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史上初!Jリーグ×WEリーグの共催で見えた“相乗効果”とは?欧州では9万人超えも

松原渓スポーツジャーナリスト
Jリーグとの共催で行われた(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【WEリーグ初のダブルヘッダー】

 JリーグとWEリーグのコラボが実現した。

 4月23日、会場はヴェルディの本拠地、味の素スタジアムだ。J2第11節の東京ヴェルディ対ジェフユナイテッド市原・千葉戦が14時にスタート。WEリーグのベレーザ対ジェフレディースの試合は18時キックオフのナイター開催で行われた。

 男子チームのサポーターの応援も加わったスタジアムの雰囲気は、WEリーグの普段の光景とは異なっていた。

「室内アップが終わってピッチに出た時に、スタンドの高さや、男子の試合が終わってそのまま観客が残っている雰囲気、ピッチの新しい感覚などもあって『ここで試合ができるのか!』という嬉しさやワクワク感がありました」

 そう振り返ったのは、ベレーザのFW山本柚月だ。WEリーグの前に行われた男子の試合は、終盤にヴェルディが追いついて1-1のドロー。「(男子トップチームが終盤に追いついた)この勢いで、自分たちもいい試合をしよう、という気持ちでした」と、意欲をみなぎらせていた。

山本柚月
山本柚月写真:森田直樹/アフロスポーツ

 その言葉通り、アグレッシブな入りを見せたベレーザは、前半36分に山本のゴールで先制。後半開始早々にも、FW藤野あおばのゴールでリードを広げた。10代の新星アタッカー2人のゴールで勢いづいたベレーザは、サポーターの熱量にも背中を押され、貪欲に3点目を奪いにいった。

 だが、裏への飛び出しがオフサイドにかかったり、ジェフのGK清水栞のファインセーブに阻まれたりして、追加点を決めることができない。

 すると、残り30分で戦況は一変。

 ジェフは後半から出場したFW大澤春花が爆発。61分に中央の連係プレーから右足を振り抜いて1点を返す。大澤はその9分後にも、ハーフウェーライン付近からボールを運んで強烈なミドルを突き刺し、試合を振り出しに戻した。

「スタジアムが普段よりも大きいところで、(Jリーグの)お客さんが残って見てくれていたので、試合前からワクワクしていました」(大澤)

大澤春花
大澤春花写真:西村尚己/アフロスポーツ

 その後は両サポーターの応援合戦も熱を帯び、ともに追加点を狙うオープンな展開に。

 そして、残り10分。ジェフは左サイドの高い位置でボールを奪い、最後はMF岸川奈津希のクロスをFW千葉玲海菜が決めて勝ち越し。終盤は、走力に絶対的な自信を持つジェフの強みも生かされ、3-2の劇的な逆転勝利を飾った。

 猿澤真治監督は、「自分たちの力を信じて戦えたことは大きいです。2点を取って相手が守りに入ればまた(内容は)違ったと思いますが、相手はホームでの開催だったので、そういう意味でも(オープンな試合になったことが)大きかったと思います」と、勝敗の要因を振り返った。

 一方、ベレーザは悪夢のような展開で、今季初の3連敗に。「拙い試合運びを見せてしまいました」と、試合後の竹本一彦監督は悲痛な面持ちだった。

 そのように、勝敗の歓喜と悲哀はスポーツにつきものだが、純粋なエンターテインメントとして考えれば、とても見応えのある試合だった。

「初めて試合を見てくれるお客さんや、サポーターに、自分たちのサッカーを見せたい」と、両チームが高いモチベーションで臨んでいたことは大きい。フェアでゴールも多く、初めて女子サッカーを見るお客さんにも好アピールになったのではないだろうか。

 会場の熱量が試合内容にダイレクトに伝わる、生観戦の醍醐味を再認識することができた。

【馴染みのスタジアムに足を運ぶ喜び】

 観客数は、ヴェルディとジェフの試合(1-1)が5,110人。ベレーザとジェフの試合は1,591人だった。両者に開きがあるのは、WEリーグの優勝争いの行方がほぼ決していること(早ければ来週、神戸の優勝が決定する)や、Jリーグの試合が終わってから2時間のブランクがあったことも影響しているのだろう。

 ただ、2試合を見た人に「女子サッカーはこんな魅力があるんだ」と思わせたものがあれば、リピーターになってもらえるかもしれない。

 海外では、女子チームが数万人の観客を集めることがある。

 女子のセリエAでは、ユベントスが、男子チームの本拠地アリアンツ・スタジアムにフィオレンティーナを迎えた2019年の首位攻防戦で、39,027人が入った(同国における女子サッカーの入場者数の最多記録を更新)。

 スペインでは、女子のアトレティコ・マドリードが、男子チームの本拠地ワンダ・メトロポリターノにバルセロナを迎えた一戦で、60,739人を集めた(当時の女子サッカーのクラブ最高記録を樹立)。

 そして、今年3月に行われた女子チャンピオンズリーグ準々決勝第2戦では、バルセロナとレアル・マドリードの“クラシコ”が、バルセロナの本拠地カンプ・ノウで実現。なんと91,553人もの観客が詰めかけ、女子サッカー界の世界記録を塗り替えた。このニュースは様々なメディアが取り上げ、スペイン女子サッカーの知名度は一気に高まった。その後、4月22日のチャンピオンズリーグ準決勝第1戦ではウォルフスブルク(ドイツ)と対戦し、カンプノウで91,648人と記録を更新した。

女子サッカー史上最多9万1553人を動員したバルセロナ
女子サッカー史上最多9万1553人を動員したバルセロナ写真:ロイター/アフロ

 集客力のベースには、国民のサッカー熱の高さや、サポーターが馴染みのスタジアムに足を運ぶ喜びがある。その上で、各クラブは新規層を開拓するための無料チケット配布や、男子チームと共通のSNSを通じた積極的な広報活動などを行っていた。

 ちなみに、日本国内の女子サッカーの最高記録は、2011年7月の新潟対神戸の24,546人。この試合もJリーグとのダブルヘッダーだったが、この時はW杯優勝による“なでしこフィーバー”直後の恩恵を受けていた。

 競技を盛り上げるために、観客の存在は欠かせない。そして、「チームが強い」「サッカーの内容が面白い」「魅力的な選手がいる」といったことが、リピーターを増やす切り口になる。

 WEリーグはコロナ禍の制限(観客数制限や、飛沫防止のため声を出して応援できないなど)の影響もあり、ここまでの平均観客数は1,500人弱と、集客面では苦戦を強いられている。

 とはいえ、昨年11月には浦和が男子の本拠地である埼玉スタジアムに仙台を迎え、4,509人が詰めかけた中で3-1の熱戦を演じた。男子トップチームの試合がない日に行われたため、男子チームのサポーターも来ていた。その時も今回と同じように、選手たちはスタジアムの熱量に背中を押されたことを、試合後に力を込めて語っていた。

 欧州リーグと違い、日本では男女のダブルヘッダー開催は、シーズンが異なる(Jリーグは春秋制、WEリーグは秋春制)ため、日程調整のハードルが高い。ただ、シーズンがずれているからこそ、日程が重ならない日であれば「もう一度見に行ってみようか」と、足を運ぶ可能性もある。

 まずはJリーグを応援している新規層がWEリーグを見に行ってみたくなるような仕掛けを作り、その上で観戦体験を楽しんでもらうための努力(ハイレベルな試合や魅力的なスタジアム体験)を続けることで、客足は伸びていくのではないだろうか。

 その意味でも、今回のJリーグ×WEリーグの共同開催は画期的な一歩だった。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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