすることもありましたが、どこかで覚悟を決めたのか、それがなくなって、練習でも非常にいい声がけができるようになりました。試合全体をどう締めていくか、というところではまだ課題がありますけれどね」(楠瀬監督)

コーチングも磨いてきた
コーチングも磨いてきた写真:松尾/アフロスポーツ

 浦和はこれまで、多くの代表GKを生み出してきた。2011年のドイツワールドカップで優勝したなでしこジャパンの成長期を支えた山郷のぞみ(現ちふれASエルフェン埼玉強化育成担当)、池田咲紀子、平尾知佳(新潟)、松本真未子(仙台)。福田もその選手たちと同じDNAを持ち、高いハードルを飛び続けながら、成長の階段を登っている。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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