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「絶対に勝つことが大事」。なでしこジャパンが強豪・オランダ戦で試される、アイスランド戦からの修正力

松原渓スポーツジャーナリスト
新体制で初陣を迎えたなでしこジャパン(写真提供:JFA)

 11月25日(日本時間26日)、新生なでしこジャパンのアイスランド戦が行われた。池田太(いけだ・ふとし)監督の初陣とあって、多くの注目を集める一戦。戦略はどう変わり、選手たちはどう活躍するのか、興味深く見守った。

 結果は0-2で敗れた。アイスランドは、日本にとって過去3試合すべて勝っている相性の良い相手。にもかかわらず、今回は完敗に近い内容に終わった。

 池田監督は、この大会に海外組5名を初合流させた。現地入りしてからの練習は2日間のみだ。一方、アイスランドは、ハルドルソン新監督の下、W杯予選など、すでに7試合以上をこなしてきている。

 同国の主力にはドイツやイングランド、フランス、アメリカ、スウェーデンなどの強豪リーグでプレーする選手がいる。また、「男女の区別がなく、同じように機会が与えられて、まったく同じレベルのこと(指導)をしている」(ハルドルソン監督)ことも、女子代表チームの強化を後押ししているようだ。アイスランドは世界経済フォーラムが発表しているジェンダー・ギャップ(男女格差)指数で、11年連続世界1位。その風潮は女子サッカーにも好影響を与えている。

アイスランド女子代表(写真提供:JFA)
アイスランド女子代表(写真提供:JFA)

 そうした中で、チームの完成度や個のレベルに差があったことは否めない。ただし、1月にW杯アジア予選を兼ねたアジアカップを控える日本にとって、今回の遠征は非常に重要なチームづくりの場。同大会では、準備期間の少なさは言い訳にはならない。

 相手陣内でボールを奪い、素早い攻撃でゴールを目指す。そのために、池田監督は攻守において守備の強度や攻撃のスピードアップを意識づけしてきた。そして、「我々のコレクティブでアグレッシブなサッカーがどのぐらい力になるかを試したい」と、試合前に意気込みを語っていた。そのチャレンジの意図は確かにみられたものの、リスク管理に甘さがあった。そして、最後まで1点は遠かった。

 前半14分の1失点目は、攻撃面でパスやポジショニングなどのミスが重なり、中盤でボールを失ってカウンターを浴びた。深夜にもかかわらず観戦していた人々のため息が聞こえてきそうな失点だった。GK池田咲紀子の手のひらの先を、角度のあるシュートがかすめ、ゴールに吸い込まれていった。

 相手ボランチへのマークが曖昧になっていたことも、先手を取れなかった要因の一つだ。

 その曖昧さは前半のうちに解消されたが、1点を返せないまま、71分にはロングボールから2点目を失った。

 MF長谷川唯は、「もっと早く修正できるようにすることが大切ですし、攻撃のバリエーションは本当に少なかったと感じています」と、反省の弁を口にする。日本がボールを持つ時間は長かったが、ゴール前では連携のアイデアが不足し、停滞感が漂った。

 そうした膠着状況をこれまで何度も打破してきたのがFW岩渕真奈だ。だが、この試合では、リーグ戦で負ったケガの状態が思わしくなく、最後までベンチから試合を見守ることに。

 また、ディフェンスリーダーのDF熊谷紗希もこの試合は不出場。代表経験の浅い選手が多い中、最終ラインをリードしたDF南萌華は、「ロングボールが少なかったと思います。味方の立ち位置をもっと自分から指示していけたら」と、声でもチームをリードしていく必要性を語っている。

 少ないチャンスを生かし切る決定力にも差があった。

 1ゴール1アシストの活躍でアイスランドを牽引したのは、FWスベインディス・ジェーン・ヨンスドッティル。昨年同国1部リーグで得点王を獲得した20歳は、一度スピードに乗らせてしまうと止めるのは難しい。最も警戒していた選手だったが、結果的に左サイドを二度、破られている。

 さまざまな課題が浮き彫りとなった試合だが、ボールを奪った後の攻撃のテンポやパスのスピード感が少なからず上がったことは、今後に向けて可能性を感じさせた。また、新戦力のプレーにも見どころがあった。

 たとえば、約3年ぶりの代表戦となったボランチのMF長野風花は、相手のプレッシャーをかわすタッチや、密集を通すスルーパスなど、その成長をプレーで示した。「自分がドリブルで侵入したり、相手の隙をつくようなパスを出す、その一瞬を逃さないというところも突き詰めていく必要があると感じました」と悔しそうな表情で振り返ったが、試合の中で見せた調整力の高さは、今後への期待を抱かせる。

長野風花(写真提供:JFA)
長野風花(写真提供:JFA)

 また、右サイドハーフで代表デビューしたMF成宮唯は、見えている視野の広さと機動力の高さを示し、惜しいシーンを何度か作り出した。後半途中から同ポジションで出場したMF宮澤ひなたも、持ち前のスピードやパスセンスを生かして守備から流れを引き寄せている。3人とも代表経験こそ浅いが、WEリーグでの好調ぶりを示すように、プレーが堂々としていた。そして、彼女たち新戦力のサポート役として光ったのが、不動の右サイドバックとしてチームを支えるDF清水梨紗だ。

「勝負事なので絶対に勝つことが大事ですし、そこは絶対に求めていかなければいけない部分です」

 代表でも中堅の年齢(25歳)になり、リーダーへと成長しつつある清水は、今回の遠征に向けてそう語っていて、プレーにも気迫がみなぎる。

 11月29日(日本時間30日)には、ハーグで、オランダ代表との対戦が予定されている。オランダは、圧倒的な高さとスピードを持つ選手たちを擁する強豪国。日本が苦手とするクロスやロングボールを使った攻撃はオランダの“お家芸”でもある。中3日の短期間ではあるが、なでしこジャパンはアイスランド戦で出た課題を修正し、次こそは新生チームの「色」をしっかりと出したゴールを見たい。

 1月のアジアカップに向けて試金石となる注目の一戦は、11月30日(火)、午前3時40分から、BSフジで生中継される。

池田太監督(写真提供:JFA)
池田太監督(写真提供:JFA)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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