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なでしこジャパン、五輪初戦は強豪カナダに貴重な勝ち点「1」。メダルへの道に必要なピースは?

松原渓スポーツジャーナリスト
五輪初戦に臨んだなでしこジャパン(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 初戦の難しさは分かっていた。FIFAランク8位で、五輪では2大会連続銅メダルの強豪、カナダ。立ち上がりから勢いを持って向かってくることも、予想はできた。

 しかし、なでしこジャパンは開始早々に、最も警戒すべき選手に決められ、難しい試合運びを強いられることになった。

 東京五輪初戦でカナダと対戦した日本は、前半6分、右サイドのスペースをスピードに乗ったFWニシェル・プリンスに深く抉られ、マイナス気味のクロスをFWクリスティーヌ・シンクレアに押し込まれる形でリードを許す。その前のプレーでサイドバックが誘い出され、センターバックがサイドに釣り出されて、中央が手薄になったところでクロスを上げられた。この形は、この後も何度か見られた。結果的にオフサイド判定に救われた60分のシーンも同様だ。ゴールが認められていたら、日本にとって心を折られ、致命傷となりかねない2点目だった。

 敗戦も覚悟せざるを得ない内容だっただけに、84分のFW岩渕真奈のゴールは、日本にとって希望の光となった。

「前後半を通して、足元でボールを受けに入るシーンが多かったのですが、(同点)ゴールのシーンはボールを持っていた(長谷川)唯がフリーで、敵が(自分に)食いついたのが見えたので思い切って裏に走りました」。

 岩渕のその狙いを、MF長谷川唯も感じていた。守備でも貢献した岩渕は、今大会から背負うこととなった背番号10の覚悟や責任を、これ以上ない形で示した。

岩渕真奈(中央右から2番目)のゴールで同点に追いついた
岩渕真奈(中央右から2番目)のゴールで同点に追いついた写真:森田直樹/アフロスポーツ

 ただ、チームとしては、今大会のスタートにあたって不安を残した。結果は1-1のドローだが、攻守ともに持ち味を出していたのはカナダだった。五輪が4大会目となるシンクレアは、この試合で国際Aマッチ出場数を初の「300」に乗せ、ゴール数を「187」に伸ばしている。

 守備では、前述したようにサイドバックの背後のスペースを使われた際の守備に課題を残した。センターバックのDF南萌華は、今後も同じようなシーンを狙われる可能性があることを踏まえて、対策として、「サイドバックの立ち位置の確認や、ボールホルダーにしっかりプレッシャーをかけるための全体の守備」を再確認していくことを明かした。それでもセンターバックである自分が釣り出された際には、「判断良く出てクロスを上げさせないところに意識を向けること」と並行して、「ボランチの選手を下げたり、逆のサイドバックをしっかり絞らせてスペースを埋めること」などを挙げ、次の試合に向けて修正点はしっかりと整理されているようだった。

 一方、日本の攻撃は前からの速いプレッシャーでパスコースを封じられ、サポートが間に合わず、ミスによってリズムを失った。ボール保持率は、日本「41」対カナダ「59」(公式記録より)。日本の生命線と強調してきたポゼッションで大きく上回られている。相手にボールを持たせて、カウンターを狙うのならその数字は理解できるが、このチームはそういう戦い方を目指していない。それに、格上相手との試合を今大会直前のオーストラリア戦(○1-0)まで、1年以上経験できていなかった。

「立ち上がりに失点したことが、この試合をすべて難しくしてしまった」(熊谷)と言うように、ラインを上げても球際でボールに強くいけないシーンが散見された。2失点目を恐れてボールを失うことに対して慎重になり、個々のプレーの迫力やチーム全体の勢いが削がれた面もあるだろう。

 この試合に先発したカナダの選手は、全員が2016年のリオデジャネイロ五輪の銅メダル経験者だった。難敵と覚悟はしていた。だが、個も組織も技術も上回られれば、世界に通用する日本のアドバンテージはなくなってしまう。

 数値上のデータからは、高さやパワーやスピードで敵わなくても、持久力やスプリント力など、自分たちよりも大きな相手に対して上回る面があることも分かっている。だからこそ、「接近」、「展開」、「連続」というキーワードでボールを動かし、相手をいかに走らせるかーー「長い距離のスプリント勝負では厳しいので、そうさせないためには、自分たちのストロングを出していくこと」。アメリカで指導し、日常的に海外勢のリーチやスピードをデータでも管理している今泉守正コーチは、今大会の前にそう話していた。しかし、国際大会で結果を残す国は、相手の良さを戦略的に消してくる。相手の急所をしたたかに突いていくという点では、経験値の差も否めない。

 日本はホスト国だが、FIFAランク10位の日本は、今大会に出場する12チームの中では上から8番目の“チャレンジャー”だ。優勝候補とは見られていないだろう。だが、本気でメダルを目指している。

 2012年のロンドン五輪で銀メダルを獲得した澤穂希さんは、カナダ戦に対して率直な意見と、東京五輪でメダルを目指す選手たちへのエールを送っている。

「いいところもたくさんあったと思いますが、本当にメダルを取りたいと思っているのであれば、もっともっと戦わなきゃいけない。この1試合に懸けて、90分間終わって、倒れた選手が何人いるか。何が何でも勝ちたい、勝たなければいけない、というプレーをしていた選手が何人いるかな?と疑問を持ちました。次のイギリス戦は、全員がそういうところを見せてくれることを望んでいます」

 日本は、24日に、W杯ベスト4のイギリス戦を迎える。22人のメンバーのうち19人はFIFAランキング6位のイングランド代表選手たちで、総合的に見てカナダよりも力は上だ。

 今大会の日本のメダルは、高倉麻子監督や選手たちが掲げる「1試合ごとに成長する」という決意が実現できるかどうかに懸かっている。初戦で銅メダリストのカナダとの厳しい試合を経験したチームが、ひと回り成長した姿を見せてくれることを期待したい。

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

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スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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