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リトルなでしこが前回王者に敗戦でベスト8敗退。宿敵との対戦は国内リーグ発展のバロメーターに

松原渓スポーツジャーナリスト
リトルなでしこ

 インドで行われているU-17女子W杯。リトルなでしこ(U-17日本女子代表)の挑戦は、ベスト8で幕を閉じた。

 準々決勝で、前回大会王者のスペインに1-2で敗戦。日本の強みを出せなかったのではなく、「出させてもらえない」試合だった。メンタル面などでの硬さは感じられず、試合の入りは良かった。挑戦者として、全員がこの試合を楽しみにしていた。

 日本はタンザニア(◯4-0)、カナダ(◯4-0)、フランス(◯2-0)と同居したグループステージを無失点で3連勝。一方、スペインはメキシコに敗れるなど苦しんでいたものの、3試合を経てタフなチームへと変貌を遂げてきたようだ。

 スペインの女子A代表はFIFAランク6位(日本は11位)。直近(10月)の国際親善試合でFIFAランク1位の女子サッカー大国であるアメリカを2-0で下すなど、成長著しいサッカー王国だ。

 育成年代で、両国は競うように実績を残してきた。U-17W杯では3大会で決勝に進出した日本の実績が上だが、女子サッカーの発展スピードは現在、イングランドと並んでスペインが世界トップだろう。

 U-17スペイン代表は、日本がグループステージで戦ってきた3カ国とは差があった。90分間を通じて攻守に隙がなく、個の強さも際立っていた。

90分間を通じて数多くのピンチがあった(C)2022 FIFA
90分間を通じて数多くのピンチがあった(C)2022 FIFA

 日本は押し込まれる前半を耐えぬき、66分にMF谷川萌々子の30m近いスーパーゴールで先制。守備ではGK岩崎有波がスーパーセーブを連発し、スペインの決定機を阻止し続けた。

 明暗を分けたのは残り10分。84分に3枚替えを敢行して猛攻に拍車をかけたスペインの執念が実る。87分、そして後半アディショナルタイムのゴールで一気に逆転した。

 日本も手を打たなかったわけではない。ラスト10分、狩野倫久監督は、ピッチ内のポジションを入れ替えている。しかし、有効策とはならなかった。

「選手たちは苦しい状況の中でもよく走り、最後まで諦めない姿勢は出せました。リードを守りきれず、逆転されたことに責任を感じています」(狩野監督)

 ボールスキルの点では、1対1で戦えている場面もあった。相手の強いプレッシャーをかわすMF眞城美春の軽やかなタッチは、この試合でも光った。だが、総合力では相手が上だったと認めざるを得ない。

 スペインはA代表もU-20もU-17も、連続的な動きやサポートによってボールを保持し続けるスタイルが浸透している。加えて、綿密に日本対策を練ってきていた。谷川はこう振り返る。

「スペインは日本が前線からプレスをかけることを把握した上で、サイドバックがわざと低い位置にいて、日本のウイングを連れ出すような戦術をとっていました。それに対して自分たちのプレスの掛け方が甘くて、サイドから突破される場面が多くなってしまいました」

 個の力においては、スペインの国内リーグが発展している好影響が感じられた。スペインは、女子チャンピオンズリーグで上位の常連であるバルセロナを筆頭に、個を磨く環境が整ったビッグクラブに籍を置く選手が多い。

U-17スペイン女子代表(C)2022 FIFA
U-17スペイン女子代表(C)2022 FIFA

 終盤に2ゴールを決めた9番のMFヴィッキー・ロペスは、バルセロナのトップチームでクラブ史上最年少デビューを飾った逸材。個性的なアフロヘアーも目立っていたが、大舞台での立ち居振る舞いやチームを導く中盤での存在感は、16歳とは思えないほど際立っていた。また、3トップの10番FWカルラ・カマーチョはレアル・マドリードで、11番のFWヨネ・アメサガはビルバオでトップチームデビュー済み。

 リトルなでしこは、日テレ・東京ヴェルディメニーナに所属する16歳のMF松永未夢(二種登録)が昨季のWEリーグでデビューしているが、他の選手たちはまだプロのピッチには立っていない。その差はあっただろう。狩野監督は、そうした環境面についてどう捉えているのだろうか。

「プロリーグは日常から強度が高く、お客さんの前でプレーするので、コンディションやメンタル的な準備も育成年代のリーグ戦とは違ったものがあると思います。でも、日本の育成年代の選手もできないわけではないと思います。二種登録されたり、上のカテゴリーで練習をしている選手もたくさんいました。すぐには変わらなくとも、昨年WEリーグが発足して、今後も日常の環境の整備が非常に重要になってくると思っています」

 日常という観点では、海外のトップクラスの選手たちを招聘することでリーグ全体の強度を国際基準へと引き上げることも、大切なポイントだろう。

 日本は敗れ、立ち上げから2年間にわたるチームの挑戦は終わった。世界トップクラスの壁を破ることはできなかったが、試合後、悔しさと向き合った選手たちはそれぞれに、「成長して必ずこの舞台に戻ってきたい」という覚悟を口にした。

 育成に長く携わってきた狩野監督のアプローチは多彩で、言葉は示唆に富んでいた。今大会最後の取材で「世界で上位にいくために必要なこと」を問われ、こう答えた。

「強度が高い中で、メンタル面も含めていかに自分の持っている技術を発揮するか。それは、バトンリレーで勝っていくようなものだと思います。日本は100m走ではなかなか勝てないけれど、リレーではメダルを取ることができる。そのパスワークの精度。個々では、海外との差を埋めるタレント的な要素も重要になってきます。その2つを軸としながらグッと縦に伸ばしていくタレントを発掘していくことは非常に重要な要素だと思います」

 4戦連続でスケールの大きなゴールを決め、会場を沸かせた谷川を筆頭に、将来的になでしこジャパンに食い込んでいくであろう可能性を感じさせる選手たちもいた。21人の選手たちの今後の躍進と、育成の行方を見守りたい。

 来月にはなでしこジャパンが欧州遠征を行い、イングランド、スペインと国際親善試合を行う。来年のW杯でも同グループに入ったスペインとの対戦は、海外組の成長が試される舞台となる。また国内組が活躍すれば、WEリーグの発展を示唆するバロメーターにもなるだろう。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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