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WEリーグ2年目の変化と3試合を振り返る。個で違いを見せたのは…

松原渓スポーツジャーナリスト
WEリーグは3節を終了した(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【1年目からの変化】

 WEリーグが開幕して3週目に突入した。昨年に続き、リーグは秋春制で行われ、各チームが20試合ずつを戦う。

 10月中にメディア向けに行われたブリーフィングでは、初年度を様々なデータで振り返り、欧米の強豪リーグと比較する興味深い内容だった。WEリーグと海外の比較で、特に印象的だったのは以下の内容だ。

「1試合あたりのシュート数は大きく変わらない」

「オンターゲット(枠内シュート)率は低い」

「シュートに至るまでのパス本数が多い」

「単純なクロスの数はアメリカより少ないが、クロスの成功率が高い=ピンポイントクロスが多い」

「プレス回避のため、GKを使ったビルドアップの質は世界のリーグでも上位」

GKのビルドアップの質の高さが指摘されている。写真は神戸の山下杏也加
GKのビルドアップの質の高さが指摘されている。写真は神戸の山下杏也加写真:森田直樹/アフロスポーツ

 その他、プロ化による変化として、「1試合当たりのハイプレス回数が1年前(なでしこリーグ時代)に比べて飛躍的に増加した」というデータも。たしかに、WEリーグ発足後はハイプレスでボールを奪って時間をかけずにゴールに迫るチームが多くなった。今季は攻撃的なサッカーを志向するチームが増え、その傾向がさらに強まっている。また、3バックと4バックを併用するチームが複数あり、選手たちの戦術的柔軟性も高まっている。

 WEリーグのテクニカルアドバイザーの小野剛氏は、「世界で素晴らしいストライカーの条件は試合数×0.5ゴールを決められること。今後は20試合で11、12ゴールが理想」という見解も示した。

 こうした分析データは、全11チームの監督が集まったフォーラムでも共有されたという。

初代得点王の菅澤は20試合で14ゴールを決めた
初代得点王の菅澤は20試合で14ゴールを決めた写真:西村尚己/アフロスポーツ

 また、昨季は「試合数が少なすぎる」という声が多かったこともあり、今季は8月からカップ戦を実施。試合数が1チーム当たり4~6試合増えたことで、出場機会が少なかった選手が成長のチャンスを掴むなど、チーム作りにおいてもプラスの面が見られた。

 プロ化によるリーグのレベル向上や1年目の課題への取り組みにより、ポジティブな要素が多くなったことは間違いない。ただし、WEリーグのビジョンでもある世界一のリーグを目指すためには、やはりワールドクラスの外国籍選手の招聘が必須だろう。また、WEリーグはVARを導入しておらず、レフェリングのレベルが競技の質に直結する。Jリーグのジャッジを徹底解説する「ジャッジリプレイ」(DAZN)のようなチャンネルがあれば、レフェリングへの理解も深まり、好変化につながるのではないだろうか。

 リーグは全試合をDAZNで見られる。昨季は全試合実況と解説つきだったが、今季は毎節、ピックアップマッチ以外は実況のみとなってしまった。OG選手たちの解説で試合を2度楽しむことができていただけに、寂しい。プロモーションも含めて、リーグ全体の予算を増やすことは引き続き課題となっている。

【リーグ戦3試合を終えて】

 ここまでリーグ戦3試合を終えて、昨季2位の浦和と5位の仙台が3連勝と好スタートで1位、2位につけている。昨季王者の神戸は1試合少ないが、暫定3位。朴康造監督新体制で内容の伴った2連勝を飾っている。

三菱重工浦和レッズレディース
三菱重工浦和レッズレディース写真:西村尚己/アフロスポーツ

 浦和は、3試合で10ゴールと、昨季リーグトップの得点力は今季も健在。失点(6)も多いが、ここぞという場面での勝負強さが光る。ここまで、昨季得点王のFW菅澤優衣香が3得点、FW清家貴子、MF塩越柚歩、FW島田芽依がそれぞれ2得点。昨季途中出場が多かった20歳の島田は、決勝ゴールを2度決めている。同じく、DF遠藤優やDF長嶋玲奈がレギュラー陣に食い込んでおり、課題だった選手層の底上げが進む。

 勝負強さの要因について、楠瀬直木監督は、「飛び道具やパワープレーで点が取れても後に残らない(長続きしない)ので、自分たちのやっていることを追求したうえで取りたい。自分たちのサッカーを信じて、貫いてくれている」と話した。

 仙台は、夏のリーグカップ時に比べるとペナルティエリア内での強さが増した。被シュート数は多いが、GK松本真未子を中心に粘り強い守備で食い止め、質の高いクロスで少ないチャンスを生かしている。オフに複数の主力が移籍したが、新加入のMF中島依美やFWスラジャナ・ブラトヴィッチらがその穴を埋めている。

マイナビ仙台レディース
マイナビ仙台レディース写真:森田直樹/アフロスポーツ

 昨季から監督が代わってサッカーのスタイルを明確に変化させたのが、神戸と相模原(6位)だ。神戸は昨季、リトリートした守備を強みとしていたが、朴監督は相手陣地でボールを奪う攻撃的なスタイルへと進化させている。昨季得点ランク2位のFW田中美南が2試合で3ゴールと好調だ。

 相模原は、4シーズンぶりに復帰した菅野将晃新監督の下で6月からチーム改造を進めており、「人もボールも走る」躍動感が見られるようになった。ボールを失った後の即時回収、継ぎ目のない切り替え、プレーイングタイムを増やすことなど、取り組みの成果が4カ月で形になってきている。菅野監督は、女子選手に多い膝のケガを減らすため、靭帯や半月板をいろいろな動きの中で強化するトレーニングを取り入れてきた。プロリーグでハードワークとケガの減少を両立させることができれば、一つのモデルケースになりそうだ。

 下位グループに目を向けると、新潟(11位)は内容的には互角以上に闘えているが、1点が遠い。カップ戦で3勝2分と好調だった長野(10位)は、昨季の上位チーム相手に3連敗と苦しんでいる。主力に新型コロナウイルス陽性者が出てしまった中でマネジメントの難しさもあっただろう。そして、埼玉(9位)と千葉(8位)が1勝2敗で続く。とはいえ、上位チームとの対戦でも1点差、2点差の拮抗した試合が多く、挽回のチャンスはまだまだある。

 リーグ全体の印象として、20歳以下のユース出身者たちの台頭が光る。FW島田芽依、GK福田史織(以上浦和)、MF岩﨑心南、FW藤野あおば(以上東京NB)、DF井上千里(千葉)、FW笹井一愛(相模原)、FW川船暁海(長野)などが、その筆頭だ。

【得点王争いは...】

 得点ランキングは、ここ数年トップ争いを繰り広げてきた浦和の菅澤と神戸の田中がともに3ゴールと決定力を示している。2人に共通するのは、周囲を生かしてフィニッシュに持ち込むゴールパターンの多さだ。

田中美南
田中美南写真:森田直樹/アフロスポーツ

 チャンスメイクにおいては、浦和のFW清家貴子、東京NBのFW藤野あおばの2人が際立っている。サイドアタッカーの清家はスピードが武器だが、1対1の強さは昨季よりも増しているようだ。現在、なでしこジャパンの欧州遠征にも参加中。イングランド、スペインとの2連戦で「個の強さがどれだけ通用するかチャレンジしたいし、壁にぶつかったときに自分がどう変化しなければいけないのかを考えると思うので、どちらにしても楽しみです」と、頼もしいコメントを残している。

 昨シーズン後半から一気に頭角を現した藤野は、持ち前の高速ドリブルで、対戦相手から対策されても2人、3人を振り切ってアシストしたり、ゴールを仕留める力強さも見せている。東京NBの下部組織時代からの先輩であるFW植木理子は、「あおばは爆発的な力を持っているし、足の振りの速さはリーグでもずば抜けていると思う」と絶賛した。

清家貴子
清家貴子写真:西村尚己/アフロスポーツ

 リーグ再開は、11月26日(土)。なでしこジャパンの欧州遠征2連戦を楽しみつつ、再開に向けた各チームの取り組みにも着目したい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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