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WEリーグが9.12開幕。AC長野パルセイロ・レディースの攻撃サッカーを牽引する“ダブル瀧澤”に注目

松原渓スポーツジャーナリスト
1.5列目で攻撃を作る瀧澤莉央(一番左)と瀧澤千聖(一番右)(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 日本女子プロサッカーリーグ、「WEリーグ」が、いよいよ9月12日に開幕する。

 初年度を戦う11チームは、今年2月に新体制で始動してから約半年間、プレシーズンマッチや国内合宿などを行い、チーム作りを進めてきた。夏以降、新たな選手獲得を発表したチームもあり、プロ化初年度、女子サッカーの勢力図がどう変化するのかは見どころの一つだ。

 昨季、なでしこリーグ2部で戦ったAC長野パルセイロ・レディースにとって、WEリーグ参戦は実質、2つ上のカテゴリーへの挑戦となる。地域密着に力を入れ、地元に愛される人気クラブの一つとして女子サッカーを盛り上げてきたが、WEリーグ参加を機に、これまで以上に育成も含めたクラブの土台強化を図っている。高卒や大卒ルーキー、県内出身選手の獲得に力を入れ、各地に足を運んでの選手獲得など、チームの強化を担ってきた小笠原唯志氏が、今季から新監督に就任した。

 WEリーグは、リーグの安定化を図るため、複数年は降格がない。そのため、長期的な強化計画の下、着実なステップアップを見据えている。

 一方、即戦力の補強もしている。アルビレックス新潟レディースからMF瀧澤莉央、INAC神戸レオネッサからMF八坂芽依ら、なでしこリーグ1部で実績のある選手たちが加入。6月末には、長野からイタリア・セリエAに渡り、2シーズンの海外挑戦を経てボランチのMF國澤志乃が復帰し、頼もしい戦力となった。

 小笠原監督が目指すのは、相手や試合状況、時間帯によって戦い方を変化させていく「カメレオンサッカー」だ。

 4月から6月にかけて行われたプレシーズンマッチでは、試合ごとに異なるテーマを持って臨み、結果は2勝2敗。「(昨季)1部のチームに対して、自分たちの力をどれだけ出せるか」というテーマで臨んだINAC神戸レオネッサ戦は0-3で敗れ、「ボールを動かすこと」をテーマにした新潟戦は1-2で、2連敗を喫した。しかし、3試合目のノジマステラ神奈川相模原戦では「超アグレッシブ」をテーマに、攻守に攻めの姿勢を貫いて1-0で競り勝ち、プレシーズンマッチの集大成と位置づけた4戦目のちふれASエルフェン埼玉戦は、2-1で接戦を制した。試合中のシステム変更や、選手の幅広い起用で様々なチャレンジをし、新チームの輪郭が見えてきた。

 その中で、今季の新たな攻撃の軸になりそうなのが、MF瀧澤莉央とMF瀧澤千聖の“ダブル瀧澤"だ。

【プレシーズンマッチで放った存在感】

 新加入のMF瀧澤莉央(たきざわ・りお/新潟県出身)と、3年目のMF瀧澤千聖(たきざわ・ちせ/長野県出身)。「瀧澤」姓、北信越出身という共通項に加え、ポジションも重なっている2人が、長野でタッグを組むことになった。

 2人は初対面ではなく、神奈川大学とFC十文字VENTUS時代に関東女子リーグで対戦経験がある。瀧澤千聖は、「(神奈川大学と)対戦した時に莉央さんのプレーは見ていましたし、苗字が同じだ!と思っていました(笑)」と、当時から気になる存在だったことを明かした。そして、彼女の加入によって自らのプレーにも好変化があったと語る。

瀧澤千聖
瀧澤千聖写真:松尾/アフロスポーツ

「自分は背が小さいし、相手を背負ったり、くさびのパスを受けるのは苦手でしたが、莉央さんが(トップ下に)入ってしっかり収めてくれて、個人で前を向くことができるので助かります。その間に自分がフリーランで裏に抜けたり、ワンタッチで落としてコンビネーションから崩したりと、プレーの選択肢が増えました」

 一方の瀧澤莉央も、千聖とのコンビネーションに手応えを感じている。「元々、お互いの存在やプレースタイルは知っていたのでやりやすかったです。今は自分がボールを持ったら千聖を見ることが多いですし、前を向いたらタイミングよく裏に抜けてくれるので、ラストパスの質を上げつつ、お互いが選択肢を増やしながらプレーできれば、もっとゴールにつながるのではないかな?と感じています」

瀧澤莉央
瀧澤莉央写真:森田直樹/アフロスポーツ

 1.5列目でゲームを作ることができる瀧澤莉央は、まさに、長野が求めていたピースだろう。156cmと小柄だが、的確な予測力と柔らかい身のこなしで相手のプレッシャーをかわし、前線でタメを作ったり、攻撃に緩急をつけることができる。新潟では、本職ではないボランチやサイドで起用されることが多かったが、慣れないポジションで奮闘した経験が、視野や技術、判断スピードの向上につながった。

「ボランチは広い視野が必要で、最初は苦しみましたが、相手が来る前に周りを見てワンタッチで出したり、プレッシャーの中でプレーする練習を重ねていました。長野ではその成果を生かせていると思うし、FWや1.5列目でプレーできて、楽しいです」

 瀧澤は、そう声を弾ませた。加入して数カ月で臨んだプレシーズンマッチでは、ゲームメーカーとして存在感を発揮。「攻め急いでボールを失わないように、試合を落ち着かせたり、ボールを回しながら相手を揺さぶって前に運ぶことを意識しています」との言葉通り、持ち前のパスセンスを生かして2つのアシストを決めた。

 小笠原監督は、瀧澤莉央がストライカーにもなれる選手で、得点源にもなると考えている。ただし、WEリーグには代表クラスのDFも多く、瀧澤にマークが集中する可能性もあるだろう。そうなった時には、周りとのコンビネーションで、いかに「点を取らせるか」が重要になる。瀧澤自身が1部で国内トップクラスのDFと対峙してきたからこそ、練習時からイメージを伝えて、周囲のレベルを引き上げながら連係を高めている。

「WEリーグで対戦する選手たちの上手さやフィジカルの強さはわかっているので、『今のプレーでは寄せられるよ』とか、『今のは一歩遅い』ということを細かく伝えるようにしています。特に、近いポジションでプレーする(瀧澤)千聖や(中村)恵美たち(若手選手)が、上の相手に対しても通用するように、自分の経験を伝えています」

 年齢的には中堅の24歳だが、長野が強豪揃いのWEリーグでも戦えるよう、チームを引き上げる存在として期待が高まる。

【3年目の自覚と背番号の重み】

 一方、瀧澤千聖にとっても、今年は勝負の年となりそうだ。WEリーグで、背番号10をつける選手の中では最年少の20歳だが、ピッチの中ではチームを引っ張る立場になりつつある。

 152cmと小柄だが、その分、守備では二度追い、三度追いをして粘り強くアプローチし、攻撃ではアジリティや運動量でチームを助けてきた。2シーズンで決めたゴールは「1」と、目に見える結果は出せていない。それでも、ピッチに立ち続けてきた中で、体得してきたものがある。自身の現在地について語る明快な言葉からも、その積み重ねが感じられた。

「1年目は仕掛けても取られるし、シュートは威力がなくて届きませんでした。でも、2年目は自分がどこのエリアでどういうプレーをするべきかを理解した上で選択ができるようになり、様々なフォーメーションやポジションで練習する中で、プレーの幅は広がったと思います。守備は(元々)できる部分もあったので、そこから逆算してどう攻めるか、どのスペースを空けるためにドリブルするか、といったことが頭の中で整理されてきて、相手を見ながらプレーすることができるようになりました」

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 今季は、「5得点5アシスト」を目標にしている。プレシーズンマッチは、FW泊志穂の2得点に絡むなど、存在感を示した。ただし、指揮官がエースナンバーを背負う20歳に求めるものは、そうした数字だけではない。小笠原監督は、サッカーの技術や理解度を高めることと同じぐらい、「選手たちにハングリーになってほしい」と、言葉に危機感を滲ませる。

「レギュラーとしてプレーする選手たちはしっかり戦えるけれど、メンバーを変えたら大きく(力が)落ちてしまう。それは、どのチームにも言えることだと思います。次世代を担う若い世代がしゃかりきに上を目指したり、責任感を、女子サッカー界全体で持っていかないといけない。Jリーグはプロでお金をもらってどんどん上でやれる選手たちが出てきているけど、女子もプロリーグができたのだからそうならないといけないし、見てくれる方たちに、『あの子たち、下手だったけど、めちゃ上手くなったね』と言わせたい。長野の子どもたちに(女子プロサッカー選手になりたいと思ってもらえるような)夢を示していかないといけないんです」

 県内出身の瀧澤千聖に背番号10を託したのも、そうした想いからだろう。それは、瀧澤自身も自覚している。自分から周囲に働きかけて奮起を促すようなタイプではなかったが、今は練習や試合で積極的に声をかけて、周りを引き込もうという前向きな姿勢が垣間見える。

「背番号については、ちょくちょくスタッフとかにもハッパをかけられています。プレーに(好不調の)波があったり、言われすぎてしんどくなることもありますが(笑)、子どもたちに夢を与えられる立場だと思うので、しっかり、背番号の重みや責任も感じながらプレーして、『1試合1試合成長しているな』と思われるようなプレーをしたいと思います」

 瀧澤莉央という頼もしい先輩が加わり、プレーでもメンタル面でも、瀧澤千聖の成長する姿が見られるだろう。

 瀧澤莉央は、長野サポーターの前でプレーすることを楽しみにしている。2019年にアウェーで長野と対戦した際、2300人近い観客が入った長野Uスタジアムでプレーした中で味わった感動が、移籍の決め手にもなったと言う。

長野サポーター(筆者撮影)
長野サポーター(筆者撮影)

「あんなに多くの観客の前でプレーしたのは初めてでした。本当にスタジアムの雰囲気が良くて、スタンドとピッチが近くて声援が直接届くのも衝撃的でした。この中でプレーできたらいいな、と思っていました」

 9月12日のリーグ開幕戦は、アウェーで古巣の新潟と対戦する(デンカビッグスワンスタジアム)。長野Uスタジアムでのホーム開幕戦は9月18で、相手は代表選手を多数擁する、日テレ・東京ヴェルディベレーザだ。強豪との連戦で、瀧澤コンビがチームにどのようなエネルギーを生み出すのか、その活躍に注目したい。

 なお、WEリーグはDAZN(ダゾーン)で全22節、110試合が放映されるため、遠方のスタジアムに足を運べない人でも試合を楽しむことができる。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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