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史上初のE-1男女ダブル優勝!涙を飲んだアジアカップから半年、なでしこジャパンが積み上げたもの

松原渓スポーツジャーナリスト
E-1選手権連覇を飾ったなでしこジャパン(写真提供:JFA)

 7月26日に行われたEAFF E-1選手権最終戦。引き分け以上で優勝が決まるなでしこジャパンは中国と0-0のドローで、2大会連続4度目のタイトルを獲得した。池田太監督新体制では初タイトルだ。

 翌日、サムライブルーが韓国に3-0で勝利し、男女で史上初のE-1ダブル優勝を成し遂げた。

 なでしこジャパンは今年1月のアジアカップでは中国に2-2のドロー。PK戦の末に敗れてタイトルをさらわれた。今大会でも勝つことはできず、リベンジとはならなかったものの、内容面では半年前の対戦から進化を感じさせた。

「優勝という目標をしっかり達成できて嬉しく思います。(中国と)決着をつけたかったですが、最後まで粘り強く戦えたのが良かったです。修正しなければいけないところもありますが、タイトルを共有できた喜びを噛み締めようと伝えました」(池田太監督)

 前線はFW井上綾香、FW植木理子、FW千葉玲海菜ら、スピードを武器とするアタッカーが先発。特に千葉は1対1の守備や裏への動きだしなど、連続的なアクションで右サイドからチャンスメイク。奪われても人数をかけてすぐに奪い返し、試合を優位に進めた。

 中国は高身長の選手が多く、アジアカップ同様、経験のあるFW王珊珊を中心に抜け目なくカウンターを狙っていたが、日本は今大会初戦の韓国戦(◯2-1)の教訓も生かした。ボランチでセカンドボールを回収し続けたのはMF林穂之香だ。

「韓国戦は(ロングボールを)放り込まれて、ディフェンスラインが跳ね返してくれた時に中盤で回収できずシュートまで持っていかれるシーンがあったので、そこは今日は特に意識して入りました。(選手の)距離感や、常に声を掛け合ってふわっとしないように、声を掛け合うことでだいぶ変われるところがあったと思います」(林)

 GK山下杏也加は、連日30度を超える暑さの中で溜まった疲労を考慮し、守備の時間を少なくすることを勝利の鍵に挙げていた。「それぞれがいい配置に立てば簡単に相手をはがすことができると思うし、相手も走らざるを得なくなると思います」と語っていた通り、最終ラインで積極的にボール回しに加わり、リスクをコントロールした。

 シュート数は日本が13本、中国が4本と圧倒。決定力に課題を残した一方、井上や千葉ら新戦力がスムーズに融合して持ち味を発揮した。それはチームコンセプトが浸透し、土台が安定してきた証でもあるだろう。

 後半にはMF成宮唯とFW清家貴子、後半アディショナルタイムにFW菅澤優衣香と、攻撃的な選手を投入して攻め抜いた。アジアカップでは交代後のマークのズレやゲームコントロールの乱れが見られたが、この試合では最後まで戦い方の方向性は徹底されていた。

「交代で入ってくれた選手がしっかりと役割をまっとうしてくれる、チームディシプリンも含めた積み上げを示せたと思います」(池田監督)

 アジアカップから向上が見られたもう一つのポイントが、守備だ。キャプテンマークとしてチームを牽引し、大会MVPに選ばれたDF清水梨紗は、「苦しい時間帯でも失点しないというのはこのE-1ですごく力がついたと思います。苦しい中でも勝ちやタイトルにつなげることが、一番収穫になったことです」とコメント。

 試合後の表彰式では、その清水が金の紙吹雪の中で高々と天にカップを掲げた。

 平日の夜だったこともあると思うが、4万人超を収容できるカシマスタジアムで、観客数はわずか901人。寂しい数字だが、これが日本女子サッカーの現在地と受け止めるしかない。この試合は地上波のゴールデンタイムに放送され、その中で得たタイトルだっただけに、女子サッカー人気を再び取り戻す第一歩になることを期待したい。

山下杏也加、清水梨紗、成宮唯
山下杏也加、清水梨紗、成宮唯写真:YUTAKA/アフロスポーツ

【新世代の成長が鍵に】

 今大会は国際Aマッチデーの開催ではなく、DF熊谷紗希、FW岩渕真奈ら海外組の多くが参加しない中で結果を残せたことは自信になっただろう。

 中でも、この試合では先発メンバー11名中7名が、池田監督が率いた2018年のU-20W杯の優勝メンバーだった。同年代の千葉も加えると、8名が98年〜2000年生まれの世代。林やDF宮川麻都、DF宝田沙織らは東京五輪にも出場した。今大会で軸となったこの世代の成長と飛躍が、再び世界で勝つための鍵になりそうだ。

 なでしこジャパンが世界一になった2011年以降、欧米各国を中心に女子サッカーを取り巻く環境は急速に発展し、それに伴って海外の選手たちの運動能力や戦術レベルは向上し続けている。その中で、日本は国際大会では上位から遠ざかっている。世代別代表とA代表のギャップの“落差”に直面し、悔しい思いをしてきた選手たちが今の代表には多い。

 一方で、以前に比べるとWEリーグでプロとしてプレーできる環境が整い、海外挑戦する選手も増えた。海外組の活躍やステップアップなどの朗報に触れる機会も増え、海外勢との「差」を埋めるための試行錯誤や努力は実を結びはじめていると感じる。

「奪う」というコンセプトを軸に、選手や相手によって戦い方を微調整し、バリエーションを増やしてきた池田ジャパン。来年のW杯まで1年を切った中で、ここからチーム作りをさらに加速させていく。

 今年10月に開幕するWEリーグに先立ち、8月20日からはWEリーグカップがスタートする。また、8月にコスタリカで行われるU-20女子W杯では2018年に続く連覇を狙う。U-20代表は池田監督をはじめなでしこジャパンのスタッフが兼任しており、大会で活躍した新星たちがなでしこジャパンに引き上げられる可能性がある。

 新たなスターの台頭に期待しつつ、今季のWEリーグや海外組の動向も注視していきたい。

WEリーグでの選手たちの活躍からも目が離せない
WEリーグでの選手たちの活躍からも目が離せない写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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