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MF安藤梢が見せた勝負強さ。1万人超えの国立競技場、頂上決戦を制したのは浦和!

松原渓スポーツジャーナリスト
安藤梢(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

【女王対決】

 5月14日、女子サッカーWEリーグの大一番が国立競技場で行われた。観衆は、リーグ最多となる1万2330人。

 迫力のある1対1や、闘志あふれるプレーに、歓声が湧き上がる。スタンドには子供たちの姿が多く見られた。

 首位のINAC神戸レオネッサと、2位の三菱重工浦和レッズレディース。神戸が前節すでにリーグ優勝を決めているが、見どころは山ほどあった。

 リーグ初代チャンピオンの神戸と、皇后杯女王の浦和。

 今季リーグ最小失点の神戸と、最多得点の浦和。

 得点ランク1位を快走してきたFW菅澤優衣香(浦和)と、怒涛の追い上げを見せている2位(試合前時点)のFW田中美南(神戸)のストライカー対決。そして、代表経験者は両チーム合わせて17人という豪華な顔ぶれ−–。

 集客や演出も含め、ホームチームの神戸が念入りな準備を進めてきた中で、両者の意地がぶつかり合い、会場の雰囲気は最高潮に。

 その拮抗したせめぎ合いを制したのは、浦和だ。

「INACからはなかなか点が取れないですが、レッズは得点力があるので、その勝負を楽しんでほしいです」と、試合前に生き生きと語っていたのは、今季絶好調のDF清家貴子。そのスピードスターが先制点の起点となった。前半41分に高い位置でボールを奪い、菅澤、MF塩越柚歩と繋いで、中央から走り込んだ MF安藤梢が抑えたシュートを決めた。守っては、なでしこジャパンのDF南萌華、DF高橋はなの両センターバックを中心にゴールに鍵をかけた。

安藤(背番号10)のゴールで1-0勝利を飾った(左は清家、右は塩越)
安藤(背番号10)のゴールで1-0勝利を飾った(左は清家、右は塩越)

「今日は(ゴールを)決めてやろうと思って臨んでいました。決めることができて、とても嬉しいです」

 国内外で数々のタイトルを獲得してきた安藤にとっても、新国立での初ゴールは特別だったようだ。

「INACさんが素晴らしい試合を準備してくれたことに感謝しています。これから私たちがもっと面白いサッカーをして、この国立競技場が埋まるぐらいの試合を繰り広げていけるように、みんなで盛り上げたいと思います」

 その情熱は、未来のWEリーガーたちにも届いただろう。

【進化を続けるMF】

 安藤は今季4ゴール目。ここまで全19試合に先発し、リーグ最多得点の攻撃力を支えてきた。

 戦術眼の高さはもちろん、驚かされるのは身体能力の高さだ。全チームのレギュラーで最年長の39歳だが、「年齢はただの数字」だと改めて思わせる。

 体の当て方やシュートスキルはもちろん、短距離のスプリントや対人プレーでも、20代の選手に負けていない。

「ブンデスリーガ(ドイツ)でやっていた時の方が球際は強かったので、正直、WEリーグは楽だなと感じます。リーグ全体の強度を上げていくために、球際の強さはプレーで示していきたいと思っています」

 今年2月末の皇后杯決勝の前に、安藤はそう語っていた。2009年からドイツで7年半プレーし、帰国後、2018年には筑波大学の体育科学の博士の学位を取得。プロ選手と研究者の二足のわらじを履き、研究成果をプレーにフィードバックしてきた。現在は同大学で体育系の助教を務めている。

 安藤のプレーを間近で見てきた浦和の選手たちは、強度の高いプレーを習得する術を知っている。MF猶本光、MF遠藤優、高橋など、主力の多くが安藤からもらったアドバイスを生かしていることを公言している。

「浦和の選手はフィジカルやスピードがあって、外国人選手と対戦するようなイメージでした」

 神戸の守護神であるGK山下杏也加は、試合後にそう語っている。

高い身体能力と戦術眼で攻撃力を支える
高い身体能力と戦術眼で攻撃力を支える写真:西村尚己/アフロスポーツ

 安藤自身のさらなる進化も見える。今季は本職でないポジションで結果を出しているのだ。元々はFWだが、ケガ人が多いチーム事情もあり、8節以降はボランチにコンバート。短期間で映像を見て役割を整理し、コミュニケーションを重ね、瞬く間にフィットした。

 リーグ前半戦ではどん底の3連敗も経験したが、安藤がボランチに定着してから、チームは本来の強さを取り戻した。「彼女はコミュニケーション能力も高くて、頭が良くて余裕があるので、いろんなことができて本当に助かっています」。楠瀬直木監督も絶対的な信頼を寄せる。

 ゴールへの思いについて、「裏に抜けてスピードに乗ったままゴールを決めるのが好きです」と話していたこともある。だがボランチに移ってからは、ミドルシュートや、ゴール前に走り込んでクロスに合わせるゴールが多くなった。

 印象的だったのは、第9節のマイナビ仙台レディース戦の3点目だ。味方と相手が競り合ったこぼれ球に、細かいステップで瞬時に間合いを合わせ、ペナルティエリア中央手前から右足でダイレクトに振り抜く。抑えたボールが、唸りをあげるような軌道でゴール右隅に突き刺さった。

 難しい回転やスピードのあるボールでもしっかりと芯を捉えてコースを狙える技巧の高さは、世界レベルだろう。

 また、皇后杯決勝でゴールの起点になったように、勝負強さも健在だ。その試合の前に、大一番で大事にしていることについて聞いた際、安藤は「コンディションを整えること」とともに、100%の準備をしてきたからこそ「自然体で、決勝の舞台を楽しみたい」と語っていた。

 結果を出すためのルーティンを確立させ、日々パフォーマンスを向上させるために取り組む姿勢は、後輩たちの目標になっている。

「プロになって、若い選手たちがサッカーに集中して取り組めているなと感じます。今まで働いていた選手がサッカーだけに集中して、練習以外の時間もケアやトレーニングに費やしていて、個々の1年間のレベルアップを感じます。リーグも(全体的に)拮抗した試合ができているので、WEリーグの強化が、なでしこジャパンの強化につながることを期待しています」

 WEリーグは、残すところ5月22日の最終節のみとなった。浦和は次節、ホームの浦和駒場スタジアムで3位の日テレ・東京ヴェルディベレーザと対戦する。長く日本女子サッカーを牽引してきた強豪同士の対戦は、神戸との決戦同様、見応えのあるものになるはずだ。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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