【後半はワンサイドゲームに】

 6月10日にエディオンスタジアム広島で行われた国際親善試合のウクライナ戦で、なでしこジャパンが8-0の大勝を飾った。4月のパラグアイ、パナマとの2連戦(いずれも7-0で勝利)に続く3連勝。7月の五輪に向けて攻守の完成度を高めることと、18名の選手選考の見極めも兼ねた強化試合が続いている。中2日の五輪本番を見据え、13日にはメキシコ戦(カンセキスタジアムとちぎ)を戦い、6月中旬以降に五輪メンバー18名が発表される。

 コロナ禍で対外試合の機会が限られる中、パラグアイ戦から日本はある程度チームの軸を固めた戦い方にシフトしている。今回、4月にはクラブの事情で招集されなかったキャプテンのDF熊谷紗希も合流し、スタメンに名を連ねた。

 FIFAランク11位の日本に対し、31位のウクライナは、近年急成長を遂げている欧州の女子サッカー界の一角で、2023年のFIFA女子W杯に向けて強化を進めている。国内トップリーグは10チームで、代表チームはほぼ、そのうちの2チームから構成されている。その2チームが、6月5日に国内リーグ決勝で対戦したばかりでコンディションは良く、「日本はW杯予選で当たるスペイン(ランキングは13位)と同じレベルだと思うので、対戦から収穫を得たい」(ナタリア・ジンチェンコ監督)と、試合への高いモチベーションを見せていた。だが、フタを開けてみれば実力的な差に加え、真夏同様の気候も日本に大きく味方した。ウクライナは夏でも気温は20度台半ばで比較的乾燥している。一方、この試合は15時過ぎのキックオフ時の気温が33度で、立っているだけでも汗が滴るほどの炎天下。ウクライナは立ち上がりこそ勢いを見せたが、失点を重ね、覇気を失っていった。

ウクライナ女子代表(筆者撮影)
ウクライナ女子代表(筆者撮影)

 日本のフォーメーションは4-4-2で、先発はGK山下杏也加、最終ラインは右からDF清水梨紗、DF熊谷紗希、DF宝田沙織、DF北村菜々美。ボランチはMF中島依美とMF三浦成美、両翼は左にMF長谷川唯、右にはこれが代表デビュー戦となるMF塩越柚歩。2トップは、FW岩渕真奈とFW菅澤優衣香が3試合連続で起用されている。

 試合は、立ち上がりの3分に、左サイドの縦パスから日本の高いラインの背後に抜け出されるピンチを迎えた。ここはGK山下が飛び出して遅らせる積極的な判断でピンチを凌ぎ、直後の5分に先制点が生まれる。岩渕が左サイドの高い位置でボールを奪い返してペナルティエリア内に侵入すると、マイナスのパスを中央で菅澤がスルー。走り込んだ塩越が右足インサイドで合わせてGKの逆を突くビューティフルゴール。開始5分での代表初ゴールとなった。その後はボールを支配しながら攻撃に停滞感が見られたが、30分に、右サイドで長谷川のスルーパスを受けた中島のクロスを岩渕が合わせて2-0。38分には、右コーナーキックから宝田が豪快ボレーでゴールネットを揺らす。年代別代表でFWとして活躍してきた宝田の魅力が詰まったA代表初ゴールとなった。さらに、42分には塩越の2点目が生まれる。長谷川のクロスを菅澤が頭で落とし、岩渕がシュート。相手に当たって難しい回転のボールを右足で抑えたシュート。これがゴール左隅に決まり、4点差で前半を折り返した。

塩越柚歩
塩越柚歩写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 後半の立ち上がりは、引いたウクライナに対して攻撃が手詰まりになるシーンも見られたが、5点目で再び試合が動く。58分に長谷川が左サイドからクロスを上げると、相手のクリアに反応した逆サイドの塩越が中央に落とし、岩渕が蹴り込んで5-0。

 その後は60分にFW田中美南とFW籾木結花、67分にMF杉田妃和とMF林穂之香を投入。中島がアンカーで、杉田と林がトップ下に入る4-3-3にシステム変更する。杉田と林が前線からの守備を活性化すると、76分に投入されたFW遠藤純が、ドリブルと精度の高い左足で決定機を作り出す。80分には左コーナーキックのこぼれ球を杉田が抑えたボレーで決めて6-0。83分にはセンターバックにDF土光真代を投入。89分に中島のクロスが相手のハンドを誘い、PKを田中が決めた。その1分後には遠藤がドリブルで3人の間をすり抜けて左サイドを突破、ゴール前を綺麗に抜けたボールを籾木が決めて8-0。

 後半はシュートを一本も打たせず、ワンサイドゲームで締めくくっている。

【大勝から見えた課題と収穫】

 五輪本番で決勝、あるいは3位決定戦まで勝ち進むことを想定すれば、中2日で6試合を戦うことになる。五輪は交代枠が従来の「3」から「5」に増える。そうした中、高倉麻子監督はチームの「核」は作りながらも、試合によって大きくメンバーを変えるターンオーバーの可能性を示唆。練習では様々な組み合わせでプレーしており、どの選手が出ても戦力が大きく落ちないチーム力を培ってきた。だからこそ、交代枠が増えることは、日本にとってプラスに働く可能性がある。

 最大の懸念は、コロナ禍で格上の相手とのマッチメイクができず、そうした成長を本質的に見極めるのが難しいことだ。映像と実際のピッチで体感する相手の強度やスピードの誤差も、不確定要素となる。2019年のW杯の後、日本はカナダ、南アフリカとの国際親善試合に加え、E-1選手権でチャイニーズ・タイペイ、中国、韓国と戦い、5戦全勝、無失点と好調だった。しかし、昨年3月のシービリーブスカップで強豪のスペイン、アメリカ、イングランドに3連敗したことで、積み上げたように見えた自信が一気に危機感へと変わった。

 そうした苦い経験を糧に、攻守のコンセプトをより細部まで突き詰めてきた。また、今年に入って欧州やアメリカなど、強豪リーグでプレーする海外組が増えたことも、海外勢との間合いに慣れるという点でアドバンテージとなる。

アーセナル(イングランド)でプレーする岩渕真奈
アーセナル(イングランド)でプレーする岩渕真奈写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 今回のウクライナは、五輪のグループステージで戦うカナダやイギリスなどの強豪国を想定できる相手ではなかった。だが、その中でも得られた課題と収穫はある。

 熊谷が「チームとしてふわっと入ったところがあった」と振り返ったように、試合の入り方は課題の一つだ。体の大きいウクライナの選手たちの間合いを掴んでいない時間帯だっただけに、「(試合の)最初は人数をかけて守っても、すり抜けられるシーンが何シーンかあった」(高倉監督)と、虚をつかれる形になった。幸い失点は免れたが、五輪に出場する国には、ワンチャンスを抜け目なく決めてくるストライカーがいる。酷暑が予想される中、早い時間帯の失点は精神的にもきついはずだ。

「最初から縦に(勢いを持って)くる感じは久々でした。アメリカなどは、最初の5分の勢いがすごいので、最初のプレッシャーをどういくかということは改めて確認しました」と振り返ったのは、ピッチ中央で攻守を司る三浦。

 同じく中盤のキープレーヤーである杉田は、「マッチアップする相手に対して、1対1でも球際でも、最初の勝負が大事」と、ファーストプレーで強く当たることを徹底していくと明かした。

三浦成美
三浦成美写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 立ち上がり以外には大ピンチにつながるようなシーンはなかったが、ボールを持つ時間が長い中で、攻撃が停滞する時間帯が少なからずあったのは気になった。ウクライナは球際の強さが感じられず、ゴール前ではボールウォッチャーになる傾向があったが、自陣に引いた際はコンパクトなブロックでスペースを埋めていた。そのため、相手を効果的に動かしたいところで、縦パスやロングパスを奪われるシーンもあった。

 それは選手同士の距離感の悪さに起因しているように感じた。選手同士が流動的にポジションを変えながらボールを動かしたり、2列目の選手がFWを追い越す動きは日本の良さでもあるが、シュートで終われなければ、カウンターを受けるリスクが高まる。岩渕は、その点をこう振り返る。

「パスだけでなく、スペースに運んで出す、というように、それぞれがもう少しボールを運ぶことで相手を動かせると思います。一歩、二歩先を共有することでいい形が生まれる。後半は何本かありましたけど、そういうシーンが日本らしさでもあると思います」

 岩渕が言うように、後半は中央で3、4人が絡んでテンポよく崩す理想的なコンビネーションも見られた。サイド攻撃から生まれたゴールが多く、選手交代やシステム変更も含めて試合中に修正できたのは収穫だろう。

 セットプレーの流れから複数得点できたことや、比較的代表経験の浅い塩越、北村の活躍は、チームの収穫でもある。

 代表デビュー戦となった塩越は、60分間の出場で2ゴール1アシストとアピール。1点目をお膳立てした菅澤が、「柚歩なら上がってきているかなと思って、スルーしました」と振り返ったように、ゴールへの嗅覚とシュート技術、大舞台でも浮き足立つことなくプレーできるメンタリティを感じさせた。

塩越(左)と先制点を演出した菅澤優衣香
塩越(左)と先制点を演出した菅澤優衣香写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 試合後は充実した表情で、「周りの選手とのコンビネーションや、1対1の球際など足りない部分も多いのですが、初めて試合に出て海外の選手と戦っていろいろなことを感じ取れました。『チャレンジャーの気持ちで、失うものは何もない』と思って思い切って試合に入った結果、いい形で2点取ることができて、結果を残せたことは良かったです」と、収穫の多い90分間だったことを明かした。ただ、五輪は18名の厳しい競争だ。メキシコ戦で出場機会を得られれば、求められている「ボールを呼び込む動き」もアピールしたいところだ。

 パラグアイ戦から3試合連続で先発している北村は、この半年間で一気にメンバー入りに名乗りを上げてきている。元々左サイドバックや左サイドハーフが本職だったが、今季加入したWEリーグの日テレ・東京ヴェルディベレーザでは、インサイドハーフでプレー。「両方のポジションをやるようになって、この時はこのポジションがいいな、と考えられるようになりました」と、プレーの幅を広げている。スピードと攻撃力を持ち味としており、この試合では中に絞って中央でプレーしたり、ワンタッチパスやアウトサイドを使った相手の意表をつくクロスなど、アイデアが光った。デビュー戦となったパラグアイ戦以降、試合を重ねて後ろからの声も出せるようになったという。今後は、「もっと(自分から)要求していかなければいけないと思っています」と、自らのプレーで局面を打開することにも意欲を見せる。

 短期決戦の五輪は複数ポジションでプレーできる選手が有利とされるが、ターンオーバーしながら戦うことを考えれば、一つのポジションに本職に近いクオリティでプレーできる選手が2人は欲しい。その点、塩越と北村は左右のサイドハーフと両サイドバックと、幅広いポジションをカバーできる。また、この試合ではピッチに立っていないが、DF宮川麻都も、サイドバック、サイドハーフ、ボランチをこなせるマルチプレーヤーだ。指揮官にとって悩ましい選考ポイントだろう。

(左から)北村菜々美、長谷川唯、高倉麻子監督
(左から)北村菜々美、長谷川唯、高倉麻子監督写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 レギュラークラスでは、杉田のプレーが攻撃のアクセントになる場面が増えている。長くボランチとしてプレーしてきたが、昨年末からサイドハーフ、そして今年は所属のINAC神戸レオネッサでFWとしてプレーしており、代表初ゴールを決めたパナマ戦からは2試合連続ゴールと、頼もしい。

「ゴールに向かうタッチやシュートへの持っていき方は意識して練習しています。裏への抜け出しはタイミングを考えながら行けましたし、相手の嫌なポジションや間のスペースを探して動き出せるようになってきたと思います」 

 そう手応えを口にしている。

 攻撃面では相変わらず、岩渕のチャンスメイクや決定力が群を抜いており、菅澤とのコンビネーションも安定している。チーム全体を声で動かすという点では、熊谷に加えて、清水のリーダーシップもチームの柱になりつつあると感じた。

 この試合でも試した4-3-3は有力なオプションだが、高倉監督は、「守備のところの追い込み方であったり、細かいところは若干、やりこんでいないところがある」と、課題も多いことを明かしている。こうした点を詰めていくのは、18名の発表後になるだろう。

【選考前ラストマッチへの期待】

 日本は中2日で、FIFAランク28位のメキシコと対戦する。五輪の大陸予選では世界女王のアメリカとカナダの後塵を拝しているが、男子同様、テクニックがあり、育成年代から力のある選手が育ってきている。五輪のメンバー発表は、このメキシコ戦後、6月中旬以降に予定されており、候補選手にとってはこれがラストアピールの場となる。今回の23名から18名とバックアップメンバー4名が選ばれる可能性が高いが、指揮官はその限りではないことも明かしている。

 最終的な判断基準は、3月の合宿も含めたラージグループの中で、「日本が世界で戦っていくために形作ろうとしているところに、フィットするかどうか」(高倉監督)。国際経験が浅い選手たちに求められるのは、「日本らしいサッカーを表現する力」ということになるだろう。その中で、チームを勝たせるラストピースになり得る選手が、最後の枠に選ばれることになる。

 日本の国内リーグは、プレシーズンで、ケガやコンディション不良などの不確定要素もあり、選手選考には様々な悲喜こもごもが伴う。だが、個々の選手が後悔のないプレーをしてほしいと心から願っている。

 また、その願いとは矛盾するようだが、選考の最終局面だからこそ、「ミスをしたくない」という思いや、「アピールしたい」という思いが判断ミスにつながる可能性もあるだろう。チーム全体としてはそうしたことも想定し、試合の中での修正力や、力強いゲーム運びを期待している。

宝田沙織、熊谷紗希
宝田沙織、熊谷紗希写真:YUTAKA/アフロスポーツ