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浦和が「7度目の正直」で悲願の皇后杯初優勝!まもなくWEリーグが再開

松原渓スポーツジャーナリスト
新たなタイトルを歴史に刻んだ浦和レッズレディース

【悲願の初優勝&男子とのアベックVを達成】

 7度目の決勝戦で、三菱重工浦和レッズレディースがついに頂点に立った。

 皇后杯決勝で、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースを1-0で下し、初優勝を飾った。天皇杯を制した男子とのダブル優勝も達成。加えて、全試合無失点という素晴らしい結果もタイトルに華を添えた。

 決勝弾を決めたのは、FW菅澤優衣香だ。拮抗した展開が続いていた67分、右サイドを駆け上がったDF清家貴子のクロスを右足ボレーで流し込んだ。そして、最後まで足を止めることなく勝利を引き寄せた。

菅澤優衣香(右)が決勝ゴールを決めた(左はDF高橋はな)
菅澤優衣香(右)が決勝ゴールを決めた(左はDF高橋はな)

 浦和は2004年以降、決勝に6度進出し、すべて準優勝だった。特に、前回と前々回はいずれも1点差で涙を呑み、屈辱を味わってきた。それだけに、優勝への思いは”執念”に近かった。

 キャプテンのMF柴田華絵が優勝カップを掲げ、空に舞う金の紙吹雪の中で全員の笑顔が弾けた。

「今回こそは、という気持ちが全員にあったと思います。勝てて嬉しいし、サポーターの皆さんにその姿を見せることができてよかったです」

 心臓部のボランチで、冷静かつ安定したプレーでチームを支えてきた柴田。普段、あまり多くを語らないクールなリーダーの声は弾んでいた。

「梢さん、カップを掲げなよ!」チームメートに促され、MF安藤梢も杯を掲げた。

 39歳のストライカーは、決勝戦の前に、「経験でチームに落ち着きをもたらしたい。若さあふれるプレーを目指しているので、ガツガツしたプレーでゴールを目指します」と話していた。試合ではその言葉通りの積極的なプレーで、ゴールの起点となった。試合後、安藤は幸せそうな表情で語った。

「(前身の)埼玉レイナス時代からあと一歩のところで逃してきたタイトルだったので。浦和の歴史にこのタイトルを刻めたことが、とにかく嬉しいです」

 WEリーグが発足し、プロ1年目の若いチームを導いてきた背番号10。その背中が、改めて頼もしく映った90分間だった。

【堅守を破ったもの】

「我慢比べのゲームでした」

 試合後の楠瀬直木監督の言葉は、難しいゲームだったことを物語っていた。

 しっかりとパスを繋ぎ、流動的なフォーメーションで多彩に攻撃を展開する浦和。

 相手陣内の高い位置から連動した守備でボールを奪い、縦に速い攻撃を得意とする千葉。

 スタイルは対照的にも見えるが、どちらも連係が成熟していて、攻守の切り替えが速い。決勝までの3試合は2チームとも無失点で勝ち上がってきていた。それだけに、先制点が明暗を分けることは予想がついた。両チームとも硬さが目立ったのはそのためだろう。

 また、今大会は準決勝から決勝まで1カ月半空く異例のレギュレーション。浦和は代表組がアジアカップに出場したため、練習時間が限られた中で調整しなければならない難しさもあった。

 それでも、浦和が3年半築き上げてきたスタイルが揺らぐことはなかった。

 前半の途中から、攻撃力のある清家を前線に上げて4-4-2にするなど変化を加え、ジャブを打ち続けた。安藤が振り返る。

「慌てず、自分たちのやるべきことに集中しました。惜しいシーンもありましたが、(決まらなくても)とにかく攻撃を積み重ねていこうと、全員で我慢強く戦えました」

 4バックのラインコントロールは安定していて、中盤では安藤と柴田のダブルボランチが的確なポジショニングでセカンドボールを回収。サイドの攻防でも引けを取らず、千葉の武器であるカウンターやクロス攻撃をほぼ完璧に封じていた。そして後半、慣れた4-2-3-1に戻して再びギアを上げた。ボールを保持する時間を長くして、流れを引き寄せたのだ。

 菅澤の得点シーンでは、クロスに3人が走り込み、DF佐々木繭が相手DFを引きつけてゴールをお膳立てした。

 そして、最後まで粘り強く、我慢強くゲームをコントロールした。その忍耐力も、浦和を勝者にした要因だろう。

ケガ人がいる中、ボランチにも挑戦して優勝に貢献した安藤
ケガ人がいる中、ボランチにも挑戦して優勝に貢献した安藤

【複数のハンデを克服した“プロの意地”】

 昨年秋に開幕したプロリーグ「WEリーグ」は、秋春制を採用。リーグ前半戦は9試合しかなく、1月から3月のウインターブレイク(冬休み)中、公式戦はなかった。一方、シーズンが異なる(春秋制の)なでしこリーグや育成年代のチームは、春先から公式戦を重ねてコンディションを上げてきていた。

 そうした中、日テレ・東京ヴェルディメニーナやセレッソ大阪堺レディースなどの若いチームが、WEリーグ勢を次々に破る番狂わせを起こした。そのことは育成年代への期待を高めた一方で、“プロの価値とは?”という疑念を世間に抱かせた。

 WEリーグの各チームは、環境が良くなったメリットと引き換えに、アマチュアとプロのシーズンが異なることによるネガティブな影響を受けていたのだ。そのように、前例のないハードルを乗り越えて勝ち取った浦和のタイトルには重みがある。

 だが、勝利の喜びに浸るのも“束の間”となる。今週末からはWEリーグ後半戦が始まる。再開初戦の相手はなんと、再び千葉である。柴田は言葉に緊張感を漂わせた。

「(表彰式の後に)ロッカーに戻って、来週またリーグ始まるから現実に戻ろう、という話が出ていました。(優勝の)いい流れをリーグ後半戦に持っていきたいですが、勝ったことで浮つかないようにしたい。リーグ後半戦の10試合を、全部勝つ気持ちで戦います」

 一方、敗れた千葉のキャプテン、DF林香奈絵も言葉に力を込めた。

「私たちは負けた側なので、逆に思い切っていけるのでやりやすい。失うものがない気持ちで、皇后杯の借りをリーグ戦で返せたらと思います」

 浦和は3位、千葉は4位で勝ち点は同じ「16」。“再戦”が白熱することは必至だ。リーグ戦だけに、今回の決勝とは対照的にオープンな撃ち合いになる可能性もある。試合は3月5日、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で14時にキックオフを迎える。

今週末から始まるWEリーグで逆転優勝を目指す
今週末から始まるWEリーグで逆転優勝を目指す

*写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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