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FW上野真実が代表初先発で初ゴール!W杯メンバー争いの激戦区で見せる“違い”

松原渓スポーツジャーナリスト
上野真実

 広島のストライカーが、代表初先発で期待に応えた。

 E-1選手権第2戦のチャイニーズ・タイペイ戦。なでしこジャパンは先発メンバー11名の代表での試合出場数が平均一桁、3名が初出場という初々しいメンバーで試合に臨み、4-1で快勝した。

 新たなコンビネーションも見られたが、その中でもパフォーマンスが光っていた選手の一人がFW上野真実だ。上野は166cmの長身で、長い手足を活かした高いキープ力に加え、シュートスキルの高さも魅力。この試合では立ち上がりから積極的にシュートを放ち、チームに流れをもたらした。

 初めて組んだFW千葉玲海菜との2トップは、互いの魅力を引き出し合った。背後への抜け出しを得意とする千葉と、やや下がった位置からラストパスやシュートを使い分ける上野のプレースタイルは相性がいい。千葉はこう振り返る。

「真実さんの特徴は足元で受けることやボールを捌けることだと把握していたし、落ち(てゲームを作れ)るタイプ、と聞いていました。自分は背後に抜けるタイプだということも真実さんがわかってくれていたので、いいバランスでうまく連係できたと思います」(千葉)

 前半8分にコーナーキックからチャイニーズ・タイペイに先制されたものの、その後は一気に巻き返す。上野は2列目でボールを受けて攻撃の起点となり、フィニッシュにも絡んだ。その積極性が呼び水となって、14分に千葉がセットプレーから同点ゴール。前半アディショナルタイムにはMF猶本光のクロスをファーサイドで頭で豪快に合わせ、逆転。その後、上野は67分までプレーし、チーム最多となる5本のシュートを放った。

「(ゴールシーンは)本当にいいボールが上がってきたので、決めるだけでした。結果を求めていたので、得点できたことは本当に嬉しいです」

 試合後、上野は落ち着いた口調で、喜びを噛み締めるように語った。

 2016年のU-20女子W杯で大会得点王になり、日本の3位に大きく貢献したことで、その名は全国区になった。代表に招集されたのは、翌2017年。途中出場で流れを変えるスーパーサブやクローザーのような役割でピッチに立つことが多かったが、今大会は9試合目にして巡ってきた先発のチャンスで、しっかりと結果を出した。

「前半のアクションのメリハリとか引き出す動きは数を増やしてほしいし、ビッグチャンスをゴールに繋げるところは精度を上げていかなければいけないですが、運動量や攻撃の役割はトータル的に見て、しっかりやってくれたと思います」

 池田太監督は、上野と千葉のプレーをそう評価し、今後に期待を込めた。

【WEリーグ1年目の飛躍】

 WEリーグが開幕した昨季、上野はサンフレッチェ広島レジーナの創設メンバーに名を連ね、プロ選手になった。期待に応え、初年度は11ゴール(19試合)で得点ランク3位になった。決定率(ゴール数/シュート数)は28.2%で、リーグトップだった。

WEリーグで11ゴールを決め、得点ランク3位になった
WEリーグで11ゴールを決め、得点ランク3位になった写真:森田直樹/アフロスポーツ

 難しい角度からワンタッチで決めたり、密集の中でわずかなコースを射抜くシュートやGKの股を抜いて流し込む形など、スキルフルなゴールが多かった。シュートのタイミングや狙いどころに意外性があって、一体、どのタイミングでゴールを見ていたのか? と、映像を巻き戻して確認したことも何度かある。

 そして、エリア外からでもしっかりとコースを狙える。シュートエリアの広さは、WEリーグでもトップクラスではないだろうか。

 “熱さは内に秘める”タイプだと思う。ゴールを決めた後も、感情を爆発させるというよりは、歓喜の輪の中でいつも優しげに笑っている。

 ただ、昨年はチームが苦しい時期もあり、上野自身の言葉に、ゴールへの貪欲さがほとばしるようになった。

「練習中に、福元美穂選手や近賀ゆかり選手から『ゴールを常に意識するように』と強く言われてきました。チームから得点を求められているし、自分自身もそこにこだわっています」

 W杯優勝メンバーでもある2人の先輩の言葉が、エースの自覚を促した。また、昨季リーグ終盤にポジションを一列下げたことも、意識や視野の変化につながったようだ。

「リーグ前半戦はワントップでプレーすることが多かったのですが、ボールを引き出す動きとか、ゴールへの積極性など足りない部分が多くありました。後半戦は1.5列目に下がって、トップのFW谷口木乃実が動き出してくれることで自分のスペースが空いて、2人の関係でゴールまで行くシーンが増えました。

 トップに入っているときは相手を背負うことが多かったんですが、1.5列目では前を向いてプレーできる分、視野も広がりましたし、自らゴールに向かうシーンも増えたので、プレーの幅が広がったと思います」

 得点が取れずに苦しんだ時期もあったが、WEリーグのラスト7試合で9得点と、得点力が爆発。チームの成績も右肩上がりになり、最後は11チーム中6位でフィニッシュした。

近賀ゆかり(背番号10)のアドバイスもゴールへの意識を高めた
近賀ゆかり(背番号10)のアドバイスもゴールへの意識を高めた写真:森田直樹/アフロスポーツ

 今季は、さらなる得点で広島を上位に導く活躍が期待されている。そして、代表でも飛躍を目指す。

 なでしこジャパンのFWは激戦区だが、上野は2列目でもプレーできることをチャイニーズ・タイペイ戦で証明した。ただ、W杯のメンバー競争で生き残っていくためには、どのポジションでも「決め切る力」を示すことが必要だろう。

 26日の中国戦で出番があれば、連続ゴールに期待したい。上野の洗練されたシュートスキルは、相手が強ければ強いほど輝きを増すはずだ。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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