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明暗を分けた今季初ゴール。サイドバックから再びアタッカーへ、FW清家貴子が見せる新たな強さ

松原渓スポーツジャーナリスト
清家貴子(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 土砂降りの雨の中で行われた試合の明暗を分けたのは、雷による中断後の数分間だった。

 18日に浦和駒場スタジアムで行われたWEリーグカップ・浦和レッズレディース対マイナビ仙台レディース戦は、視界が曇るほどの雨の中で行われた。

 水分を含み、重くなったボールが水たまりの上で飛沫(しぶき)を上げる。浦和はボールを浮かせたりロングキックを使ってボールを前進させ、MF水谷有希やMF猶本光らが積極的にミドルシュートを狙った。しかし、古巣対決のGK松本真未子(仙台)がことごとくストップ。「相手以上に天候が敵でした」(松本)というキーパー泣かせのコンディション下でも、技術や集中力の高さが光った。

 一方、後半は仙台も複数のチャンスを作ったが、浦和はユース出身でU-20W杯(準優勝)から帰国したGK福田史織が、堂々としたプレーでゴールに鍵をかけた。

 一時的に雨が止んだ後半はシュート数が増えたが、スコアは動かず。70分を過ぎると疲労で選手たちの足が止まり始め、スコアレスドローの気配が濃厚になった。しかし、再び雨足が強くなる中、落雷により83分の時点で試合が中断。再開までの約1時間で、戦況は再び変化する。

 試合再開後、わずか2分で均衡は破れた。猶本のロングボールを右サイドで受けたFW菅澤優衣香がゴール前でマイナスに折り返すと、MF清家貴子が中央から快足を生かして詰めてゴール。

 さらに、終了間際にはコーナーキックの流れから、MF安藤梢が3試合連続となるゴールを決めて2-0。このまま試合は終了し、グループA首位を堅持した浦和が決勝進出に大きく前進した。

安藤梢
安藤梢写真:西村尚己/アフロスポーツ

 楠瀬直木監督は、「清家や安藤など、中心選手が休めたことで中断明けに得点が生まれた。嬉しいけれど、マイナビ(仙台)さんは可哀想だったなという感じもあります」と勝敗の分かれ目を振り返り、相手を気遣った。

 選手たちは、中断の時間をどう過ごしたのか。猶本はこう明かした。

「残り時間が7分間でした。日頃から練習で7分間の紅白戦をやっているので、心理的には『うちらの7分だね』という感じで試合に入ることができました」

 先制弾を決めた清家は、「正直、試合が止まってすごくラッキーだと思いました。疲れが足にきていたし、呼吸的もきつかった。(中断している間に)気持ちも体もリセットできたので、残り7分間だったらどうにか騙せると思い、頑張りました」と心情を振り返った。

 今季から新たにスタートしたカップ戦では、各チームが若手や新戦力を積極的に起用しながら、リーグ戦に向けてチームづくりを進めている。昨年2位だった浦和は主軸間の強固な連係が武器だが、楠瀬監督は控え選手や若手を積極起用しつつ、チームの底上げを図っている。

 ただ、この試合では交代枠を1つ(水谷→安藤)しか使わず、主軸に勝負を託して結果にこだわった。他のチームに比べてメンバーの変化が少なく、勝負どころを押さえた選手が多いのは強みだ。

 昨季は皇后杯で悲願の初優勝を成し遂げた。今季はリーグ(昨季は2位)との2冠、さらにはカップ戦の初タイトルも狙っている。

【「わかっていても止められない」清家】

 清家のスピードを生かした攻撃は、浦和の強力な得点パターンの一つだが、今季は得点に絡む場面がさらに増えそうだ。

 清家は浦和レッズレディースユース出身で、2015年に17歳でトップチームに昇格。10代から類まれなスピードでストライカーとして未来を嘱望されてきたが、ケガでピッチに立てない時期も長かった。復帰後はスーパーサブとして力を蓄え、2019年に森栄次前監督(現アカデミーダイレクター)の下でサイドバックにコンバートされると、一気にブレイク。

 生粋のアタッカーだっただけに、当時は少なからず守備への苦手意識があるのではないかと思ったが、そうではなかった。

 清家は166cmと高さがあり、対人の強さを守備でも発揮。ボールの奪い方は生粋のDFにも遜色ない迫力を見せたのだ。自身も「サイドの1対1ではあまりやられている感じがしないです」(2019年)とサイドバックの適性を口にしていた。

 そして、ポジショニングやラインコントロールを磨きながら、攻撃面でも違いを見せた。

 19年10月のカナダとの親善試合で、なでしこジャパンに初招集された時、清家は目指すサイドバック像についてこう語っている。

「自分は器用な選手ではないし、中盤でボールを回せるオールマイティなタイプでもないので、自分の弱みを最低限消しながら、(サイドで)前に前に、という推進力を出せる選手になりたいと思います」

 浦和は外も中も流動的に動いてプレーできる選手が多い反面、それだけでは縦への勢いが生まれにくい。その点、サイドで縦への推進力を生み出せる清家のスピードと仕掛けが貴重なアクセントになっている。19年末のE-1選手権では、その武器を代表でも見せた。

 昨季からプロになり、個にさらに磨きをかけてきた。WEリーグではサイドバックを主戦場としつつ、点が欲しい時には2トップやサイドハーフで起用され、アシストなどで貢献。その活躍が評価され、WEリーグの初代ベストイレブンに選ばれた(なでしこリーグからは2年連続)。コンバートからわずか2年で、国内トップクラスのサイドバックになった。

サイドバックからの攻撃参加で相手に脅威を与えた
サイドバックからの攻撃参加で相手に脅威を与えた写真:森田直樹/アフロスポーツ

【再びアタッカーへ】

 今季、楠瀬監督は清家を2トップの一角やサイドハーフなどで起用している。カップ戦2試合目の新潟戦では3アシスト。そして、仙台戦では今季初ゴールを決めた。

「サイドバックでは、アシストでも割と評価されたのですが、前のポジションでは得点もしっかり取れるように意識しています」と言う清家。前線のポジションでは久々のゴールについて感想を聞くと、こう答えた。

「得点するためには仕掛けるだけではなく、ラストパスを受けられそうなところに“いる”ことが大事だと思います。それはこの2試合、自分の中で意識を変えてきたところで、それが結果に表れて嬉しいです」

 ポジションを変えても活躍できるのは、与えられた環境で自分の強みを発揮するための、工夫を怠らないからだろう。サイドバックで経験を積み、前線に戻って見る景色は、以前よりも広がっているに違いない。

 今季の攻撃へのモチベーションについて聞くと、清家は意欲に満ちた表情でこう答えた。

「コンディションをさらに上げて、シュートやゴール前のアイデアをどんどん増やしていきたいです」

 今季、清家はどんなアタッカー像を見せてくれるだろうか。タイトルへのキーパーソンの一人になることは間違いない。

WEリーグカップ日程

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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