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WEリーグ発足で日本の女子サッカーはどう変わったか?欧米主要リーグとの比較から見えてくるもの

松原渓スポーツジャーナリスト
首位を独走中のINAC神戸。1試合の平均観客数(2,656)もトップ(写真:アフロスポーツ)

 「世界一の女子サッカーを」というビジョンを掲げ、「WEリーグ」は今年9月にスタートした。

 歴史を作るプロ開幕ゴール、意表をつく技巧プレー、創造性溢れるスーパーゴール、試合の流れをガラリと変えるビッグセーブ。ダイナミックなカウンターアタック、巧みな心理戦を織り交ぜた1対1、息を呑むような逆転劇――。毎節、様々な見どころがあった。各節のゴールはハイライト映像でも見られる。

 リーグ開催期間は9月から5月までで、1月から3月上旬までウインターブレイク(冬休み)を設けている。中断前最後の試合として予定されていた第11節(12月4日)が延期となったため、リーグはひとまずここでひと区切りとなる。

 ウインターブレイク中は、皇后杯が行われる。プロ・アマの垣根を超えて日本一の座を競う一発勝負の試合は、数々のジャイアントキリングやドラマを生み出してきた。

 今年はすでに、なでしこリーグの各チームや各地域予選を勝ち抜いてきた大学、高校などがトーナメントを戦っている。WEリーグの11チームは、12月25日の4回戦から出場する。

 WEリーグ発足によって、どのような変化があったのだろうか?

 前半戦の10節を振り返ってみると、拮抗した試合が多かった。全50試合のスコアの内訳は、ドロー、1点差、2点差の試合が14試合ずつで、全体の8割以上を占めた。

 その理由を考えると、各チームの守備力が向上したことが大きいのではないかと思う。

 特に、前半戦は最後の砦であるゴールキーパー(GK)の活躍が光った。GKは守備の出来を左右するゴールの番人だが、ビルドアップに参加することもあり、コーチングで攻撃に優位性をもたらすこともできる。

 その点で、前半戦の主役は紛れもなく、INAC神戸レオネッサのGK山下杏也加だろう。

山下杏也加
山下杏也加写真:アフロスポーツ

 ここぞという場面でビッグセーブを連発し、開幕から8試合連続無失点の新記録を作った。持ち前の反射神経と跳躍力、プレッシャーの中でも動じないメンタリティを見せつけ、日テレ・東京ヴェルディベレーザから移籍1年目でその実力を発揮。脚光を浴びるのはシュートストップの場面だが、コーチングも武器。味方に強く要求することもあるが、結果でチームに報いる姿勢はまさにプロフェッショナルだ。

 INACに次いで守備が堅かったのが、ともに失点数「5」のマイナビ仙台レディース(2位)と日テレ・東京ヴェルディベレーザ(5位)だった。

 マイナビ仙台の堅守を支えるGK松本真未子は、長く、しなやかに伸びる腕で、際どいクロスボールを吸い付けるようにキャッチする。前チームの三菱重工浦和レッズレディースでハイレベルなポジション争いを経験し、マイナビ仙台に移籍して2年目の今季、実戦で経験値を飛躍的に向上させている。

松本真未子
松本真未子

 9節では古巣に悔しい3失点負けを喫したが、「小さなずれをなくして、1cmにこだわっていけるかが勝利につながると思います」と、僅差の試合を自分たちのものにするために妥協せず、成長を続けている。

 ベレーザの守護神はGK田中桃子。なでしこジャパンのオランダ戦(△0-0)で代表デビューを飾り、その株を急上昇させている若手GKだ。クロスへの対応を強みとしており、足下の基礎技術の高さもある。ベレーザから出場機会を求めて2019年から2シーズン、2部(当時)の大和シルフィードにレンタル移籍。試合経験を重ねて腕を磨き、U-19代表の正守護神としてアジアを制覇した。WEリーグではどんな状況でも対応できる「準備の質」を磨く。

田中桃子
田中桃子写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 田中は21歳と若いが、「リラックスしすぎているぐらいの方が自分はいいパフォーマンスが出せるので、あえて緊張しないようにしています」と言うように、メンタルをコントロールする術も持っている。今後が楽しみな大器だ。

 なでしこジャパンが11月に行ったオランダ遠征では、アイスランド戦(●0-2)とオランダ戦の2試合で無得点に終わり、得点力不足が改めて浮き彫りになった。

 国内リーグでのGK陣の成長や活躍は、大きな目で見ればFWの鍛錬を促し、なでしこジャパンの得点力不足解消にもつながるのではないか、という期待を抱かせる。

 そうした観点から、皇后杯ではWEリーグのGKたちが見せる技術やコーチングにも注目してみたい。

 WEリーグ前半戦では経験豊富なベテラン選手たちの活躍も目立ったが、それはまた別の機会に取り上げたい。

【得点数に見る欧米主要リーグとの違い】

 WEリーグが「世界一の女子サッカーリーグ」になるために、まず欧州の主要リーグのレベルに追いつく必要がある。その点では、データを比較することも有効な手段だろう。

 たとえばゴール数には、明確な違いがある。WEリーグと欧米の主要リーグの1試合あたりの平均ゴール数は、以下の表の通りだ。

 ここでは、欧州でもプロ化が進んでいるフランス(ディヴィジオン・アン・フェミナン)、ドイツ(女子ブンデスリーガ)、スペイン(プリメーラ・ディビシオン・フェメニーナ)、イングランド1部(FA WSL)の4リーグと、アメリカの女子プロサッカーリーグ(NWSL)を例に挙げた。

表は筆者作成。各リーグ公式サイトの試合データより独自に算出
表は筆者作成。各リーグ公式サイトの試合データより独自に算出

 欧州各国はシーズン中だが、ここまで1試合あたりのゴール数は2.93〜3.41である。その数字と比較すると、日本(WEリーグ)とアメリカ(NWSL)は少ない。

 この差を生じさせている理由として考えられるのは、得点力のあるFWの存在と、リーグ内の戦力格差だ。

 欧州リーグは、上位2、3チームと下位の間に明確な力の差がある。バルセロナやアーセナル、リヨンなどのビッグクラブには強豪国の代表FWがいて、5点差以上をつけて大勝することもあるほど。そのため、リーグ全体のゴール数が必然的に多くなっている。

 一方、アメリカ(NWSL)は戦力均衡のためにドラフト制度やサラリーキャップ制度を導入していて、アメリカ代表選手をはじめ、各国代表クラスの選手たちが各チーム、各ポジションに散らばっている。そうして意図的に戦力を均衡させていることが、試合を面白くしているのは間違いないだろう。アメリカはFIFAランキングで不動の1位をキープしてきた女子サッカー大国で、競技人口も世界一。リーグの1試合あたりの平均観客数(今季)は4,379人と、安定した集客力を見せている。

 その点、WEリーグの選手獲得は自由競争で、オフには日本代表クラスの選手が動く大型移籍もあった。上位クラブに戦力の一極集中が起きていないのは、WEリーグの魅力と言える。ただし、コロナ禍が続いていることもあり、海外の大物選手獲得はまだ実現していない。

 欧米の強豪国に追いつくために、得点力のあるストライカーの養成や外国人スター選手の招聘は、今後力を入れていきたいポイントだ。

 また、WEリーグは1試合あたりの平均観客数の目標を5,000人としているが、これまでの平均は1,715人にとどまっている。興行として確かな成果を出し、健全なリーグとして存続させていくために、リーグを中心に集客の取り組みは強化していってもらいたい。

 後半戦では、前半戦で見えた好変化を継続しつつ、更なるポジティブな変化にも期待している。

 WEリーグの後半戦は、2022年3月5日に再開される予定だ。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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