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新潟がエースの初ゴールで信越ダービーを制し今季初勝利!冬の試練を乗り越え、後半戦の巻き返しなるか

松原渓スポーツジャーナリスト
道上彩花

【ウインターブレイクの試練と3週間の合宿を経て】

 WEリーグは第10節を終え、今週末の11節で折り返し地点を迎える。昨シーズンの同時期に比べると、神戸、浦和、東京NBの上位3チームが勝ち点を伸ばしている。第二集団につけるのは大宮、仙台、相模原。7位以降は埼玉、広島、長野、千葉、新潟となっており、後半戦での巻き返しを図っている。

 3月12日(日)に長野Uスタジアムで行われたAC長野パルセイロ・レディース(9位)とアルビレックス新潟レディース(11位)の一戦は、今季WEリーグ初の信越ダービー。また、長く勝ちから遠ざかっている2チームの「絶対に負けられない」一戦でもあった。

 両チームに共通するのは、秋春制を採用するWEリーグで、2年目の厳しい冬を乗り越えてきたことだ。

 長野は通常の練習グラウンドが積雪の影響で使えない時期が長く、野球場の一角で、毎日グラウンドの雪かきをしてから練習をしていた。

 一方、新潟市内は1月から2月にかけて記録的な雪が降った日もあり、室内練習場(フットサルコート)での練習を余儀なくされた。同時期に話を聞いた時、新潟の村松大介監督は、「ダイナミックな動きができないので試行錯誤ですけど、選手が一番いい状態でピッチに立てるための方法を探しています。体を動かす場所があるだけいいという気持ちでやらないと」と話していた。

 3月に入ってようやく通常のグラウンドを使えるようになったものの、新潟県聖籠町にある練習場に訪れた日は、雨の影響もあって寒さがぶり返していた。

信越地方はまだ雪深い地域も
信越地方はまだ雪深い地域も

 そのような環境の中で、新潟の転機となったのは、2月中に実施した約3週間の大阪キャンプだろう。「相手陣地でボールを奪う」コンパクトな守備を強化し、ウインターブレイク明けの初戦では、2位の浦和に善戦。

 1−2で敗れたものの、狙い通りにボールを奪うシーンもあり、好ゲームを繰り広げた。そして迎えた長野戦でも守備で主導権を握り、攻撃では左のDF北川ひかる、MF園田瑞貴のホットラインを起点にチャンスを量産。

 57分にコーナーキックを得ると、FW上尾野辺めぐみのキックをFW道上彩花が頭で合わせて先制。さらにその3分後には、園田瑞貴のクロスを受けた道上がドリブルで持ち込み、ゴールにねじ込むような強烈なシュートを決めて2-0。最後までハードワークを続けて長野の反撃を抑え、勝ち点3に結実させた。

【頼もしいエースの今季初ゴール】

 この試合のヒロインになったのは、今季初ゴールを含む2ゴールを決めた道上彩花だ。

 169cmの高さと強さを兼ね備え、ポストプレーやクロスに合わせるフィニッシュも得意とするゴールハンター。

 なでしこリーグの伊賀FCくの一三重から新潟に加入し、1年目の昨季はチームトップの8ゴールで期待に違わない活躍を見せた。しかし、今季は対戦チームから複数人の徹底マークを受けることに。それでも1月から2月にかけて行われた皇后杯では2試合連続の決勝弾でベスト4進出の原動力となったが、リーグ戦は8試合無得点と苦しんでいた。

 チームはエースの不調と足並みを揃えるように勝利から遠ざかっていた。FW陣にはケガで離脱中の選手もいるだけに、道上にかかる期待は大きく、プレッシャーもあっただろう。

 ただ、そのような逆境においても常にポジティブにサッカーと向き合う姿勢が、チームにプラスの影響を与えてきた。昨季も一時的にゴールから見放された時期があったが、村松監督はこう話していた。

「道上は本当に優しくて、みんなのことを思える選手です。点を取らなければいけない、という気持ちが強すぎてゴールから遠ざかってしまうこともありますが、常に前向きに取り組んでくれています。その人柄、キャラクターが日常から周りにいい影響を与えてくれています」

責任感が強く、チームを鼓舞する熱いハートの持ち主
責任感が強く、チームを鼓舞する熱いハートの持ち主

 かつて、常盤木学園高校時代には2年連続で日本一に輝き、2012年にはなでしこリーグ2部で30得点(22試合)を決めて得点王に輝いた。

 日本人FWには珍しいフィジカルの強い超高校級ストライカーとして頭角を現したが、トップリーグではケガに泣かされることも多く、責任感の強さが裏目に出てゴールから遠ざかることもあったようだ。

 それでも、厳しい現実から逃げずにコツコツと向き合ってきた経験が、その大らかな人柄や、周囲に影響を与える言葉の説得力に繋がっているのだろう。

 長野戦までの1週間は、試練が重なっていた。3月5日の浦和戦で頭同士の接触により脳震盪を起こして途中交代。長野戦までの5日間のトレーニングは、脳震盪のプロトコルに沿ってヘディングや対人を避けて行い、全体練習に合流したのは試合前日だった。

 道上自身もコンディション面で不安はあったようだ。それでも、「ピッチに立つからには100%で戦う」(道上)と覚悟をプレーにこめた。

「タイトにマークされた中で、最後は個の力だと感じていました。(相手のマークが)2、3人こようが、ゴール前では自分の力で相手をはがす力を出さなければいけないと思っています」

 その言葉通り、ボールを受けると力強く前を向き、1人、2人とマークをはがしていく。数的不利の状況でも強引に突破を図り、決定機を創出した。

 1点目は得意のヘディングで、新潟一筋17年のベテラン・上尾野辺の精度の高いキックにピンポイントで合わせた形。2点目はカウンターからドリブルで打開して右足を振り抜く“らしい”ゴールだった。

「相手キーパーもボールを触っていましたが、気持ちで押し切った感じです。ああいう一瞬の隙をつくことが大事だと思っていますし、決め切ることができてよかったです」

 ストライカーとしてようやく今季の一歩目を踏み出し、試合後の会見でホッとした表情を見せた道上。新潟は勝ち点を「4」に伸ばし、最下位(11位)脱出への光が見えてきた。

 次の試合は、来週21日(火)に、8位の広島とアウェーで対戦する。25日(土)には、ホームで7位の埼玉との対戦が控えている。順位の近い相手との対戦が続く中で、カギとなるのはやはり「ゴールを決め切る力」だろう。

「毎試合、ゴールを取ることがマスト」と、力強く語ったエースの連続ゴールなるか。最下位からの巻き返しにも注目したい。

連続ゴールなるか
連続ゴールなるか

*写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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